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第二部 第68話 記憶を盗む者

轟音とともに、書庫の空間全体が軋みをあげた。

「裏切りの残滓」が放つ記憶の奔流は、過去そのものを武器と化し、アルトとファントムに襲いかかる。


目の前に現れたのは、アルトがかつて失った仲間の姿だった。

笑っていたはずのその顔が、苦悶に歪み、血に染まる。

「お前のせいだ……未来を盗む? お前は守れなかった!」


心臓を掴まれるような痛みに、アルトは膝を折りかけた。

だがその瞬間、胸元の《ルナの涙》が淡く脈打ち、彼の視界を青い光で満たす。


「……俺は盗賊だ。過去の悲しみも、後悔も、全部盗んでやる。」

アルトは立ち上がり、右手を伸ばした。

結晶の光が刃となり、迫りくる幻影を一閃する。


ファントムの前でもまた、幻影の嵐が渦を巻いていた。

正義を信じた若き日の自分、裏切った仲間たち、失った理想――。

その全てが糾弾の声となり、ファントムを包囲する。


しかし彼は仮面の奥で静かに笑った。

「そうだ。俺は裏切った。だが、その影を否定する気はない。影こそが俺の剣だ。」


マントを翻し、影を喰らう影の刃を繰り出す。

彼の剣とアルトの光が交わり、二重の螺旋となって残滓を貫いた。


「……ぐっ、馬鹿な!」

崩れゆく幻影が絶叫する。

「過去を受け入れるだと……? それは呪いだ、痛みだ、苦しみだ! なぜ抗える!」


アルトは声を張り上げる。

「痛みがあるからこそ、人は未来を選べるんだ! 俺は――全部を盗んで、全部を抱えて、未来に隠す!」


ファントムが笑う。

「その言葉、まさに怪盗だな。」


二人の力が重なり、《裏切りの残滓》の影が弾け飛ぶ。

黒い霧が四散し、残されたのはひとつの小さな結晶だった。


アルトが拾い上げると、それは静かに輝き、まるで問いかけるように震えていた。

――この記憶をどうするか、と。


アルトは答えを迷わず告げる。

「盗むさ。そして俺なりの未来に隠してやる。」


その瞬間、書庫を満たしていた幻影はすべて霧散し、静寂が戻った。

だが、それは終わりではなかった。

書庫の奥で、新たな扉が開き始める。


そこから溢れ出した光は、ただの記憶ではない――《契約》そのものの記録だった。

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