第二部 第65話 封印の書庫
月明かりの差さぬ夜、アルトとファントムは廃都の外れに立つ、黒曜石の塔へと辿り着いた。
塔はすでに崩れ落ち、外観は半ば廃墟と化していたが、その奥に「地下へ続く口」が隠されていた。
リリックが手渡してくれた古文書にはこう記されていた。
――《来訪者の記録は、封印の書庫に眠る》。
「どうやらここだな。」
アルトは低く呟き、手にした《ルナの涙》をかざす。
すると、瓦礫に覆われた床の文様が青く光を帯び、石が音もなく動き出した。
地下へと続く階段が姿を現す。
「鍵はやっぱり結晶か。」
ファントムが小さく笑う。
「しかし油断するな。こういう場所は歓迎してくれないぞ。」
二人は慎重に階段を下りていった。
地下はまるで永遠に続く回廊だった。
壁一面に奇妙な文字が刻まれ、淡い光で浮かび上がっている。
文字は人類のものではなかった。だが、《ルナの涙》を近づけるたびに、その意味が脳裏に直接流れ込んでくる。
――「ここに眠るは、契約の記録。選ばれし者よ、己の心を試せ。」
不意に、空気が重くなった。
前方に立ちはだかったのは、黒い影の兵士たち。鎧のように硬質で、しかし中身のない虚像。
「やっぱり出たな、門番か。」
アルトが苦笑する。
「影法師……契約の番人だろうな。」
ファントムがマントを翻し、影の剣を抜いた。
「アルト、行くぞ。これはただの戦いじゃない。――試練だ。」
二人は影の兵士たちに突っ込み、回廊に戦火が散った。
戦いの最中、アルトの手の結晶が再び輝きを放つ。
その光は影を裂き、同時に「声」を呼び覚ます。
――『問う。お前は何を望む? 力か、知か、それとも未来か。』
刃を交わしながら、アルトは叫んだ。
「俺が望むのは――奪われた未来を盗み返すことだ!」
瞬間、結晶が閃光を放ち、影の兵士たちは霧のように消えていった。
重い沈黙の中、回廊の奥の扉がひとりでに開く。
その先には、膨大な数の石板と、光を放つ「封印の書庫」が広がっていた。
ファントムが肩を竦める。
「どうやら試練は合格らしいな。」
アルトは汗を拭いながら、目の前の光景に息を呑んだ。
「ここにあるのは……来訪者が残した本物の記録だ。」
彼の胸の奥に、確信が芽生える。
――次に知る真実こそ、《ルナの涙》の本当の使命に繋がる。