第二部 第63話 星空の決戦
蒼穹を裂く閃光が降り注ぐ。
巨像は未来の断片そのものを武器に変え、幾千の可能性を槍や剣として投げつけてくる。
その一撃一撃には、重さと意味があった。
――「もしも」救われた未来。
――「もしも」滅びた未来。
それらを破壊することは、数多の命を否定することと同義だった。
アルトは跳躍し、刃で未来の断片をはじき返す。
「全部抱え込むことなんてできない。
だから――盗むんだ!」
彼の動きはしなやかで、ひとつひとつの斬撃は空間を裂くように精緻。
《ルナの涙》が彼の身体に共鳴し、蒼い軌跡を描いていく。
背後からファントムが支援する。
「アルト、右だ!」
影の鎖が巨像の片腕を絡め取り、動きを一瞬封じた。
その隙にアルトは飛び込み、心臓部に刻まれた「結晶核」を目指す。
だが、巨像の瞳が赤く燃え、響く声がアルトを揺さぶった。
「選択を奪うことは――存在の否定。
怪盗よ、貴様にその資格があるか!」
一瞬、アルトの視界に揺らめく幻影。
――自分が選ばなかった未来。
――救えたはずの笑顔、救えなかった涙。
足が止まりかけたその時、隣から声が響く。
「資格なんて後付けだろうが!」
ファントムだった。
その眼差しは師匠としてではなく、一人の怪盗としてアルトを見据えていた。
「盗むってのは、“自分の意思”を貫くだけのこと。
迷うな、アルト。俺はずっとそうしてきた。」
アルトは笑った。
「……そうだな。」
胸の奥で《ルナの涙》が強く共鳴する。
次の瞬間、アルトは未来の断片をすべて掴み取り、刃と共にその力を逆流させた。
「俺は未来を盗む――そして、誰もが選べる場所に隠す!」
蒼い閃光が爆ぜ、巨像の体が砕け散る。
断片だった未来は光の粒子に変わり、夜空に解き放たれた。
残ったのは、静かな闇と、ひとつの輝く結晶。
アルトが手を伸ばすと、それは彼の掌で優しく脈打った。
ファントムが隣で笑う。
「やるじゃねえか、相棒。」
アルトは空を見上げ、吐息のように呟いた。
「これで……まだ続けられる。未来を盗む怪盗としてな。」
星々は静かに瞬き、その言葉に応えるように煌めいていた。