第二部 第62話 最後の扉
無数の星々が瞬く中、アルトとファントムは光の門の前に立っていた。
その門は生き物のように脈動し、まるで二人を試すかのように震えている。
「ここが……最後の試練か。」
アルトは深く息を吸い、胸に手を当てた。
《ルナの涙》は強烈な光を放ち、まるで門と共鳴しているかのようだった。
門の表面に映し出されたのは、幾千もの「未来の断片」。
戦争に呑まれた世界、秩序に縛られた世界、誰もが笑顔で暮らす世界……。
そしてそのどれにも、アルトの姿がある。
英雄として讃えられるものもあれば、反逆者として断罪されるものもあった。
ファントムが静かに言った。
「最後の扉は、未来の選択だ。
アルト……お前は何を盗み、何を残す?」
アルトはしばし黙り込み、門に映る数え切れない未来を見つめた。
――もしも正義の未来を選べば、多くが救われるだろう。
――もしも力を選べば、自分は誰も寄せつけぬ存在となる。
――もしも無に帰す未来を選べば、世界そのものがリセットされる。
だが、アルトは首を振った。
「どの未来も、俺が決めるべきものじゃない。」
その声は迷いを越えた響きを持っていた。
「俺が盗むのは――“選択肢”そのものだ。
決められた未来を盗んで、誰も縛られない未来を隠してやる。」
その言葉に呼応するように、《ルナの涙》が蒼い閃光を放つ。
未来の断片が砕け散り、門そのものが大きく揺れた。
だがその瞬間、門の奥から巨大な影が現れた。
それは人の形をした“巨像”で、幾千の未来の欠片が寄り集まって形成された存在だった。
「未来を盗むことなど許されぬ。
定めを破壊する者よ――ここで消えよ。」
巨像の声が空間を震わせ、数百もの光の剣が一斉にアルトへと突き刺さる。
アルトはナイフを構え、低く笑った。
「そう来なくちゃな。」
ファントムもその隣でマントを翻す。
「最後の仕事だ。共に盗み切ろうぜ、アルト。」
二人は同時に駆け出した。
光の剣と闇の刃が交錯する。
未来を守ろうとする巨像と、未来を盗もうとする怪盗。
最後の決戦が、星々の下で始まった。