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第二部 第61話 影の継承者

屋敷の廊下を満たしていた光景は、少年アルトの涙と共に溶けていった。

残されたのは、深い闇――どこまでも続く虚無の空間。


アルトの胸に宿る《ルナの涙》が淡く脈動し、道を照らす。

やがて、その光に応えるように前方の闇が揺らぎ、一つの影が立ち現れた。


それは――アルトの姿をした“影”。

だが目だけは赤黒く染まり、笑みは冷酷で、まるで別人のようだった。


「……俺?」

アルトは呟く。


影は嗤った。

「俺じゃない。お前が見捨てた未来だ。」


その声は、アルト自身の声でありながら鋭い刃のように胸を抉る。

ファントムも目を細めた。

「なるほど……これが“影の継承者”ってやつか。」


影は言葉を重ねる。

「盗んで、逃げて、誰かの大義に便乗して……結局は、自分の欲望を正当化してきただけだ。

 お前は怪盗なんかじゃない。ただの偽善者だ。」


その瞬間、空間が震え、影がナイフを抜いた。

それはアルトが過去に幾度も使ってきた得物――自分の手に馴染むはずの重みが、敵の手にあった。


アルトもまた、胸の光に導かれるようにしてナイフを握る。

青白い輝きが刃を包み、二つの影が真正面からぶつかり合った。


「……!」

鋭い衝撃音。

刃と刃が交錯するたび、周囲の闇に亀裂が走り、光が漏れ出してゆく。


だが影は揺らがなかった。

「俺は“真実”だ。お前が目を逸らしてきた弱さそのもの。

 俺を否定できるのか?」


アルトは歯を食いしばる。

胸に渦巻く恐怖と、悔恨と、焦燥――それら全てが影の刃となって迫ってくる。


ファントムが低く叫んだ。

「アルト! 影を斬り伏せるんじゃない! 受け入れろ!」


その言葉に、アルトの動きが止まった。

次の瞬間、影の刃が胸に突き刺さる。

だが――血は流れず、青い光だけが溢れ出した。


「……そうか。」

アルトは息を吐き、影を抱きしめた。


「俺は、お前を否定しない。弱さも臆病さも……全部、俺の一部だ。

 だからこそ、盗んでみせる。未来をな。」


その瞬間、影は震え、やがて霧となってアルトの体に溶け込んでいった。

胸の《ルナの涙》が強く脈動し、蒼き輝きが空間全体を満たす。


――“第二の試練、突破を確認。残るは最後。”


監視者の声が再び響き、闇は完全に崩壊した。

広がったのは、見渡す限りの星空。

その中心に、巨大な光の門が浮かび上がっていた。


ファントムは口角を上げる。

「どうやら、最後の扉が待ってるらしいな。……選択の時だ、アルト。」


アルトは頷き、輝く門へと歩みを進める。

その瞳にはもう、迷いの影はなかった。


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