第二部 第54話 境界
回廊を包む青白い光の中、アルトとファントムの体は微かに浮き上がるように感じられた。砂塵の舞う空間に、二人の周囲だけが静寂と時間の歪みで隔てられているかのようだった。
「この力……完全に制御できるのか?」アルトは声に緊張を滲ませながらも、指先で結晶を握りしめた。振動が掌から腕へ、そして胸へと伝わり、心臓の鼓動に呼応するように波打つ。
ファントムは一歩前に進み、冷静な瞳でアルトを見据える。「私たち次第よ。この力は私たちの意志に従う……強くなればなるほど、制御も難しくなる」
回廊の向こうでは、カーディナルの隊員たちが依然として迫り来る。しかし、青い光の壁は決して侵入を許さなかった。光に触れる者は微細な振動に意識を奪われ、足元が崩れるように感じる。
「感じろ……ルナの涙が共鳴している」アルトの声には興奮と覚悟が入り混じっていた。
「ええ……あなたと私、二人の意志が結晶に映し出されているわ」ファントムは結晶の周囲で微細に光を操作するように指を動かした。
瞬間、光は一層強くなる。青白い閃光が回廊の壁に反射し、空間全体を染める。敵の影は光に引き裂かれ、動きを封じられたまま地面に倒れこむ。
「ここが……共鳴の境界」アルトの心に、幼少期の孤独や裏切りの痛みが走馬灯のように蘇る。しかし同時に、ファントムの冷静な意思と共鳴することで、彼は力の中心を捉え、動揺することなく制御を続けられる。
ファントムはアルトの隣で低く呟く。「私たち、この力を手に入れたの……でも、まだ試練は終わっていない」
光は二人を中心に回廊全体を覆い、まるで空間そのものを歪ませる。だが、彼らの意志が揺らがなければ、この力は味方となる――それがルナの涙の選ばれし者にしか許されない特性だった。
アルトは深く息を吸い、握った結晶を見つめる。「さあ、行くぞ……共鳴の力で、この回廊を抜ける」
ファントムも力強く頷き、二人は青白い光に包まれたまま、次の戦いへと歩を進める。