第二部 第53話 襲来
回廊の奥から、低い唸り声とともに影が迫った。砂が舞い上がり、二人の足元を覆う。カーディナルの部隊が、まるで夜そのものを切り裂くかのように現れた。
「数が多い……」アルトは一瞬ためらったが、次の瞬間には冷徹な計算を始める。「だが、焦る必要はない。俺たちには時間がある」
ファントムはアルトの横に身を潜め、鋭い目で回廊を見渡す。「この結晶の光が、私たちを守る……いや、導くわ。アルト、準備して」
青い結晶が強く光を放つ。壁に描かれた異星の文字が、まるで生きているかのように動き始める。アルトは結晶に手をかざすと、指先に微細な振動が走り、心の奥に眠っていた感覚が目覚めた。
「……感じるか?」アルトの声には緊張と興奮が混ざる。
「ええ……私たちだけじゃない、回廊全体が生きているみたい」ファントムの声もまた、震えるほどの熱を帯びていた。
敵が近づくたび、青い光が結晶から放たれる衝撃波のように広がり、砂と影を震わせる。カーディナルの隊員たちはその光に翻弄され、動きを鈍らせた。
「これが……ルナの涙の力……!」アルトは心の中で叫ぶ。過去の痛み、孤独、裏切り、すべてがこの力と結びつき、彼を強くする。
ファントムもまた、結晶に共鳴する意志を集中させる。彼女の計算と冷静さが、力の制御を可能にする。二人の共鳴によって、光は回廊全体を包み込み、敵の接近を阻む盾となった。
だが、影は消えない。カーディナルの残党がさらに迫る。アルトとファントムは互いに目を合わせ、無言の決意を交わす。
「来るぞ……次の瞬間、全力だ」アルトが低く告げる。
「ええ、準備はできている」ファントムの指先が結晶に触れ、共鳴が最大に達する。
青い光は一瞬で閃き、回廊全体を白銀のオーラで包んだ。その瞬間、二人はまるで世界そのものを握るような感覚に襲われた――力が現実を超えて、戦場を支配する瞬間だった。