第二部 第52話 迫る影
砂漠の夜風が二人の体を包む中、アルトとファントムは回廊の奥へと足を進めた。青い光が彼らの影を壁に映し、文字や図形の輪郭を鮮明に浮かび上がらせる。
「この力……ただの記録じゃない。感じるか、アルト?」ファントムの声は低く、冷静でありながらわずかに興奮を含んでいた。
「……ああ、心の奥底に響くような力だ」アルトは結晶を握り締める。その手に、微かに電流のような振動が伝わる。
回廊の中心部に差し掛かると、壁に描かれた異星の文字が光を増し、二人に語りかけるかのように輝き始めた。ファントムは指先で文字をなぞると、声にならない囁きが耳に届く。
「選ばれし者……お前たちが導くべき未来……」
「これ……本当に俺たちのことを言っているのか?」アルトは疑念を抱く。だが、結晶は強く共鳴し、彼の意思を問いかけるように振動を強めた。
そのとき、回廊の奥から微かな音が響く。砂の上をすり抜ける靴音、金属の擦れる音――間違いない、カーディナルの部隊が迫っていた。
「敵か……」アルトの目が鋭く光る。「我々に追いつくには早すぎる」
「いや、彼らはこの場所を知っていた……」ファントムは警戒を強め、影の中に身を潜める。「ここで何かを手に入れるつもりね」
青い結晶が光を増し、二人の体を包む。アルトはその光の中で、不思議な感覚に襲われる。心の奥底が開かれ、過去の記憶と痛み、そして希望が鮮明に蘇る。
「……これが、力なのか」アルトは息を整え、闇の向こうを見据える。
「そう……私たちの意志と心が結晶と共鳴すれば、この力は現実の世界に形を成す」ファントムは冷静に告げるが、その瞳は熱を帯びていた。
回廊の奥から、影が動き出す。闇と光が交錯する中、二人は決意を固めた。選ばれし者として、そして「ルナの涙」の導き手として――戦いは始まろうとしていた。