第二部 第51話 封印された記録の扉
砂漠の光が薄れ、夜の帳が訪れる。アルトとファントムは、倒した影たちの残骸を横目に、静かに足を進めた。青いダイヤモンド「ルナの涙」は、手のひらで微かに脈打ち、まるで彼らを導くかのように光を放つ。
「この光……ただの宝石じゃない」アルトは呟いた。「何か、意思を持ってるみたいだ」
「ふふ……その通り。結晶は、選ばれた者にしか真実を見せない」ファントムは薄く笑みを浮かべながら、砂の上に跪いた。「私たちは……その条件を満たしたのね」
結晶が放つ光が、地面に映る影の形を変え、やがて砂丘の奥に隠された古代の石の扉を浮かび上がらせた。扉には異星の文字と、地球の古代文明の象形文字が混じった模様が刻まれている。
「ここが……封印の場所か」アルトは息を飲む。手を伸ばすと、青い光が扉の表面に触れ、ゆっくりと反応を示す。扉は微かに震え、砂埃を巻き上げながら少しずつ開き始めた。
「中には……何が?」アルトの問いに、ファントムはわずかに首を傾げる。
「過去の地球と異星の契約……そして宇宙の秩序に関する記録。読むには、心の純粋さと意志の強さが必要……私たちが選ばれた理由も、そこにあるのよ」
扉の向こうには、光を帯びた水晶の回廊が延び、壁面に無数の文字や図形が浮かび上がっている。その中には、人類の歴史とは異なる、宇宙規模の戦争や交渉、滅びた文明の詳細が描かれていた。
「これ……全部、本当にあったことなのか?」アルトは息を呑む。
「結晶は記録を保持する器。選ばれし者の意思次第で、真実を見せるのよ」ファントムは静かに指先を壁面に触れ、光の文字を読み解き始める。「見て……アルト、私たちの使命がここに示されている」
二人の影が、青い光の中で重なり合う。砂漠の風が回廊の奥から吹き込み、過去と未来を繋ぐかのように囁いた。
「これから……何をするべきか、だな」アルトは剣を握り直し、決意を固める。
「そう……私たちが選ばれた以上、逃げ場はない」ファントムの瞳が紫色に光り、砂漠の闇に鮮やかに映える。
その瞬間、回廊の奥から、かすかな機械音と振動が伝わる。何者かが、すでにこの場所に接近している――カーディナルの影が、すぐそこまで迫っていた。
青い結晶が微かに震え、二人の意志に応える。選ばれし者としての戦いは、まだ始まったばかりだった――。