100.第二部 第50話 砂漠の深淵と選ばれし者
砂漠の静寂は一瞬の休息に過ぎなかった。黒い影たちは再び動き出し、砂の中からうごめく気配が辺りを満たす。アルトは結晶を高く掲げ、光の壁を作りながら周囲を見渡した。
「奴ら……普通の人間じゃない」アルトの声には緊張が滲む。影は形を変え、肉体だけでなく意志のようなものまで感じさせる。カーディナルが手を回した異常な存在だ。
「……ふふ、やっぱりね」ファントムは微笑を浮かべながらも、鋭い目を光らせる。「でも、私たちにはまだ“ルナの涙”がある。これだけは奴らに渡せない」
青いダイヤモンドが手のひらで温かく震え、まるで自ら意思を持つかのように輝いた。その光に共鳴するかのように、アルトの身体も熱を帯びる。心の中にある強固な意志と、過去に囚われず突き進む決意が、結晶を覚醒させていく。
「行くぞ、ファントム!」アルトの声に応えるように、ファントムは軽やかに跳び、影の間を縫うように進む。二人の連携は、もはや言葉を超えたものとなっていた。
影たちが襲い掛かる。砂煙の中で刃が光り、青い光が反射して砂を切り裂く。アルトは剣を振るい、影を粉砕しながら前進する。ファントムは情報屋としての洞察力を活かし、影の動きを予測して最小限の動きで避け、致命的な一撃を与える。
「アルト……感じる?」ファントムが囁く。
「ああ、結晶が……俺たちを選んでる」アルトは汗を拭いながらも目を光らせる。「俺たちが……選ばれし者だ」
影が一瞬退き、砂漠の空に光の柱が立つ。結晶の力が周囲の空間を歪め、影の存在を押し返す。二人は互いに視線を交わし、深く頷いた。
「これで終わりじゃない……まだ序章よ」ファントムの声には決意が宿る。アルトもまた、静かに剣を握り直した。
砂漠の彼方に、未知の影がまだ蠢いている――そして「ルナの涙」の秘密を狙う者たちの影もまた、彼らを追い続けていた。