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1.月夜の怪盗

静かな夜、満月の光が街を銀色に染めていた。誰もが眠りにつく深夜、人気ひとけのない大通りに、一人の男が立っていた。

彼の名はアルト──怪盗アルトと呼ばれる男だ。その名を耳にする者は、誰もが一瞬で思い浮かべる。鮮やかな手口、見事な逃走劇、そして、絶対に人を傷つけないという不文律。


アルトの狙いは、先日オークションで話題をさらった「ルナの涙」と呼ばれる青いダイヤモンドだった。それは、旧家エルミア伯爵家の秘宝であり、今夜だけ特別展示されている。セキュリティは厳重だが、それがアルトを燃え上がらせる理由だった。


「警備は最新鋭、か……面白い。」

黒いマントを翻し、アルトはビルの屋上から闇に溶け込むように跳び降りた。


展示室の外壁に張り付きながら、彼はポケットから細い工具を取り出す。最新のセキュリティを解除することは、彼にとって芸術だった。慎重に、しかし迷いなく指先を動かす。緑色のランプが赤に変わり、再び緑に戻った瞬間、彼は微笑んだ。


「さあ、お宝をいただこう。」


アルトは壁に取り付けられたセキュリティシステムを完璧に解除し、展示室内へと静かに足を踏み入れた。部屋の中には、照明に照らされた青いダイヤモンド、「ルナの涙」が展示台に静かに輝いている。その美しさはまるで月光を反射したように、静かに、しかし圧倒的な存在感を放っていた。


彼は深呼吸をして、冷静さを保ちながら近づいていく。周囲のセキュリティカメラや伝声管、ガラス製の展示ケースが、どれもアルトの計画に組み込まれている。無駄な動きは一切なく、すべてが計算された行動だ。


「今回は少し手間取るかもしれないな。」彼は静かに呟きながら、展示ケースの解錠装置に手を伸ばす。


瞬く間に、展示ケースのロックが外れ、青いダイヤモンドがアルトの手に収まった。その重みは軽くはないが、彼にとってはそれすらも楽しみの一部だった。


「これで最後の一手だ。」彼は素早くダイヤモンドを黒い布で包み、再び静かに部屋を後にする。今度は、エルミア伯爵家の重厚な扉を通り抜ける。


だが、足音を忍ばせながら進んでいたその時、背後から微かな音が聞こえた。それは、足音でもなければ風の音でもない――アルトは思わず振り向くと、そこには一人の女性が立っていた。彼女の目は冷徹で、アルトのすべてを見透かしているかのようだった。


「アルト、あなたのような男が何のためにこんなことをしているのか、私は知りたくなっただけ。」

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