パンキル
時刻は、いつだって、早すぎる、いろいろな職業があるが、その職業が、著しく早起きだと言う事は、みんなが知っている、それは、本人が一番よく知っていることだろう、普通は、みんなが深夜に、酒を楽しむ時刻には、彼は、早々に、枕元に、とうについているのが、ごく普通であった。
「ああ、お休み」
彼はいつものように、枕元の目覚まし時計を、セットし終わると、そのまま、木の上のベッドのふわふわの布団に、上布団を、どけて、寝ようとした、そう、した、その時だった、主人の耳に、何やら、音が聞こえた、それはどうやら、家の裏側から、聞こえる物であり、つまりは、この店の裏側にもあたる。そのレンガ造りの角に当たる、この家の二階は、住居であり、一階が、パン屋というわけである
「何だろうか」
小心者の彼であったが、しかし、みすみす、そのまま放置するのもどうかと思う、しかし、部屋を見渡しても、何か、用心に使えそうなものが、見当たらなかった、果て、どうしたものか、そんなことを、彼はつぶやきながら、部屋の扉を開く、相変わらず、家の外からは、音が、している、このまま放置してもよかったが、しかし、もしもというものは、もしもということがある、だから彼は、電話をかけることと、一応の状況確認を、考えたわけであった
一階に下りたが、仕事場に誰かの人影は見当たらない
電気もつけず、そのまま、歩いていて、思わずこけそうになる、目の前に、見慣れるものが置かれていた、ああ、ケントのやつ、妙なものを置きやがって
目の前には、まったく有害部室を含まない食紅が使われた小麦粉が、置かれていて、危うくこけそうになった、しかし、それ以外は
いつも使用している、職場である、幾ら暗くても、見覚えのある用品が、寸分の狂いも無く、いつものようにいつもの場所にある、気を取り直し少なくとも、泥棒の入った後という感じではなさそうだ、彼は、その厨房で、立てかけられているパン生地を伸ばす、木の棒が、目に入った、その麺棒を、手に取ると、恐る恐る、厨房の上にあけられている、小さな窓から、顔を、小さく上げると、下へとのぞき込む、いつも置かれている、大きめのごみ箱が、二つあり、ここら辺の兼用と、半分なっているのだ、そこに、ガサゴソと動く、人影のようなものが見える、黒いごみ袋に、どら猫や、カラスが、寄ってたかっているのかもしれないと、そう考えた、去年、ネズミは、苦労の末、一掃したし、カラスが、町とはいえ、深夜に動き回るだろうか、店主は、猫かとも思っていたが、しかし、それが、猫にしては、やけに大きいことを、一人意識したころには、警察への電話を、急いだほうがいいと、頭の中に、思い描いていた、彼は、そろそろと、足を、一回の奥になる、厨房の反対側、半分奥にある店側に置いた、電話を、思い出していた、深夜のわずかな、つべたさの中、わずかに、足を、忍ばせて、足を、一歩また一歩と、先へと進ませる、背後では、相変わらず、がさがさと、音をさせている、何なんだ、そうは思っても、足を止める訳にも行かず、足を、先へと進ませる。静かに、店舗側へ行く、扉を開けると、もう何年もたっているそれは、「ぎぃい」と、音を立てて、静寂の中、辺りへと、いやな音階を、奏でていた。それは、その時だったと言っても良い、家の奥の、そう、裏戸が、開く音がする、しかし、鍵は閉めたはずだ、そうは思っても、実際に、確実に誰かが、厨房の堅い床を歩いている音が、そこからは暗闇の中聞こえた。とっさに、店主は、身を伏せる
「何か聞こえなかったか」
声の低い、明らかに、人間の男の声が聞こえた、それに、対応するように、もう一つの足音も、送れるように、裏口から入ってきたのだろう、店主は、それを、泥棒かと、認識した、きっと、金目当てかも知れない、しかし、幸いなのかどうかは、分からないが、今日は、金曜日、もう、売り上げは、銀行のほうへと、預けている、よく観察している人間であれば、そんなことは、よくよくわかってぢるはずであるから、きっと、突発的な、犯行か、それとも、時間が、違うだけで、今日が、銀行に行く日だと知ったうえで、間違えたのか、どちらにしろ、裏口は、鍵を開けられた可能性が高い、もしも、自分が、閉め忘れ、たまたまをれに気が付いたのであれば、何が、解決案になるのであろうか、店主は、そんなことを考えながら、粉一つ落ちていないような、固い床に、身を伏せ続ける
「それよりも、早くするわよ、見つけ次第、殺して、誰も、目撃してはいけないから」
どうやら、状況は、かなり悪いらしい、このまま無事電話を、できるとも限らないが、この二人組が・・・そう思った瞬間、また、別の声が聞こえてきた、三人組か、だとすれば、もっといる可能性もある、しかし、何の用だ、用意用心に、越したことはないだろうが、中年のパン屋の主人に、一体、どんな理由があり、それを、殺そうとしているのだろうか、何か見てはいけないものが、あるようなことを、言っていたが、自分は、何を見ただろうか、そんなことを思いながら、足音を聞く、銀色の台の下、辺りを探る音がした
「なあ、早くしろ、撃つならもっと、広々と、撃ちまくれるところがいい」
それは、若いような気がしたが、決して、挙動が、軽くなく、何かどっしりと、そして洗練された言葉は、軍隊時代を、思い出させた
(めんどい事になった)
店主は、ぎゅっと、麺棒を、握りしめながら、足音を聞く
「なあ、気のせいじゃないのか、スタージャ、お前の感は、良く当たるが、もう時間はない」
直ぐ近くまで歩いてきたのであろう、銀色の四角い台の向こうで、暗闇の中、黒い棒のようなものがちらりと見えた、銃だ、それも、かなり長い、ライフルだろか、こんな狭い店内で、確かによくわからない選択であるが、事もあろうことか、男かと思ったら、直ぐ上から
「いや、もう少し探ってからでも遅くない、念には念をだ」
それは、甲高い、落ち着いた女の声だ、姿を見ていないから、もしかしたら、容姿は、私の思い描くものとは、違うかもしれない、店主は、そう考えながら、じりじりと、ゆっくりと、足を動かす、さすがにいつも、いる場所である、さすがに、座るように、歩くことは、無いが、それでも、気配を消すことには、多少なりとも、成功したようで、女が、先ほどまで自分がいた場所に、居たころには、資格に隠れられていた、つまり、現時点で、銃撃を受けていない、もしくは当たりの雰囲気がそこまで違わないことから、自分の移動には、気が付かれていないはずだ、店主は、そんなことを、考えながら、果たして、この後、さっさと、店から、出て行ってくれ、そう考えていたにもかかわらず、無情にも、何かが、店内で、倒れた
「何だ」若い声が聞こえる、直ぐに足音が、素早く、音の下方向へと進む、残りの二人も、それに倣ったのか、そちらの方へと、視線が、向いているのを感じた、店主は、危うく、声を出しそうになる、
あれか・・、ケントが、置いて行ったあの小麦粉が、妙な、物を、置くから・・きっと、倒れたのだ、店主は、じっと身をかがめる
「袋だ・・・どうせ小麦粉だろう、もう良いだろう、時間もないしな、なあ、スタージャ」
女の声が、聞こえる
「人がいる、雰囲気がするんだよ、ここに入った時、それに、窓を誰かが、居たのか、動いた気がしたんだ、電気をつけてよ」
部屋の電気は、全て、ブレーカーを、仕事が終わると、落としている。それをつけない限り、部屋の明かりは、付かないのだ、それに、気が付いたのだろう、歳の行った声が、聞こえる
「駄目だ、付かない、ブレーカーか何かが、落ちているのだろう、さすがに、俺たちが来て、電線を、切ったなんてことはないだろう、ここの店主は、確か、キジュール・マイト、ただのパン屋だ、考えすぎだ、それよりも、お前が、ここにいつまでも残り、見回りの警官に・・・」その時、だった、辺りが一瞬にして、明るく変化した
「やっぱり、ブレーカーだったようだ」それは、若い男の声であった、それに続くように、問を掛けた
「それで、誰かが、居たか、後、三分で、行くぞ、もう一軒、やらなきゃいけないだろ、夜は、いつまでも、続いていはくれないんだからな」
若い男の声に、答えず、女の走る音がした
「二階は、いい、早くしろ」老人の声とともに、銃弾の音がした
乾いた音とともに、店主は、腕が、しびれる感覚がしたその瞬間、体が吹っ飛ぶように、隠れた側から、別の壁際の台に、体が、ぶつけられる
「おっおい」
一斉に、雰囲気が、さらに引き締まり、銃を構えて、走る音がする、店主キジュールは、手に持った、木の棒を、更に握りしめる、至近距離だとしても、その腕は、折り紙付きであろう、なぜなら、とっさに、構えた、その木の棒の中心、つまり、脳天に、銃弾がめり込んでいた、もし、下手な奴であれば、今頃、右眼球が、破損し、右脳が、ぎゅちゃぐちゃに、なっていただろう
「当たりやがった」
老人の声と、銃声が、辺りに響きまわる
「面倒なことだ、お前ら、やっておいてくれ、俺は、車を移動させる」
若者が、裏戸から出ていく音がした、店主マイトは、頭を抱えた、面倒なことになった、鉄の破片が、撃ち込まれるたびに、辺りに飛び散る、どうしよもない中、頬を、その銀色の破片が、小さく鋭く刺しては、床に転がるが、その音すらも、別の銃弾が、かき消す、先ほどまでとは、まったく違う音の環境に代わってしまっている、どうしたものか、ここ数分で、何かいぶりであろうか、妻が、いつ二階から降りてこないとも限らないが、こんな時でも、降りてこないのは、肝が据わっているのか、それとも、何なのだろうか、ここで、初めて、店主は声を荒げた
「何だ、祭りか何かか」
祭りなわけはない、しかし、こうも、どんぱちされると、もう、やけっぱちになるいかあるまいと、店主は思う、辺りには、パンには喜ばしくないような、硝煙のにおいが充満しており、凝ればパンにでも入ろうものなら、頭を抱えたくなってくる、店主は、如何するべきか、悩んだが、銃弾は、店主の発した場所へと、油断なく撃ち込まれ続ける、試しに、そこら辺にあった、銀色の鉄のボールを投げると、発射音とともに、鉄が合わさる音がする
「やめろ」
背後で、老人の声がする。次の瞬間、銃弾が、辺りに跳ね回る音がした、鉄が、跳ねる、一回二回三回。向こうのほうで、何か声がする、銀色の磨かれた鏡のようなテーブルに、反射するように、店主は、女の居場所を、捕らえ、更には、上に投げたボールを、使い、相手が、先ほどからどのようなタイミングで打ち込むかを、何発を観察し、大まか、相手の方向へ向かえばいいと、思っていたが、どうやら、それがうまくいったらしく、それを知らせるように、女の苦悶の声が、先ほどの冷静さを、遅らせ鈍らせて聞こえる
「撃たれた」
老人の「馬鹿な奴だ、いったと言うのに」というような声が、ゆっくりと、近づいてくる、面倒だ、店主は、思いっきり、麺棒を、上に投げつけた、先ほどの女は、まるで、教師に倣ったように、決まり切った行動をした、お陰で、あの麺棒に助けられたし、弾も予測が付けやすかった、しかし、老人はどうも違う、体力ではなく、もはやそれは、予感や、感で動き始める、店主が投げつけた、麺棒は、天井近くへと、飛んで行った
「なあ、簡単に、殺してやるから、今のうちに、出てきたらどうだ」
老人は、そう言おうとしたのだろうが、それは、最初の聞き方で終わってしまっていた、なぜなら、天井近くの、つい最近変えたばかりの蛍光灯に、棒が、状突すると、わずかばかりの火花とともに、ガラスの細かい破片が、老人の周辺に、飛び散った
「ックソ」
しわがれた、低い声、主人は、そのまま、あの若い兵士っぽい男とは反対の方向の、店側に、飛び込み、そのまま、窓を割るように、表に出た、最悪だ、このようなために、貯金はしているが、それにしたって最悪だ、あいつらに、罪を償わせることは可能だろうか、そう思いながら、古風な石畳の道路に、転がり、店を見たが、まだこちらには来ていなかった、しかし、それは、同時に、目の前の道に、黒い車が、男の前で、ゆっくりと止まる
「やあ、店主、あの世まで、送ってやるぜ」
次の瞬間、霊柩車のように、それは、黒く体を、光らせながら、急発進をさせる、とっさに、反対側に、飛ぶが、それを、見越してか、上手いさばきで、車を、反転し、急発進を、繰り返された
「おいおいおいおい」
店主は、困った、道幅は、広い、ゆえに、反対の路地まで飛び込む時間はない、しかし、では、何処に、男は、考える、逃げ場がない、しかし、車は、猛烈な勢いで、牛のように、こちらへと走ってきている、男は、最悪だ、そう思う、店の奥からは、声が聞こえ、カーテンの奥には、人影がある、俺の店が、そう思ったが、その明らかに銃を構えた、その姿に、男は、ぎりぎりで、店に飛び込む、車は、赤いマントでも振られたように、店の中に、飛び込む、ガラスの嫌な割れる音、辺りには、真っ赤な粉が、立ち込める、とっさに飛びのいたおかげで、車が、体に当たることはなかったが、あの人陰には、もろに、車が、ぶつかったと見えて、銀色の台と車に挟まれたように、手がこちらには見えた。車から降りた若い男は、挟まった手からマシンガンを、手に取る
「おいおい、やってくれたな」
こちらのセリフだ、男は、そう考えながら、逃げ出す
「おいおい、おにごっこか、店を置いて、薄情な店主だよ、どうせ、なん十発も撃てば、意味はないがな」
男の手元で、かちりと、赤い火花が散る、次の瞬間、辺り一面に、火が飛び散り、粉塵爆発を起こし、店が、吹き飛ぶ
「っあぁーーあ」
店主は、燃え盛り、崩れる、店を見る、爆風でか、衝撃か、柱が倒れ、店が、倒れる。それを、店の外で見る、爆風で、火はちりじりに、消えかけていた。その中で、ふくよかで、寝間着姿の女が、切のような、煙の中に立っていた
「っあ・・あんた、何やってんのよ」
煙が、晴れる中、男は、唖然と、頭を抱える、向こうのほうで、パトカーか、救急車か、消防署か
サイレンが、鳴り響き、一人、頭を抱えた、男は、店の中に行く、若い男は、散り散りに、辺りに飛び散り、ろうじんの息はない、しかし、どうしたものか、あの娘の姿は、何処にもなかった、裏口には、銀色の扉が、かろうじて、それだけが、立っていたが、その取っ手付近に、赤い手形が、ついている、これは・・・次の瞬間には、それも崩れ、背後から、鬼のような、怒号が、響いたのである。
「それで、どうだったんだ」
眼帯をした男が、包帯を巻いた女に聞く
「それが、爆弾を、仕掛けようと、思ったのですが・・」
男が遮る
「それで、どうだったんだ」
女は、たじろいだように
「途中で、発見され、爆発はしたものの、いまだに、生存しているようです」
男の静かな声が、響く
「・・・それで、どうしようと思っているんだ」
女の静かな沈黙、腕の包帯がゆっくりと赤く染まっていった。
「それで、いつ頃店を再開するんだい」
近所のおっさんに、そういわれながら、廃材の中、店を、再建することを、考える店主の姿がそこにはある、店の厨房の奥、奥さんが、一人、パン生地をこねている、赤く染まった白かった服を脱ぎながら店主は考える
「とりあえず、服を、探すよ」
青空の中、パンがこねられる音が、辺りに響いていた。