#9 トワイライトアポカリプス 中編
#9
自分「ところでトワイライト先輩」
先輩「先輩で良い、なんじゃ後輩よ」
自分「先輩、彼らはさっきから一体何をしているのですか?」
先輩「ああ、あやつらか、あやつらはノームじゃ、土を司る我が眷属の一柱ぞ。お主の言うあやつらのやっていることに関して言えば、意識をこちらに向けるようお主の身体を埋葬しておる最中ぞ」
自分「全力でやめさせてください」
先輩「まぁ、落ち着きなされよ、何を埋葬しているのかを聞いてからでも遅くはなかろう」
自分「何を埋葬しているのですか?」
先輩「お主の意識及び地上現象の全てぞ」
自分「いや、マジでやめさせろ、地上破壊はまだしも、意識の埋葬だけは許さん」
先輩「なぜそう思う?」
自分「なぜ?って意識がオレなんだからオレの意識をって・・・あれ?意識のオレが埋葬されているなら今のオレは何だ?」
先輩「何であろうな?そもそもお主が意識と呼んでおる自分の意識とは何であると思おておる?」
自分「そういうシンプルな問答が一番難しいですよね、なんで生まれてきたの?とか、宇宙人っているの?とか神様って何?みたいなちょっと知恵のついた子どものお世話してるのかな?」
先輩「ええから思うたことを言うてみー!」
自分「だから思ったこと言ってるでしょうが!」
先輩「確かに!」
自分「つまり、今は肉体から出ているファントム状態なのにある意識が何であるかですよね、正解かどうかは微妙ですが、それって思考ではないですか?」
先輩「半分正解で、半分不正解ぞな」
自分「またそれですか」
先輩「お主が意識し知覚しておる対象は何層にも貫かれたスペクトルの根源である純粋思考であり、不滅の自己の果てに生じておる影が意識となっているという点では紛れもない正解なんじゃ。ただそれは巨視的な解であってじゃな、例えば“全てが一つ”というのは全体の如何なる局面においての真理なんじゃが、全ての問いの解答において“ワンネスじゃから”と答えておればそれで正解かといえばそれは構造を述べておるだけの過去の事実であり、今その瞬間に向き合っておる対象における正しい表現とは言えん、ということじゃ!」
自分「“じゃ!”と言われましてもですね、元々わかってなかったんですから仕方なくないですか?」
先輩「尤もじゃな」
自分「それで、オレたちが意識って呼んでいるものが意識じゃなかったら何なんですか?」
先輩「優等生であれば魂だとか、霊だとか、ニューロンなどと言うんじゃが言わんかったの」
自分「いや、たぶん思考もかなりありきたりの部類だと思います」
先輩「まぁ何を言っても半分正解で、半分不正解なんじゃがな」
自分「どういうこと?」
先輩「空間そのものがお主の意識だからぞ」
自分「意識が空間?」
先輩「お主らの魂のファントムの本体であるアストラル体が肉の脳を通過させることで妾らの生命の空間を内側に閉じ込めた硬い物質に閉ざされた空間を影としてお主らの意識として空間的に投影しておるんじゃよ。それらを見ておるお主らの魂のファントムによる視界のことを地球(物質界)と呼んでおる」
自分「ちょっと待ってください、理屈では自分という意識が内側にあってですね、それが高次元の霊魂の影であることはなんとなくわかってはいるんです。けどそれが空間なんですか?意識が空間なんですか?空間そのものが影で、その影を認識してオレたちは思考を構築している、それでオレたちが内側にあると思い込んでいる意識とか感情の思考は元々は外にあったものの要素で・・・ちょっと収集が追いつかない部分はあるが・・・わかるところがあるな、もうすでにわかっている部分があるぞ、ああなんだ?このすぐそこまで出かかってるくしゃみが出そうで出ないのかよ!みたいな感じが凄いある・・・」
先輩「ペンギンハイウェイじゃよ」
自分「ペンギンハイウェイ・・・森見先生の小説ですね・・・」
先輩「巾着袋」
自分「巾着袋・・・それだ!お父さんの巾着袋か!」
先輩「そうじゃ、お主はあの時“裏返し”がどこか本質を貫いておることをしっかり記憶に焼き付けようとする強い意志を自らの心臓に刻印しておったことを妾は殊の外評価しておったのじゃぞ、ただ当時のお主は碌でもない読者じゃったゆえに心底失望したがの・・・」
自分「なんか色々と複雑な想いだったことも含めて想起できました。森見先生の小説が映画になったのを女の子と観に行って、巾着袋の感動のその後にダッシュで逃げられて・・・そうか、思い出せた、巾着袋あったわ、世界の全てをこの小さな巾着袋に閉じ込めるためにはどうすれば可能なのか?その答えは裏返すことによって、宇宙全てをそっくりそのまま巾着袋に収めることができる、全体を俯瞰することができる発想の力、少年のお父さんが教えてくれたあの話か」
先輩「その視点をお主らの世界を思考する原点とすることができるのか否かが、逆の世界を訪れた際の大いなる認識の力である視力となるんじゃ」
自分「なるほど、今のオレが普段デフォルトであるスクリーンの感情で認識する現実とは逆の立ち位置にいるのは事実で、その構造は“裏返り”という過程を通じて果たされている現象、つまり先輩の言うファントムとはその境界であり間の存在、それがオレたち人間としての影の視座なのですね」
先輩「ファントムは空間の出入り口ぞ」
自分「ファ!?」
先輩「ちなみに空間は意識としても良いし、肉体としても良いし、宇宙としても構わんぞ」
自分「余計にわかりません」
先輩「例えばアレが見えるか?」
自分「あれって、アレ?あっちでもこっちでも花畑に横たわって埋葬された人型から金色の守護霊が立ち上がって、なんか天使同士で話し合ってる?」
先輩「順調ぞな、あやつらも妾と同じ分霊としての守護霊じゃ。ああして地上の記憶を取り出しながら共有された空間を交錯させて、一つの理念界をノームたち他の四大精霊が元素となってあらゆる現象の対象の反射として投影させられたものをお主らは魂のファントムとしての目で地球を空間的に見るための準備をしておるんぞ」
自分「空間的に見ているというのは自分の意識をという意味で、自分以外の他人からは見られていることによる空間をつまるところ他者の世界もまた自分の意識空間の一部・・・ていうか肉体以外はほとんど“自分のもの”っていう概念がおかしい、そもそもよく考えたら自分の所有物なんてものが無い・・・あるとしたら肉体だけが自分のものと呼べるものなんだが、それそらすら怪しいぞ・・・」
先輩「だから人間の肉体は全て複合体の融合点であると申しておるであろう」
自分「そうなんだよ、オレたち人間はほとんど理解してない家電製品のようにスイッチ一つで自分の肉体を扱えることの構造を脳によるものだとはしているが、なぜそんな構造になっていて、それを誰がどのように設計して、何を目的に創造しているのかの根本的なことがわからない上に、空間そのものが意識だとか、愕然とせざるを得ない・・・」
先輩「お主らは心をカギに霊魂の影であるファントムという触媒の出入り口に触れ、人間という空間を“見ておる”というのがお主らじゃ、その立場や現象のことを古来より宗教は霊魂と称してきたのじゃ」
自分「ファントムは霊魂ではないのですか?」
先輩「お主ら人間のファントムは霊的複合体の触媒としての影ぞ」
自分「その触媒が影となって現れている空間をオレたちは出たり入ったりしているわけで、オレという主体はファントムですらないということですよね、ますます自分が何のかがわからなくなってきたぞ・・・」
先輩「出入り口では抽象的すぎたか・・・そうじゃの、ファントムはお主ら人間の物質体及び物質空間を整えておる鋳型とでも伝えた方がわかりいいかの」
自分「肉体と空間の鋳型・・・」
先輩「早い話が今ファントムとして“見ておる”空間の“見ておる”という存在そのものがお主が自分と呼んでおる主体のことぞ。つまり、空間という鋳型に自分を流し込んでおるんじゃ」
自分「じゃあ、何?この花畑が全部自分ってこと?」
先輩「同時に全部お主ではないとも言える」
自分「何その常時異世界設定、訳がわからん・・・」
先輩「異世界などではない、お主らファントムの魂が普段生きておる同じ地球ぞ」
自分「いや全然違うし、何ここ、いつの間にか全体的にキラキラしすぎだし、お花畑だし、空の天体デカ過ぎだし、風の代わりに妖精舞ってるし、何だったら火魔法だって使えちゃうよ、どうなってんだ、気持ち良すぎかよ」
先輩「ようやく生命の目が開いてきたようじゃの、妾らはここをエデンと呼んでおる」
自分「エデンって、楽園じゃん」