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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

囚われの姫の影武者やってたら、薔薇の花束持ってイケメン騎士が助けに来た。プロポーズされたけど、俺は男だから全然嬉しくない!

作者: 水瀬白龍

 久々に雨が止んだ夜。『私』はぼんやりと窓辺に立って外を眺めていた。そこから見えるのは大きな満月とそれを取り巻く小さな星達、そして昼間まで降っていた雨粒に濡れる森の木々達だけだ。


「フェリシア姫」

 急に塔のバルコニーに男がひらりと舞い降りてきた。


 思わず目を見開いた『私』を気にすることなく、彼は『私』の前で当たり前のように片膝をつく。そして様になった仕草で『私』の片手を取って、そこに触れるだけのくちづけをした。

 驚きで声も出せない『私』に、彼は甘く甘く微笑みかける。

 大きな満月を背後に背負った美丈夫は、真っ赤な薔薇の花束片手に、熱く『私』を見上げた。

「この塔に囚われた美しい姫君を、この騎士ベルンハルトが助けに参りました――――どうか、私と結婚してください」

 そのぞくりと背筋が震えるような低く甘い声が、静かな夜にこだました。


 ……あぁ、なんてことだ。まさか、こんなことが起こるだなんて。


 予想だにしなかったことに『私』は全身をぶるりと震わせる。全身に鳥肌が立った。大きく息を吸う。目の前に跪く男を凝視しながら、『私』はぱかりと口を開いた。

 そして、腹の底に力を込めて――――。


「――――帰れええええええええええええええ!」


 俺は、全力で怒鳴りつけた。






 十二歳の頃からこの高くそびえる塔に囚われて早六年、まさか男にプロポーズされるとは!

 俺の心からの絶叫に、目の前に跪いて俺の手にキスしやがった男はびくっと体を震わせる。だが、震えたいのはこっちだ!

「てめぇ何しやがる気色わりぃ! そんでもって、今すぐその手を放せ、この気障野郎が! っつーか薔薇なんて持ってんじゃねぇよ腹立つな!」

「なっ…………」

 俺の叫びに美丈夫はまるで雷に打たれたかのように硬直した。ラピスラズリのような金の散った深青の瞳が、限界まで大きく見開かれる。


 無意味に、薔薇の花束から赤い花弁がひらりと落ちた。


 どうでもいい演出を無視して、俺はぴゃっと男に取られたままの手を引き抜く。その手を着ていた桃色のドレスの裾に擦り付けながら俺は顔を引き攣らせていた。

「流れるようにキスしてんじゃねぇよ! ……何が、何が結婚して欲しいだ……! 俺は異性愛者で、好みは胸と尻のでかい大人の女だ! 間違ってもてめぇみたいな男じゃねぇよ!」

「は、え…………?」

 ありえない、というように彼は首を振り始め、そのせいで頭の上で括られた赤の髪がまるで振り子のように揺らいでいる。俺は顔をこわばらせている男をじっと見下ろして観察した。


 イケメンだ。長身で筋肉質、だがむさ苦しさは一切なくむしろ清潔感を感じさせる。顔立ちも凛々しく、目鼻立ちがすっと整っていた。文句の付けようがない程のイケメン。そして先程聞いた声も背筋を震わせるような素晴らしい低音ヴォイス。薔薇の花束は生理的に受け付けられないが、客観的には非常に似合っている。騎士の制服も、嫌になるくらい似合っている。


 世の女ならば、一瞬でこの男に恋に落ちてしまう程の、イケメンだった。

 ――――そう、『女』ならば。


「お、おとこ……?」

 低くいい声で喉を震わせた男に、俺は叫びすぎてかすれた声で返す。その声は、どんなにかすれていても明らかに男のものだ。

「男だよ俺は、畜生、気持ちわりぃ気色わりぃ! 帰れ! 今すぐ帰れ! 森に帰れ! 森へお帰りっ」

 そう言い切って俺は、荒い息を吐く。俺には体力が無いのだ。はーっはーっという、俺の呼吸音だけが響き渡り、それ以外の全ては沈黙している。この、目の前の男然り。


「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………えっ?」


 阿保みたいな無音の後に続いた馬鹿馬鹿しい単音に、これ以上ない程俺は顔をしかめる。

 なんて物分かりの悪い男だ!

 俺は心底馬鹿にした目で、男のことを睨みつけた。

「だーかーらー、俺は、男だっつってんだろうが!」

「そんな、え?」

「言葉通じねぇのかよ! 何回言わせんだ!」

 そう吐き捨てた俺に、目の前の男もようやくまともな言葉を返してくる。

「ですが、ここに囚われているのはフェリシア姫では!」

「俺は姫の影武者だ!」

「囚われの姫が、影武者ということがあるのですか!?」

「目の前にあるだろうが!」

「そんな、なんてこと!」

 男はその場に崩れ落ちた。床に叩きつけられた薔薇の花束から、真っ赤な花弁がまたひらりと落ちる。


 その際に、くどい程甘い香りが薔薇から香り、俺の鼻の奥を優しくくすぐった。

 ……俺はもう、深々と息を吐いた。肺の中の空気を全部吐き出すつもりで。

「はぁ――――――――――――――――…………」

「あ、あの……」

 無様に崩れ落ちたままの男を見下ろして、俺は仕方なく言った。

「……とりあえず、バルコニーに這いつくばってないで、中入れ」

「し、失礼します……」

 心優しい俺の言葉に、男はひどく項垂れたまま頷いた。



 薔薇の花束を片手にした超絶イケメン野郎を俺の自室の椅子に座らせて、俺はその傍の壁に背中を預ける。男が座る椅子は机に向かい合うように置かれていて、その机には一冊の絵本以外何も置かれていない。

俺は腕を組んで男を冷たい視線で見下ろした。

「…………で?」

 俺の氷のような声にびくりと震えあがった美丈夫は、おずおずと俺を見上げる。俺の身長は男にしてはかなり低いが、さすがにこの長身野郎が座れば立っている俺の方が高くなるのだ。

「で、とは、何でしょうか…………」

「それくらい察しろ。てめぇは誰だっつてんだよ」

 わざわざ席まで勧めてやってんのにずーっとだんまりを決め込んでいたのだ。仕方なく俺が話すように促せば、男はやがて口を開いた。

「私は、先程名乗った通り、騎士のベルンハルトと申します……」

「そう、聞いてなかったわ」

「え……」

「だって、突然男が空から降ってくんだぞ、それどころじゃねぇよ。つぅか、お前上から降ってきたけど、一体どっから来たんだよ」

「一度屋根まで上り、そして飛び降りました。この部屋は塔の最上階にあるので」

「わざわざご苦労なこった」

 無意味な演出をするために、一旦屋根に上ったらしいこの男。馬鹿じゃないのか。

 あまりの阿呆さ加減に、またため息をついてしまう。

 そんな俺を見上げて、男――――ベルンハルトはまた口を開いた。

「あの、貴方こそ一体……」

 彼の深青の瞳で見つめられて、俺は目を細める。ベルンハルトに映っている俺は、どう見ても女だった。


 肩まで伸びるさらっさらの金の髪、丸く大きな銀の瞳。長く塔の外に出ていないせいで肌は雪のように真っ白だし、体も男とは思えない程華奢だ。そして桃色のふりふりドレス。ちゃんと胸元には布を詰めている。俺の趣味のせいで、それなりに胸は大きい。


 どう見ても、女にしか見えないだろう。


「ほ、本当に男性、なのですか……?」

「この声を聞いても女に思えるって?」

「い、いえ……」

 男の体つきにならないように極限まで運動量を減らしたり、食事も限界まで量を減らしたりと俺は女である姫の影武者になるために物凄い努力を重ねてきたわけだが、それでも声変わりだけはどうにもならなかった。成長期に食べなかったからか、血筋的にか身長はあまり伸びなくて多少長身の女という程度で何とかなったのだが、声は男にしては高い方だが女としては致命的に低くなりすぎたのだ。

「それで、フェリシア姫は筆談で会話をし始めたのですか……」

「そう。ちょうど都合よく熱が出てくれた時があってな、その時に声が出なくなったってメイドたちを誤魔化したんだ」

「そういうこと、だったのですか……」

 十二歳の時から俺はずっとこの塔に囚われていて一歩も外に出たことがないが、その間ずっと一人で過ごしていたわけじゃあない。何人かメイドがここで働いていて、俺の食事を運んできたり掃除をしたりと面倒を見てくれているのだ。俺はそんな彼女達全員と仲が良い。

 まぁ、ずっとここに閉じ込められていたら仲良くなってしまうものだ。

「です、が……」

 ベルンハルトは、制服のポケットから何かを取り出した。小さく折りたたまれたそれは紙の様だ。

 彼は、その紙と俺を見て顔をしかめる。俺はその様子に目を細めた。

 腕を組んで、ベルンハルトの次の言葉をじっと待つ。やがて、彼は思った通りの台詞を言った。


「ですが、貴方はかつて城で過ごされていたフェリシア姫にそっくりです」

「……そりゃあ、影武者だからな」

「いいえ、影武者とは思えない程そっくりです。……そもそも囚われの姫の影武者という言葉自体が、意味不明なのですが」

 面倒な男に、俺は本日何度目かも分からないため息をつく。

「そもそも、城にいたっつったら、もう少なくとも六年も前の話だろうが。十二歳と十八歳に、そっくりもくそもあるかよ」

「貴方は、この絵姿の少女をまるでそのまま大きくしたかの様な姿をしています」

「少女じゃなくて、俺は男だっつってんだろ」

 言葉が通じないらしい、なんて残念な奴なんだ。

 しかし、ベルンハルトは真面目な表情で俺を見上げる。彼は、未だに片手に持っている薔薇の花束を固く握りしめている。固く、手を震わせながら。

 花弁が揺れる。


「もしや貴方は、フェリシア姫の双子の兄の、フェリクス王子でいらっしゃいますか」


 甘くそれは、香る。






 かつて城に、双子の王子様とお姫様が暮らしていた。

 区別がつかない程、鏡映しのようにそっくりな、双子の兄妹がいたのだ。





「聡明で優秀なフェリクス王子に、無邪気で愛らしいフェリシア姫……しかし、フェリクス王子はすでに亡くなられたはずだ。六年前に…………」

 ベルンハルトは、目を細める俺とは対照的に、ラピスラズリのような瞳を見開いて俺を見上げている。その深青には、金が散っていた。

「亡くなられた、はずなのに。六年前、十二歳だったフェリクス王子は亡くなられてしまったはずなのに」

「へぇー」

 俺は唇を歪める。紅が塗られているそこは、薔薇のように赤い。

「貴方が、亡くなられたはずのフェリクス王子であるならば」

 彼は、花束を握った手を震わせながら、呆然と呟いた。


「フェリシア姫は、どこに?」


「死んだよ」


 俺は、そう吐き捨てた。





 かつて城に、双子の王子様とお姫様が暮らしていた。

 区別がつかない程、鏡映しのようにそっくりな、双子の兄妹が。

 その二人は、誰よりもそっくりで、誰よりも仲が良かったのだ。



「笑顔を無くしていく妹がいた。あれだけ毎日、きゃっきゃきゃっきゃ笑っていた、フェリシアがだ」

 俺は、腕を組んで背中を壁に預けながら、美丈夫から目を逸らして窓の外を見つめた。

 本当に今日は珍しいことに、空が晴れている。長く降り続いた雨が止んだのだ。不気味な雲は晴れ、月は満ち星は瞬く。その下には、昼間まで降っていた雨粒に濡れる森の木々達だけがじっと並んで沈黙している。

 鳥すら、鳴いていない。

「少しずつ笑わなくなって、最後は全く笑わなくなった。挙句の果てに毎日震えて過ごして、あの無邪気な俺の妹はどこ行ったんだって思ったね」

 今からもう、六年以上前のことだ。

「そんな風になる前の話……俺は勉強で疲れてんのに、フェリシアはいつも俺を捕まえて絵本を読めとせがむんだ。いつも同じ絵本だ。どんなのだと思う?」

「……さぁ」

 彼は、目の前の机の上に置かれた絵本に一瞬目を向けた。俺はそれを無視して、心底くだらないと思いながら言葉を吐き捨てる。

「囚われのお姫様を、超絶イケメン男の騎士が助けに来てプロポーズする絵本だ」

 はっと、俺の喉から乾いた声が漏れた。窓の外を見ていた視線を移し、俺は傍で座っている男を見下ろす。

「私にもいつか、こんなかっこいい騎士様が迎えに来てくれるんだ! とかなんとか馬鹿なことを言ってたもんで、俺はそのたびに言いかえしておいた。『いいか、男は皆下半身で全てを考えるケダモノで、穴を見付けたらそこに突っ込むことしか考えてないクソだから騙されんな』ってね」

「…………それ、幾つの頃の話ですか?」

「まだ精通も来てねぇガキの頃の話だな。男なんて、そんなもんじゃねぇ?」

「それは、どうでしょう……」

 まぁ、この目の前の男は潔癖そうだから、俺みたいな汚れた思考は持ち合わせていなかったのかもしれないが。

 俺は呆れたように肩をすくめて見せた。

「でも、絵本の中の騎士様も、下心あって姫助けに行ってんだろ。そうでも無かったら、わざわざ囚われた姫助けに冒険しに行ってねぇよ、最後プロポーズしてるしな。どうせ、その騎士様もいい女とやりたいだけか、もしくは、姫と結婚して権力が欲しいとかそんなところだろ? ただの戦闘狂なら姫助けるよりそこら辺の化け物ぶっ倒してるほうが楽しいしなぁ」

 なぁ、そう思うだろ、と俺は目の前の騎士に同意を求めるように笑いかける。彼は、俺の言葉にあからさまに緊張したように体を強張らせた。


 囚われの姫を助ける騎士なんて、下心しかない。まして、こいつは真っ赤な薔薇の花束まで用意して、まるで絵本の騎士様のように満月を背負って舞い降りたのだ。

 そう、妹が好んで読んでいた、絵本の騎士のように。


 俺は、机の上に置いてあった絵本を手に取って腕に持つ。

 俺がこの塔に来てから、毎日毎日、欠かさず読んでいた絵本。

 かつて、可愛い妹が毎日毎日、欠かさずに読んでいた、それ。


「御伽噺の世界の騎士様よぉ」

 俺は、絵本を持ちながら、美しい騎士に笑いかけた。

 にぃっ、と。


「俺は全部、知ってるよ」




***




 かつて城に、双子の王子様とお姫様が暮らしていた。

 区別がつかない程、鏡映しのようにそっくりな、双子の兄妹が。

 その二人は、誰よりもそっくりで、誰よりも仲が良かったのだ。


 俺は、誰からも期待されていた王子だった。何せ、俺は聡明で優秀だったのだ。

 俺は頭が物凄く良かった。精神がさっさと成熟したのかあまり子供っぽくなかったし、大人顔負けの頭の回転の速さを持っていた。大人と対等に話し、一を教われば十を理解する。むしろ、教わることなく自ら本を読むことで大方の知識を吸収した。

 

 聡明で賢い、王家の唯一の男児。


 俺は誰よりも素晴らしい王になるだろうと、誰もに期待をされた。

 しかし誰も、俺を、フェリクスという子供を、愛さなかった。


 ――――妹のフェリシア以外は。




『世界の均衡が、崩れ始めた』

 そんな神託を受け取ったのは、一人の神官だった。


 そして、彼が言ったように徐々に国が狂い始めたのだ。


 毒の雨が降り始めた。雪が生き物を溶かし始めた。雹が人間を貫き始めた。土が人間を吞み込み始めた。化物が大地を徘徊し始めた。


 それらは少しずつ少しずつこの国を侵し始めた。徐々に徐々に、狂い始めたのだ。

 少しずつ人が死に始め、生き残れたとしても少しずつ食料が足りなくなる。国が、狂っていく。人が、死んでいく。


 外で遊べない。食べ物が減ってきた。

 妹が、少しずつ少しずつ笑わなくなってきた。




「今日みたいに、久々に毒の雨が上がった日でな」

 俺は、淡々とそう紡ぐ。

「それを見てぽつりと妹が言ったんだよ、お外で遊びたいってね。当時から色々抜け出したりやんちゃしてた俺は、そんなあいつの手を引いて外に出たんだ。手を引いて、外に出た」

 ははっと、笑う。俺は、顔を歪めて笑う。

 ベルンハルトは、そんな俺を黙って見上げていた。

「でも、まぁ一応これでも王子様だったもんで、箱入りだった訳だ。雨が上がったって、均衡が崩れて狂い始めた世界は危険に満ちている。それを知ってはいても理解してなかったんだな、俺は。…………妹が死んだ」

 久々に外に出て、ほんの少し明るい顔をして俺に手を引かれていた可愛い双子の妹が。


 世界の均衡が、崩れ始めた。

 そして、化物が徘徊を始めた。彼女は、そいつに殺された。


 一瞬だった。


「だから俺は、フェリシアになることにした」

「……何故?」

 やっと口を開いた男を無視して、俺は淡々と続ける。

「簡単だった。俺とあいつは鏡映しだった。特にまだ性差が無いガキの頃だったからな。適当に死体をぐちゃぐちゃにして、股の間を食われたみたいに抉り取ってやったらもうそれが男の俺か、女のフェリシアかどうかなんて区別出来ない」

「何故、貴方はフェリシア姫と入れ替わったのですか?」

「後は服を交換すれば、完璧だ」

「フェリクス王子――――何故?」

 俺はベルンハルトを見下ろす。この男は根気強く俺を見上げていたみたいで、なんて鬱陶しい男なんだと辟易した。そんな面倒な男は、フェリシアは嫌うだろうに。

 彼女は、夢見がちな愛らしい少女だったのだから。


「――――母上と父上は、俺よりもフェリシアに帰ってきて欲しいと思うだろうからな」


 俺は、ぽつりと呟いた。

 誰もから期待された王子様。でも、王子様は妹以外の人間から愛されなかった。

 愛らしい妹は、誰からも愛されていた。


 フェリクスは両親に愛されていなかったが、フェリシアは両親に愛されていた。俺の可愛い、俺の妹。


「だから、俺が死ぬことにしただけだ」

 妹の愛した絵本を、胸に抱きしめる。お前はもう、どこにもいないのに。






「フェリシアは、どうしてこの塔に囚われることになったか、知ってるか?」

 沈黙していた騎士にそう問いかければ、彼は暫しの間の後に頷く。

「言ってみろ」

 ベルンハルトは目を伏せた。彼のラピスラズリの瞳が見えなくなる。机を見つめる彼が、俺に従って口を開く。

「壊れたフェリシア姫に、安らかな時間を過ごしてもらうためです」

 俺は目を細める。命令に従った騎士は、また俺を見上げた。

 また口を閉ざした彼の代わりに俺が言葉を引き継ぐ。

「そうだ。目の前で兄を殺されて壊れたフェリシアに、この狂った世界から隔離された塔で穏やかで優しい時間を過ごさせるためだ」

「何故、貴方は壊れることにしたのですか?」

 ベルンハルトの問いに、俺はまた素直に答えた。唇は、笑みの形に歪んだまま。

「母上と父上に、無邪気で愛らしい娘を返すためだ」

 フェリシアと入れ替わった俺は、かつての妹のような演技をすることにしたのだ。つまり――――にこにこいつも無邪気に笑っていて、大好きな絵本を毎日飽きずに読んでいるフェリシアの演技を。

 毎日を暗い顔で過ごしていた彼女はもういない。フェリシアは、フェリクスが死んだことで狂ったのだ。狂った世界で、狂った彼女は毎日を笑顔で過ごす。


 それがおかしいことでも、それでも俺達の両親は、フェリシアに笑って過ごしてもらうことを望んでいただろうから。俺と同じように。

――――心の、底から。


「世界が狂ったことを忘れて。兄が死んだことを忘れて――――兄がいたことすら忘れて。毎日、楽しそうに笑顔を振りまく、愛らしいフェリシアとして、俺は生きることにした。でも、城にいれば嫌でも狂ったこの国を見る羽目になる……だから、母上と父上は、俺を、愛しいフェリシアをここに閉じ込めた。この塔へと、閉じ込めた」

 彼女がいつだって読んでいた、大好きな絵本と共に。


 俺は、何度も開きすぎたせいでぼろぼろになった絵本を再び机の上に置く。この塔には、俺と、数人の優しいメイド達、そしてこの絵本しかなかった。

 そんな塔に、薔薇の花束を持ってプロポーズしに来た騎士がいる。

 俺の、目の前に。


 甘い、甘い香りがする。


 ――――俺は、躊躇することなく男が握り締め続けている薔薇の花束を取り上げて床に叩きつけた。


「――――――――っ!」

 唐突な俺の行動に、ベルンハルトは勢いよく立ち上がった。椅子はひっくり返り、男は目を見開いている。

「なに、を!」

「ベルンハルト」

 真っ赤な薔薇の花弁が舞い上がる。気障ったらしいその光景に、反吐が出る。甘い香りが、優しい塔の一室に満ちてゆく。

 部屋中に花弁がひらひらと舞い上がる中、俺は美しい騎士を見上げた。彼は、酷く狼狽している。

「これは、母上と父上の指示かな?」

 俺は、床に転がった小さな包みを軽く蹴飛ばした。薔薇の花束に隠されていたそれは、酷く甘やかな香りを不愉快な程発している。

 俺が蹴ったことで包みが剥がれて、中から小さな薬が飛び出てきた。それは、その効能の強さに比例するように、甘く凶悪な香りを発するのだと俺は知っている。

「囚われの姫を助ける騎士なんて、下心しかない」

 真っ赤な薔薇の花束まで用意して、まるで絵本の騎士様のように満月を背負って舞い降りたベルンハルト。

 ――――そう、妹が好んで読んでいた、絵本の騎士のように。


 馬鹿にしたように、俺は騎士を小突いた。俺よりもずっと大柄な彼は、俺が軽く胸を突いただけでよろめいて尻をつく。俺はさらに彼を押し倒して、至近距離で彼の瞳を覗き込んだ。

 噎せ返るような甘い香りが満ちた中、俺の銀の瞳と、彼の青の瞳が交差する。俺は彼に、囁きかけた。


「お前の下心は、なんだ?」



 ――――その薬は、幸せな夢を見せたまま穏やかに人を死に誘う毒薬だ。






「夢を」


 長い長い沈黙の後、美丈夫はどこでもない場所を眺めてそう呟く。

「貴方に夢を、見せるために」

 そう言ってまた黙り込んだ男に、俺は仕方なく「それで?」と囁いた。

 これ以上誤魔化させるつもりはない。まぁ、最も――――この男も、もはや誤魔化す気はないだろうが。彼はまたぽつりと続けた。

「塔にいる可哀そうな子供に夢を見せて、そして安楽死させるようにと、私は命ぜられてここに参りました」

「命じたのは誰だ?」

「貴方が先ほどご自分で仰った方々です」

 俺は体を起こして、床に座り込む。天井を仰いで、深々と息を吐いた。

 俺の髪が、床と床に零れた薔薇の花弁に触れる。

「――――――母上と父上が、どうして?」

 ベルンハルトも体を起こして、そして彼は窓の外を振り返った。雨はまだ止んだままだ。月が、己の光でこの部屋を照らすという、無意味な演出を続けていた。舞い落ちた薔薇の花弁も相まって、まるでこの塔の一室だけ御伽噺から切り取られてしまったかのようだ。

 ベルンハルトは、外を眺めたまま口を開く。

「貴方がここに囚われている間に、世界はさらに狂っていきました。ここから見える異常は、せいぜい空から降る狂気のみでしょうが、ここから離れたところにある人の住む町ではもはや人間がまともに過ごせるような地ではなくなってきている……それでも何とか知恵を絞って食料を確保して、その日を生き残れた人間達で明日をまた生き残ろうと懸命に生き続けていました――――――先日、神託が降りました」

 彼はうつむいて、そして転がったままの薬を手に取る。それを見下ろし、ベルンハルトはかすれた声で呟いた。



「『もはやこの世は地獄に堕ちる。それと共にする前に、神の楽園へ参れ』と。そしてその言葉に従って、民たちは皆、神の楽園へと向かいました――――――もう、この世で生きているのは、任務を命ぜられた私と、この信託を告げられていなかった貴方のみです」



 俺は、この男が何を言っているのか理解できなかった。全身を硬直させて、目を見開く。

「は……?」

 ベルンハルトは薬を握りしめたまま顔を上げ、そしてラピスラズリの瞳で俺を見つめた。俺は、意味もなくその瞳を覗き込む。そこにあるはずの何かを探して。

 だが、あったのは安寧だけ。揺らぎも動揺も無い。そして、夜の海の水面を思わせるように、その瞳の奥は暗い。

 彼は残酷に、続ける。

「神の言葉は、絶対――――皆、自ら命を絶ち、神の御許に向かいました」

「みん、な?」

「えぇ。王も、王妃も、城の高官も、下僚も、神官も、国の民も、皆。私が命を受けこの塔に上ったとき、この塔に勤めていたメイドが全員神の楽園へ向かったことも、確認済みです」

「メイド、達も……?」

「はい」


『明日の朝食は何に致しましょう、姫様。何かご希望はございますか?』

 なんでもいいけれど、皆で一緒に食べたいわ。

『仰せのままに、姫様。他のメイド達にもそう伝えておきますね』

 嬉しいわ。

『私達も、姫様にそうおっしゃっていただけて嬉しゅうございます。それでは、おやすみなさいませ』

 えぇ、また明日。

『良い夢を、姫様』


 …………そんな会話を。会話と言っても俺は筆談だったが、交わしたのだ。この男がバルコニーに降ってくる、ほんの少し前に。この塔で六年もの時を共にした、優しいメイド達の一人と。

 そんな風に、いつも通りに、穏やかに。


「私は近衛騎士です。王と王妃の命は絶対――――――この塔で、優しい世界で生きる私達の子供に、最後の最後まで夢を見せろと、そう命じられました。そして、その幸せな夢の中、穏やかに殺せと」

「そう、母上と父上が?」

「はい。それが、神の楽園へと向かわれたお二人の最後の命でした。そして、フェリシア姫が、囚われのお姫様を騎士が助け出して結婚を申し込む絵本を毎日好んで読んでいるという情報をここのメイド達から教えて頂きまして…………同僚の近衛騎士団の中でもっとも容姿に優れていた私が、姫を助ける騎士の役を担当することになったのです」

「へぇ……」

「毒薬の匂いを誤魔化すために、この甘い香りの赤い薔薇の花束を用意して。そして、幸せな夢を見ている間に服毒させる。最後まで憂いなど一切ない幸せな世界に生きたまま――――…………これが、私の下心の全てです、フェリクス王子」

 そう言い切って、彼はもはや沈黙した。

 包みから零れ落ちた薬は、二人分――――この男も、命を達成後に自殺する予定だったのだろう。


 俺は、喉を震わせる。

「……王子」

「はっ、は、はははは……――――――――おい、ベルンハルト」

 俺は唇を醜く歪めながら、おかしそうに騎士を見た。

 あぁ、おっかしい。

「狂信者しかいねぇのかぁ、この国は?」

 はっ、と俺は乾いた笑いを吐き出した。互いに床に座ったまま、俺は歪な笑みを浮かべて呆れたように言い放つ。

「信託に従って、皆仲良く自殺か?」

「はい……元々、希望も無い世界になってしまっていましたから」

「はっ、馬鹿みてぇだなぁ。それでお前は、皆が自殺した狂った世界で、この狂った世界を忘れて幸せに暮らしてた、狂った姫を殺しに来た訳か、あぁ、成程なぁ」

 あぁ、おっかしい。

 俺は、けらけらと腹の底からこみ上げたそれに従って笑ってやった。天井を仰いで、大仰に笑う。

「それでてめぇは、その哀れなガキに夢を見せに来たって訳か。気障ったらしく薔薇の花束片手に持って、バルコニーにわざわざ舞い降りて、そんでプロポーズねぇ、ははっ」

 愉快に笑う。けらけら、けらけら、無意味な俺の声だけが暫く部屋にこだました。

 目の前の男は、何を考えてるのか良く分からない無表情でそんな俺を見つめている。瞳にあるのは安寧と、その奥の暗鬱な陰影だけ。もしくは、諦め。

 初めにあった動揺はもはやない。


「フェリシア姫は、すでに亡くなられていた。夢を見せて、幸せの中殺せという命令は、もはや果たせない」

 ぽつりと、彼は呟きを落とす。

「最後に、私が忠誠を誓った王と王妃の命令に背くことになるとは、思わなかった――――命令を私に下したお二人も、すでに亡くなられた」

 深い諦めの中にいるだろう男を、俺は鼻で笑った。俺は立ち上がり、座り込んだままの哀れな騎士を見下ろす。

 顔を上げたベルンハルトの深青の瞳を俺は覗き込んで口を開いた。

「この塔で、優しい世界で生きる私達の子供に、最後の最後まで夢を見せろ。そして、その幸せな夢の中、穏やかに殺せ。これがお前に言い渡された最後の命令だな?」

 そう告げれば、彼は少し瞳を揺るがせてから頷く。

 俺は、薔薇の中に座り込む美丈夫を心底馬鹿にする。くだらない命令に背くことを嘆くところも、こんな簡単なことにすら気が付かないところも本当に愚劣だ。

 だが最初からこの男は馬鹿だったので、わざわざ言ってやらねば分からないのだろう。

 本当に、愚かな男だ。


「王子である俺も、一応あの人達とちゃんと血のつながった子供なんだがな?」

「――――は?」


 何が、は、だ。阿呆め。

「だから、俺もあの人達のガキだっつってんだよ」

 何回言わせるんだと思いながらももう一度繰り返せば、ベルンハルトは僅かに焦ったような表情を見せる。

「いやしかし、二人はフェリシア姫のことを指していて……」

「『私達の愛しい子供』って言ってたんなら俺じゃなくてフェリシアだろうがな、ただの子供なら俺も入るだろうが」

「それは…………」

「だがな――――――」

 しどろもどろになっている間抜けな男に、俺はさっさと畳みかけることにする。

 薔薇の花束片手にバルコニーに舞い降りた気障な騎士に、声を荒げて俺は怒鳴った。

「いいか、よく聞け! 俺は異性愛者の女じゃねぇし、同性愛者の男でもねぇ! 俺は! 完全なる異性愛者の! 男だ! 俺の好みは、胸と尻のでかい大人の女! 間違ってもてめぇみたいな男じゃねぇ!」

 突然怒鳴り始めた俺に仰天したようにベルンハルトは大きく目を見開く。そんな彼を見下ろしながら、俺は大きく息を吸って、吐いた。

 大きな深呼吸の後、俺ははっきりと宣言した。


「だから、てめぇみたいな野郎にプロポーズされたって、夢は見れない」


 俺は、大きな瞳で俺を見上げる男にそう告げる。俺の怒声も宣言も止み、部屋に静寂が満ちるだけだ。未だに甘い香りは充満しているし、薔薇は汚いし、騎士も無様に床に座り込んでいる。

 そんな彼が、静寂の中先に喉を静かに震わせた。

「貴方の夢は、何ですか」

 じっと見つめられたので、答える。

「世界の復興だ」

「……この地は、地獄に堕ちると」

「上等だ」

「…………それに、もはや誰もが神の楽園へと向かった」

「んな訳あるか。この国の全員が狂信者な訳ねぇだろうが、馬鹿が。神が何と言おうが、間違いなく自殺を選ばなかった生き残りがいるはずだ。今頃、主が自殺していなくなった家で嬉々として泥棒してんだろうよ」

「そん、なこと、は」

「ない訳ねぇっつってんだろ。つーか、この国は信仰が根付きすぎてるけど他国はそうじゃねぇだろうが。間違いなく生き残ってる人間はごまんといる」

 彼は黙った。

 俺はこの隔離された塔で六年間過ごしていた。だから、世界がどうなっているのか良く知らない。もはや人が生きれる地じゃなくなっているのかもしれないし、本当に、もう恐ろしい程人がいなくなっているのだろう。

 それでも、間違いなく生き残っている人間はいる。

「そんな人間達と合流して、穏やかな世界を取り戻す。誰もが笑えるような世界だ――――かつての、俺の可愛い妹のように、無邪気に笑える世界。かつての、俺の可愛い妹のように、外に出ただけで殺されない優しい世界だ」

 俺にとっては本当に遠い昔の、六年以上前の記憶。一瞬にして殺された妹と、愛する娘を殺す毒薬を騎士に持たせた両親の記憶。

 まだ、世界が狂っていなかった頃。


 この世界には、無邪気に笑う妹と、そんな彼女を幸せそうに見つめる両親がいた。そこに俺はいない。

 それでも、俺は。


「俺は、両親に夢を見せたよ。貴方達の可愛く愛しい妹は無残に殺されることなく塔で幸せな時を過ごし、そして最後は、美しい騎士に助け出されて結婚を申し込まれる幸せな夢の中死んだのだと。俺は最後まで、母上と父上に夢を見せ続けたよ。最後の最後まで、俺は二人に夢を見せ続けたよ。二人は俺なんて愛していなかったけれど――――俺は、二人を愛していたから」


 貴方達が自殺する最後の最後まで、俺は貴方達の夢を貫き通して見せた。

 俺は、貴方達に最後の最後まで、夢を見せたのだ。


「だから、次はお前の番だ――――王と王妃の命令に縛られる哀れな騎士ベルンハルト」

 そう言って、俺は桃色の愛らしいドレスの胸元に手をかけ、中から女の胸の代わりを務めていた布を抜き出す。それがはらりと床に流れ落ち、代わりに俺は床から毒薬の入っていた包みと、いつのまにか男の手から零れ落ちていた二粒の毒薬を手に取った。

 包みの口を封じていた紐を抜き出して、下ろしたままの髪を高く乱雑に縛り上げる。そして、親指で己の唇をなぞって、紅を取った。


 フェリシアは、もういない。ここにいるのは、フェリクスだ。


 ふぅ、と前髪をかき上げてから、俺は手を伸ばした。

 座り込んだままの男の胸倉を掴み上げ、無理矢理立ち上がらせる。


 少しよろめく美丈夫の様子など気にせず、俺は彼の精悍な顔を己に引き寄せた。そして至近距離でベルンハルトの瞳をこれでもかと覗き込んだ。ラピスラズリの瞳が良く見える。深青に金が散ったその美しい瞳に、俺の姿が鏡のように映り込んでいた。あぁ、よく聞けよ、ベルンハルト。

 俺の妹を殺しに来た、騎士様よ。

 俺の妹に、夢を見せに来た、美丈夫よ。

 体をぶつけ合うように俺は男の胸倉を掴み上げたまま、低く俺は囁いた。




「――――――――――――俺に夢を、見せてみろ」




 ただただ目を見開く騎士に、俺は囁き続ける。

「次は、俺が夢を見る番だ。誰かに夢を見せるのは、もう終いだ―――――なぁ、ベルンハルト。お前が俺に、夢を見せてみろ。最後の最後まで両親に夢を見せ続けた俺に、最後の最後まで夢を見せてみろよ」

 そして、手に持った毒薬を彼の胸に強く押し付けた。その甘い香りが満ちる中、俺も甘く微笑んでやる。

 それこそ、この騎士が一番初めにそうしたように。


「そしたらその夢を見ながら、お前に殺されてやるよ」


 王と王妃の、最後に見た夢の通りに。





 ベルンハルトは、俺が押し付けた薬を無言で受け取る。俺は彼から距離を取って、高慢な笑みを顔に浮かべてみせた。

 首を傾けると、久々に縛り上げた俺の金の髪がひらりと揺れる。気取ったように、俺は片手を腰に当てた。

「騎士が囚われの姫を助け出すってのもセオリーだがな、王子に付き従う騎士ってのもまたそうだとは思わねぇか?」

 下から男を見上げてみせれば、彼は少しだけ口を閉ざした後に低く呟く。

「それは確かに、そうですね」

「てめぇの主達は、最後の願いをお前に託しておっちんだ。なら、その願いを叶えるまでは、俺の騎士になれよ、ベルンハルト。俺に夢を、見せてくれるんだろ?」


 そう言って笑えば、彼は虚を突かれたように目を見開いた。俺は、そんな彼を面白がるように銀の瞳で見つめる。

 妹を殺しに来た騎士。

 妹に、結婚を申し込みに来た愚かな男――――薔薇の花束という、毒薬を片手に。


 暫くしてから、彼はその場に片膝をついた。薔薇の花弁が無意味に揺れ動く。


 久々に雨が止んだ夜。大きな窓から、大きな満月とそれをとりまく小さな星達、そして昼間まで降っていた雨粒に濡れる森が小さく見える。

 そんな美しい背景を背負った騎士が、俺の前で静かに跪いている。高い塔の、小さな一室。まるで御伽噺のような光景に、無意識に俺はぞくりと震える。


 当たり前のように俺を見上げて、類稀なる美貌を持った男は鳥肌が立つような笑みを浮かべた。






「――――我が主の、仰せのままに」

 彼は低い声で、そう告げた。





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