彷徨う英雄、亡き人は帰らずⅢ
てーい
私のやる気はどこに行ったんだか……
般若英雄が地面を蹴って襲ってくる。
刀の刃先は俺に。
かなりの速度から予測するとまずは【刺し】。
予測すると共に顔だけを左にずらす。
だけどそれだけじゃダメだ。
この般若英雄は避けられたらすぐに二の手三の手と行動してくる。
なら二の手を止めよう。
黒刀が顔のすぐ横を通り過ぎる。
般若英雄は勿論黒刀をその場で止めて俺がいる右方に刀を振ろうとした。
だから俺は顔を横にずらしてその場でジャンプ。
ジャンプしたら体を回転させる。
その回転を活かした蹴りを般若英雄ではなく黒刀に上から下へと蹴りおろす。
黒刀に無理やり力が入ったからか般若英雄の手から離された黒刀は縦に回転しながら宙に舞う。
地に足をつけた俺は更にその場で縦に一回転。
下から上に持ち上げた踵を黒刀の柄に上から下に振り下ろす。
刃先は般若英雄に向いてる為十分攻撃の一手になったが、般若英雄は驚きすら表さず華麗に半歩右へ移動して黒刀を避けた。
「だめだめ、そんな避け方はナンセンス」
甲冑の関節部分に一文字で切り込む。
相手の体力バーが少しだけ減ったのが確認できた。
それは1%にも満たない減り具合だったが、俺にとっては勝利が見えるほどに嬉しいものだった。
気を緩めるな。
攻撃はまだ続いてるんだ。
般若英雄の前から膝裏に足の甲を当てて一気に引っ張る。
力づくで踏ん張られたらひとたまりもなかったけど、とにかく速く動いたからちゃんと効いたみたい。
体制を無理に崩された般若英雄はそのまま背中を地面に着くように倒れるしか無かったが、それだけじゃまだ足りない。
倒れかけてる般若英雄の顔目掛けて足を踏み込む。
しかし般若英雄は体勢が崩れているのにも関わらず足の力だけでその場でバク転をかました。
なんとかバク転の間合いから外れたから助かったものの、食らっていたらひとたまりもない。
「そんなことできるか普通」
「アイラ……アイラ……アイラ……どうして」
何かを呟いたと思ったら般若英雄の周りから黒いモヤが出てきた。
その黒いモヤはどんどん黒くなっていき、遂には般若英雄が見えなくなるほどになってしまった。
こういう時は待つことが良しとされている。
相手がパワーアップしてしまう可能性しかないが、こういう時に何かしてしまったら強制的な死があるかと疑ってしまうからとにかく待つ事にする。
待つこと数秒すぐに黒いモヤが無くなった。
静かに消えたというか……破裂した様な勢いで無くなった。
黒いモヤの中からは黒いオーラを纏った般若英雄が現れた。
さっきまでは般若の仮面をつけていた人物だったが、今はその般若の仮面が顔と化している化け物そのものみたいだ。
左腕はさっきと同じ垂れ下がっている。
右腕には黒い刀ではなく、黒い大剣があった。
「アァ……ア……ァ……」
「もう喋る事すら出来なくなったのか、可哀想な奴だ」
英雄はその場で力を溜める仕草をした後、黒い斬撃を放った。
宙に浮く形の横一閃の黒い斬撃。
俺は片足でジャンプをすると同時に体に捻りを加える。
黒い斬撃は俺の真下を通り過ぎて後ろの壁まで飛んで行った。
黒い斬撃が当たった壁は見る影もなく、バラバラに吹き飛んでしまった。
視線を英雄に戻せばもう俺の目の前にいると来た。
剣先が前から顔を狙った位置で飛んできた。
【一文字】で受け流す。
かなりのスピードだったから受け流しをすればそのまま距離が取れると思ったのに……右足で踏ん張ってその場で止まったよ。
大剣とその体を回転させてこちらに攻撃を仕掛けつつも後方に下がった。
……え、化け物になってるとはいえ一応人だよね。
おかしいおかしい、人ってあんな動きもできちゃうの?
大剣の重みを利用して大剣に振り回される形で後ろまでジャンプバックしたってこと?
おもしろい戦い方だな。
化け物になっても英雄は英雄ってことか。
あの大剣はどう考えても業物。
さっきの黒刀だってすごいものだと思うけど、黒刀と変わらないくらいすごいものの上に重量がある。
【一文字】は元から耐久値がかなり低い、一手でもミスをすればおじゃんになりかねない。
「壊れたら俺の技量・努力が足りなかったってことね」
英雄はまっすぐ立ち肩に大剣を担いでる。
そのままこちらに顔を向けながら円を描くように歩く。
10歩ほど歩くと目の前から消えた。
英雄は俺の後ろに移動をして低姿勢になっている。
使えない左腕を振り俺に当ててきた。
当てられた衝撃で後ろに下がらざるを得なかった俺に英雄はその場で高くジャンプをした。
俺に向かってジャンプをした英雄は縦に一回転を加え、大剣を回転と重力の力で思い切り叩きつけてきた。
避けることに成功したがもう一回同じことをしてきた英雄。
流石に同じことをすぐにやられても回避できちゃう。
大剣が落ちてくる場所を正確に予測してその間合いの外に足を運ぶ。
そうして英雄の大剣が地面についたと思ったその時、大地が揺れた。
何かのスキルかなって思ったけどそうじゃないみたい。
この英雄さん怖すぎるんだけど、聞いたことないよ『力で大剣振るったら大地が揺れました』って……怖すぎるんだけど。
でも今ので力を通常より使ったからなのか、隙ができた。
片膝を着いてた英雄の胸に下からの蹴りを放つ。
両肩の甲冑の隙間に【一文字】を一太刀ずつ入れる。
続きましては腹、股関節、胸を蹴った時の怯みがなくなるところで更に足を背中側から掬う。
足を掬われて背中から倒れそうになった所で膝裏に一太刀。
英雄は急いで足に力を入れて立とうとしたんだろうけど、その足を側面から蹴りを入れる。
するとどうだろう、綺麗に横回転していくではないか。
更に足首を英雄の首に掛けて地面に倒す。
思い切りやったので地面からワンバウンドした英雄の首に一太刀入れる。
「ァァァ・・・・・・アアアア!!!!」
英雄から黒いモヤが大量に出てきた。
この黒いモヤってなんなんだろう。
英雄が持っている何かの能力なのか、そうじゃないナニカなのか。
そんなことを考えてたら黒いモヤが一塊になって襲いかかってきた。
咄嗟のことで何もできずに壁まで吹き飛ばされた。
「流石にいったいわ・・・・・・これもつかな」
何回も吹き飛ばされたり蹴られたりしたお陰で身体はボロボロだな、もう何回か喰らえばもたなさそうだな。
英雄が大剣を引き摺りながら猛スピードで突っ込んできた。
目の前で俺に背中を見せて一回転、ここまで突っ込んできたスピードと今ここで産んだ回転力で強い一撃を繰り出してきた・・・・・・けど、それはもういい。
ーーー【流水】
首に一太刀。
ん・・・・・・?
体力がかなり減ってる。
黒いモヤの影響なのか分からないけど、残念なことばっかりだ。
俺から距離をとって叫び声を上げる英雄。
すると英雄の周りから黒いモヤの球体が5つ。
その5つの球体から黒い棘が発射された。
そこまで速いものではなかったから簡単に避けれるけど、それに加えて本体も攻撃してくると思ったら難しいな。
棘を噴射しながら俺に飛びかかってきては斜め切りや回転切り・・・・・・それも【流水】で受け流しをする。
すごく残念だ。
残念だし、ショックしかない。
黒いモヤが出てきてからだ。
英雄の動きが酷くなってるのが。