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続・私の海賊さん。~異世界で海賊を拾ったら私のものになりました~  作者: 谷地雪@第三回ひなた短編文学賞【大賞】受賞
第六章 家族

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終章

 ずっと、誰かに会いたかった。




 名前はフラン。母さんはカスミ、父さんはメイズ。俺の名前は、母さんがつけた。

 本当は別の名前を持っているのだそうだけれど、それはいつか教えてくれるらしい。

 生まれは緑の海域。けど、育ちは赤の海域。母さんの友達がいて、俺を育てるのに協力してくれた。いつも誰かがいたから、俺はあまり寂しいと思ったことが無い。四大海賊とかいう偉い人たちが遊びに来たこともあって、母さんの交友関係は謎だった。

 父さんはあまり家にいなかった。父さんは、黒の海域をまとめる仕事をしているのだそうだ。セントラルとの橋渡しをして、ゴミ溜めのようだった地区を、少しずつ整備しているらしい。立派な仕事だ、と母さんは言うけれど、俺は黒の海域に行ったことが無いので、よくわからない。


 俺は、生まれた時は、母さんと同じ黒い髪と黒い瞳をしていた。それが十になる頃、突然目が赤くなった。そのことで、母さんと父さんは一時もめたらしい。母さんは未だに根に持っている。

 母さんとも父さんとも違う色だから、俺は不安になって、二人の子どもではないのではないか、と聞いてしまったことがある。母さんは俺を宥めて、それは魂の色なのだと教えてくれた。理屈はわからなかったが、時が来たら教えてくれるとのことだった。


 十五になる頃、俺は旅に出ることにした。

 誰かを、探しに行きたかった。

 誰かはわからない。何故かもわからない。ただ、ずっと誰かを探している気がした。己の半身が欠けているような感覚が、常にあった。

 それを両親に告げると、母さんは泣いて喜んだ。父さんは、死なない程度で帰ってこい、と言った。

 母さんは、俺に黒い指輪と、コンパスを渡した。その誰かを探すのに、きっと役に立つと。指輪なんて初めてつけたのに、それはなんだかひどく指に馴染んだ。


 それから五年ほど旅をした。誰かには、まだ会えていない。

 顔も名前もわからない。それで探しようがあるわけがない。それでも何故か、諦められなかった。


 新しい島に着いて、コンパスを眺めた。こちらを指していたが、さてどうか。

 針路は、母さんに聞いた通り、たまにコンパスを指に刺しては、それが示す方へ向かっている。


 何も無さそうな島だ。広大な畑が広がっている。農業が主体の島なのだろうか。

 作物が豊かなら、食べる物には困らなそうだ。食料が行き渡っているのなら、争いは少ないだろうと目を細めた。


 軽い足音がした。誰かが駆けてくる、と思っていると。


「きゃっ!」


 突然、女がぶつかってきた。

 女の持っていた果物が散らばる。抱えすぎて、前が見えていなかったらしい。


「ご、ごめんなさい。だいじょうぶで……」


 その女の姿を認めた途端、俺は女を抱き締めた。


「え、ええっ!? ちょっと、何ですか!?」


 慌てた女は俺を引き剥がそうとしたが、


「……泣いて、るんですか?」


 答えられなかった。涙が止まらなかった。

 会いたかった。会いたかった。それ以外に、何も浮かばない。


 女は暫く戸惑ったようにしていたが、迷った末、ためらいがちに俺の背に手を回した。


「なんでかな。わたし、あなたのこと知ってる気がする。ね、わたしマリアっていうの。あなたは?」

「…………フラン。今は」

「今は? 昔は違ったの?」

「フランツ、と呼んでくれないか」

「え……でも、その名前って」

「頼む」


 フランツは悪魔として有名な名前だ。子どもにつける親はまずいない。

 けれど。彼女には、そう呼んでほしい。ああ、これが魂の名前なのかもしれない、と母さんの言葉を思い出していた。


「……わかったわ。フランツ」

「――……マリア」


 もう二度と。離れない。

 今生こそ、君と共に。

最後までお付き合いありがとうございました!

もし好きだと思っていただけたら、評価をぽちっといただけると大変嬉しいです。

よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  第二部の奏澄は船長っぽくしっかり交渉できるようになって、第一部よりだいぶ成長してますね。  結婚式シーンの奏澄とメイズが幸せそうで、そのままハッピーエンド一直線かと思っていました。もう…
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