海底
三題噺もどきーじゅうにこめ。
海の底の少女の話。
お題:桃色・深海・電話越しの声
私のセカイは、青く、蒼く、碧い。
見上げると、キラキラと太陽の光が反射している。
ヒラ―と、一匹の小さな桃色の魚が私の目の前を横切る。
「…………。」
私のソラは、暗く、黒く、闇い。
―私は、深海に縛られている。
何故かなんて、忘れてしまった。
何万年も前のことなんか覚えているわけなかろう。
もとより、記憶力はよくない方―だったと思う。
両手は、大きな岩に繋がれ、足は人のソレではなく、魚のそれである。
(昔は普通の人間だったのに。なんでこんなことになったんだろ。)
昔々の話をしよう。
海の近くの小さな村に、1人の少女がいた。
彼女は、ある日、浜辺に打ち上げられた男を見つける。
しかし、ソレは、上半身は人であったが、足は人間のそれではなく―魚の尾鰭だった。
彼は人魚だったのだ。
心優しい彼女は、不思議に思うも、倒れていた彼を助けた。
甲斐甲斐しくも、世話をやいた。
目を覚ました彼は、彼女にお礼を言い、海へと帰っていった。
しかし、彼女は、彼のことを忘れることが出来なかった。
来る日も来る日も、海に行き、彼は居ないかと探す少女を何人の村人が見ただろうか。
ある日、少女はまた、浜辺へと向かった。
そこには、二度と会えないと思っていた、彼がいた。
忘れようにも、忘れられないのは、お互いのようだった。
その日から、2人は毎日会うようになった。
―しかし、人間と人魚の恋など、祝福される訳がなく。
人魚の彼は、海から追放され、人間の彼女は、深海に縛られた。
それから、何万年もの時が経ち、未だに彼女は深海に縛られたままであった。
(どうして愛してはいけなかったのだろう。)
深海から見える景色は変わることなく毎日同じ景色が広がっている。
「あ―」
声が漏れた。
長い間話すことが無かったからか、電話越しの声のようにくぐもった声が出た。
なぜ、声が漏れたのか。自分でもよく分からなかった。
声を出せば、彼が来てくれるとでも思ったのだろうか。
それでも、声を出さずにはいられなかった。
「あ、ぁ、」
声はか細く、波の音に掻き消されそうで。
どれほどそうしていたのか。
何時間?何日?
もしかしたら、何年もそうしていたのかもしれない。
時間の間隔なんて、とうの昔になくなっている。
突然、見上げたソラに影がさした。
それは―