挨拶
「おはよう黒田君!」
こうやって自室にこもって挨拶の練習をするJKは、世界中に何人いるのだろうか。
でも、せっかく近くの席になれたのだ。これを機に親しくなってみせる。
「お、おはよう黒田君!んー何か違うんだよね~」
もっと普通に。緊張しているのがバレないようにするのがベストなんだけどなぁ。やっぱ好きな人の前だと緊張しちゃうよね。
こんな姿を黒田君に見られたら絶対ドン引きされる。それだけはやだよぉ。
「はぁ。どうしよう」
ここで折れちゃいけない。頑張れ私。
「よし!頑張るぞ!」
その後も、普通の挨拶練習は行われた。
翌日
「昨日の練習の成果。今日発揮してみせる!」
家を出る寸前に呟く。
登校中も何度も練習をした。小声だったとはいえ、道行く人に「何この子......」みたいな顔をされたことは気にしない。
気にしないけど、やっぱり恥ずかしかったので足早に学校に向かった。
教室に続く階段を上っている際も緊張が私を襲う。
「おはようてる!」
「うわぁ!?」
「何でそんなに驚くの!」
「急に話しかけられたら誰だって驚くよ」
「それもそうだ」
納得したように手をポンッとする、るい。
何だかんだ助かったかも。緊張も少しだけ解けたし。
「さっきからてるの様子変だよね~」
頭の後ろで手を組んでそう言った。
「別にそんなことないと思うな~」
大嘘だ。
「そうかなぁ。まあいいか」
これ以上は何も聞いてこなかった。
やがて教室の前に辿り着く。
心臓の鼓動が早い。緊張してるんだ。ただ挨拶するだけなのに。
教室の窓から中を覗く。
「うわぁ~。黒田君いるよぉ。緊張する」
「ん?何か言った?」
「何も言ってない!」
「そっか!」
よし。いつまでもここにいるわけにもいかないし、行くしかない!
と思ったら、
ガラガラガラ————。
「へ?」
気づいたら隣にるいの姿はない。
扉を開けて教室に入っていた。
「ちょ、ちょっと待って!」
るいの背中を追いかけていると、あっという間に自分の席に辿り着いてしまった。すなわち黒田君の下に辿り着いてしまったのだ。
もうここまで来たら、やるしかない。
「お、おはよう黒————」
「黒田君おはよう!」
何とここで親友の邪魔が入った。
「おはよう」
黒田君は何も気にせず、るいに挨拶を返す。悲しい。
「るーいー!!!」
「ど、どうしたてる!?怒ってるの?」
私の怒りを感じ取ったのか、るいは肩をすくめて一歩後ずさった。
「怒ってないけど。何で私の邪魔するの!」
「それで怒ってないの!?てか、何のこと?」
まあ、そうなるのも無理はない。るいは何も知らなかったのだから。
これは私も悪かったな。
「ごめん。私も悪かった」
「ん?よく分かんないけど......」
「るいなら許すよ」
「う、うん」
曖昧な感じのまま話が終わったせいで、スッキリしないのか、るいはずっと首を傾げて自分の席に座っていた。
それに黒田君は、今の会話中一度もこっちに目を向けなかった。
やっぱり私に何か興味ないんだろうなぁ。はあ。落ち込むよ。
そんなことを考えていた時だった。
肩にポンポンと感触が走る。
るいか。どうしたのかな。
「るいどうした?......えっ!?」
視界に映ったのは意外な人物。
「えっとー光里じゃないけど」
そう、私の視線の先には黒田君がいた。
「あわわわわわわわっ!ど、どうしたの黒田君!?」
もはや動揺を隠すのは不可能。
だが、そんな私を見ても顔色一つ変えない黒田君。
「さっきの挨拶返してなかったからな。おはよう胡桃」
「えっ......」
目が点になる。この状況の理解が遅れる。
あの、るいに遮られた挨拶の返事をしてくれたの!?
やばい。超嬉しいよ。
嬉しさのあまり涙が溢れ出そうだったが、グッと堪える。
「お、おはよう黒田君」
動揺した自分を無理やり消し去り、改めて挨拶をする。
しかし......
「あ」
黒田君の視線は私ではなく、小説の文字に移っていた。
てことは、
「挨拶聞かれてなかった......」
恥ずかしい。恥ずかしいよ~。
でも、挨拶は返された。
これって一歩前進でいいのかな?
私は控えめにクスッと笑う。ニヤニヤした笑みを浮かべている、るいを無視したまま。
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