side奈津 女子の間にも色々ある
◇◇◇◇◇
「さっき一緒にいたアイツ。蓮本だっけ?」
香那が仏頂面で尋ねてくる。こういう顔をしてる時の香那はなにかに対してつまらないと感じている証拠。一体なにがつまらなかったのかな? アタシはその質問に対して頷く事で答える。
「なんか最近の奈津……アイツにご執心だよね」
「それ分かる〜」
香那の言葉に聖羅が反応する。アタシはその2人の反応を見て何を言いたいのか理解する。それと同時にげんなりする。学校には何故か知らないけどカーストというものがあって、しかもその中で誰がトップになるかの争いが存在する。誰が有能かその優劣を決する為に時には喧嘩をし、騙し合いを繰り返す。
それだけならまだ良い。彼女達にはステータス争いというものが存在する。ステータス……それは社会的地位や身分を指す言葉。そして学校内でそれを示す物は誰を恋人、あるいは友人に持つか……それによって優劣が決まる。友人、彼氏にどれだけかっこよくどれだけ優れた人間がいるかで競う。男子の友情は分かりやすいけど、女子の場合は複雑……1言では言えないけど、女子の間にも色々ある。はっきり言ってくだらない。
それで友情が決まるなんて女のアタシが言うのもなんだけど、本当にどうかしてると思う。そんなの卒業して社会に出たらなんの価値も無いのに。
「……何が言いたいの?」
アタシはいつもの無機質な声で尋ねる。基本アタシは他人に対して無機質な声で接してる。無機質な声でいれば、勝手に人が引いて離れてくれるから楽だった。少なくとも中学までは。
高校に入ってからは香那や聖羅が入学当初から付き纏ってきた。だけどアタシは知っている。彼女達はアタシの事を友達とは思っていないだろう。アタシとは関わっているのはステータスの為だろう。香那達から聞かされたけどアタシはどうやら校内で1番男子の人気あるらしい。人に嫌われるような態度を取り続けているのになんで人気があるのよ……?
「今まで自分を出さなさなかった奈津が、急に罰ゲームの相手はあのクソ陰キャがいいって言い出すから……」
淡々と告げるその声はこれまで聞いた事がないくらい冷たさが含まれていた。つまりこういう事かな? 今まで自分を出さなかった自分が急に蓮本龍ばかりに構うようになったから……つまらないと。
アタシは溜め息を吐きたくなった気持ちを強引に押し込む。いけない、この2人の前でそんな姿を見せてはつけ込まれてしまう。アタシは2人に視線を向ける。2人はアタシの目を見るとビクッと身体を震わせる。きっと今のアタシの目は大分冷え切っている事だろう。
「それってつまり、アタシが蓮本に関わるのが面白くないって事?」
アタシが怒気を孕めた声で尋ねる。すると怯みかけていた香那や聖羅の顔が不機嫌な物へと変わる。この2人は私が蓮本ばかりに構っているのがつまらないんだ。理由は彼女達にとってアタシは自分のステータスを上げる為の道具でしかないのだから。アタシと友達でいれば校内の人気者と友達という肩書きが手に入るから。今まではそれで良かった。
でもアタシは昨日の罰ゲームから彼を構いすぎてる。昨日の今日だっていうのに、こんな不機嫌な顔をするのは今後もこんな風に香那が言うクソ陰キャ――蓮本龍にアタシが構い続けたら自分達の顔に傷が付く。そう思ってるんだ。クソ陰キャに構う校内1の人気者を友達に持つ自分……彼女達にとっては屈辱的でしかないんだと思う。
「もしアタシが蓮本に構っているのがつまらないって思ってるなら、アタシはアンタ達と付き合いやめる」
アタシはそう言ってから無言を決め込む。冗談じゃない。アタシが誰と関わろうとアタシの自由だ。それをとやかく言われる筋合いはない。
今もバケツがひっくり返ったような雨を降らす空へと目を向ける。辺りには真っ黒に染まった雨雲が広がっている。
これは好意や興味なんかで関わっている訳じゃない。アタシが関わってるのは過去の出来事に対しての償い――その為に関わっているだけ。
『――ずっと友達だよっ』
6年前の男の子の明るい表情と声ががアタシの脳内で蘇る。6年もたった今でもアタシはその時のセリフ、表情、場面を覚えてる。だってアタシにとって1番の友達であり、アタシの――最も謝りたい人物だから。
アタシ香那の傘から出ると雨に濡れるのも構わずひたすら歩く。アタシの身体を打ち付ける雨はきっと、過去のアタシの涙なんじゃないのかな。でも大丈夫。これからアタシはその過去に今も囚われているあの子を救ってみせるから。それでアタシは救われるんだ。過去の自分から。
「今度こそ、絶対1人にさせたりなんかしない」
アタシは土砂降りの雨を降らせている上空の雨雲に向かって決意の言葉を口にする。自分への戒めの為に。そして今も苦しんでいるでいる男の子に向けて――。




