分かってる
「……っ」
彼女……久川奈津が病室を去った後俺はなんとかベッドの柵を掴み取ると、それを支えにして立ち上がる。全身が鉛のように重い。まるで自分の身体じゃないみたいだ。それと同時に胸がギュッと締め付けられる。
「なんで……だよ」
途切れ途切れに言葉が紡がれる。口が上手く回らない。ついさっき喋れるようになったせいだろうか。声も枯れ気味でか細い。
いやそんな事より、今の俺は悪い事をした気分に駆り立たされている。なぜ? そんなの決まってる。
『俺、に……構、う……なよ』
俺がその言葉を言い放ったら彼女が息を呑むのが聞こえた。そしてすぐさま走り去っていった。彼女の顔は見てないけど泣いてたんじゃないのか? って思う。なんでそう思うのか理由は分からないけど。いや違うな……俺は分かってるんだ。久川奈津が昔と、俺を裏切ったあの頃とは違うって。他の誰でもない俺自身がそう思っている。
――お前はまた傷付きたいのか?
もう1人の自分の声が聞こえる。
――今の誰も心の底から信じられないようにしたのは誰だ?
分かってる。今の俺を作り上げたのは他でもない、久川奈津だ。俺は彼女と約束をして裏切られた。ずっと友達でいようって約束をしたのに。俺は彼女に裏切られたんだ。
「なんで……今更、戻って……きたん、だよ」
俺は今も外を白く染め上げている雪を窓越しに眺めながらあの日を思い出す。俺の全てが決まってしまったあの日を。




