side奈津 分かりきっていた事じゃない
◇◇◇◇◇
「ご、ごめんなさい……」
蓮本はそう言ってアタシに背中を向ける。アタシはそんな蓮本に息を呑む。その行動がまるでアタシを拒絶してるように感じられたから。蓮本はアタシの事を無視して屋上から立ち去っていく。アタシはそんな蓮本をただジッと眺める。
彼の背中を眺めてなんとも言えない思いが込み上げてくる。そう、仕方ないんだ。蓮本のこの反応は仕方ない事なんだ。それは分かっていても……、心は相当抉られる。胸の辺りがチクリと痛む。針で突かれているみたいに、断続的に痛みが襲ってくる。
「やっぱり無理なのかな……」
アタシは上に顔ごと向ける。空にはアタシの今の気分を表しているかのようなどんよりとした曇り空が広がっている。
無理なのかな……? そんなの始めから分かりきっていた事じゃない。何を今更な事をアタシは口にしているのよ……。こんな泣き言を言う資格なんてアタシには無い。アタシより立ち去っていた蓮本の方がずっと辛い思いをしてきた筈よ。だからアタシがこんな事を言って許される筈が無いんだ。
アタシは空を見ながら昨日の事を振り返る。昨日は心臓の鼓動が終始煩かったような気がする。罰ゲームの事で誰に告白させるか……。そんな下らない事を香那と聖羅がしてる時に教室の出入り口に目を向けたら、見慣れた蓮本龍の背中。それでアタシは思い付いたんだ。彼と接点を持つ方法を。酷い接点の持ち方だなと思うけどね。
それでもこれしかない……。私はそう思った。これを逃したらもう彼と関われるチャンスは2度と来ないって……。それでアタシは香那と聖羅にあくまで提案という形で蓮本龍の名前を言った。香那と聖羅はその名前を聞いても、誰という反応だった。だから昼休みいつも彼が自席で1言も喋らず食べているのを知っていたから、香那と聖羅にあそこで無言で食べている人が蓮本龍だと教えた。
すると、2人の目は意気揚々と輝く。幼い子供が退屈しのぎのおもちゃを見つけたかのように。そんな2人を見て心がチクリとする。きっと2人に対して嫌悪感をアタシが抱いているんだ。こんな事……はっきり言ってやってはいけないことだって思う。誰も得なんかしない。でもアタシは2人を非難する資格なんかない。だってアタシはそれを利用して蓮本と接点を持とうとしてるんだから。
『アタシ……アンタのことが好き』
あの時の、アタシの初めての告白の場面が頭に浮かぶ。
「――うぅ」
顔に熱が集中するのを感じる。きっと今アタシの顔は赤くなっているに違いない。良かった……今この場に誰もいなくて。もし見られてたら恥ずかしくて死んじゃう。
あの時のアタシは本当一杯一杯だったな。目の前に蓮本がいてアタシは1言目から告白の言葉を気付いたら口にしてた。顔も赤くなってただろうし、目も潤んでただろうな。心臓の音もいつもより高々に鳴って脈打つスピードも上がってた。はっきり言ってテンパってたと思う。
「アタシ蓮本の事……好きなのかな?」
何気なく口にした言葉。だけどすぐにその考えを左右に首を振って否定する。こんな考えを彼に対して抱いて良い訳がない。
『ならなんであの子と接点を持とうとするの?』
心の中の自分が問いかけてくる。そう、それなら始めから関わらなければ良いだけの事。でも久々に見た彼が昔と大分違っていたから。明るかった彼がまるで全てを否定しているように見えたから。そんな風に変わっちゃった原因はアタシにあるから。だから出来る事ならアタシの知ってるゴンに戻って欲しい。いつも明るく接してくれた陽だまりみたいな存在だったあの頃に。
「……よしっ」
アタシは視線を前に戻すと屋上の出入り口へ向け足を動かす。空からポツリポツリと雫が落ちてきた。天気予報にはなかったけど、これから雨でも降るのかしら? いや今はそんな事どうだっていいっ。アタシは蓮本がどんな態度を取られようと、言葉で詰られようと弱音は吐かない。そんな決意を新たにする。




