side深冬 もう嫌だ
☆☆☆☆☆
「……なんでよ」
私は目の前で頬をくっつけ合っている男女を見て呟く。信じられなかった。彼――蓮本龍が彼女――久川奈津を庇った事に。いやあれは庇ったというより、止めたといった方がいいのかしら。
『……蓮本?』
私の挑発の言葉にキレそうになった久川奈津を蓮本龍は彼女の手を握る事によって止めた。その時の顔を見て私は驚いた。無表情だった彼の顔が切なげな表情に変わったから。それだけ蓮本龍は久川奈津を大切な存在だって思ってるんだ。
「なんで……なんで信じ……られるの、よぉっ」
私とは違う。少しでも似てると思ってしまった自分が恥ずかしい。あの顔は彼女を思ってこその顔。私にはそんな顔絶対に出来ない。
「グスッ。なんで……っ。なんでなのよぉっ」
気付けば私は泣きじゃくっていた。単純に悲しかったんだ。自分と近い価値観を持っている、同じ痛みを抱えているかもしれない人に裏切られたから。なんて、私が勝手に思って押し付けてるだけだけど。
でも違う……彼と私とじゃ。蓮本龍には隣りにいるオレンジ色の髪の少女――久川奈津がいる。いつも無表情の彼が見せたあの切なげな表情。あれは相手を思いやっての顔。私にあんな顔出来る? 出来ないよ。だって私にはそこまでしたいと思える人……友達がいないから。
「――っ」
気付けば私はテーブルに本を置いたまま車椅子を漕ぎ出した。もう嫌だ。こんな場所にいたくない。1人になりたい。
「ちょ、ちょっとっ」
後ろから彼女――久川奈津の呼び止める声が聞こえた。だけど私はその声を無視して必死に漕ぐ。暫く漕ぐと背後から私を追う足音も彼女の声も聞こえない。
私はエレベーターに乗って自分の病室のある階へ着くと迷わず、自分の病室へと車椅子を走らせる。こんなに漕いだのは初めて。それほどまでにさっきのが嫌だったんだ。
私は病室に入るとベッドに入ろうとした。だけど身体に上手く力が入らず、入り込むのに数分掛かった。本当に身体が動かせていた時が懐かしいなと私は思う。
「――っ」
私はベッドでうつ伏せになると、敷布団を思いっきりバンッと叩く。なに、なんなのよこれ? さっきから私はおかしい。今まで無表情だった彼――蓮本龍を見て私は今までに感じたことの無い怒り。それになんだろう……失望とでも言うのかな。とにかく虚しさを感じた。おかげで私の心の中はぐちゃぐちゃ。
私は深呼吸をする。うん。少し落ち着いてきた。私は真っ白になり掛けた頭でさっきの出来事に思いを馳せさせる。なんで私は蓮本龍にこんなに怒り、同時に虚しさを感じているのか考える。
「……考えなくても分かるじゃない」
そう。考えるまでもない。言っていたじゃない。
――自分と近い価値観を持っている、同じ痛みを抱えているかもしれない人に裏切られたからって。
私は窓から覗く外の景色へと目を向ける。外では粉雪が舞っていて、ビルや家屋などがある有り触れた景色を真っ白に染め上げていた。最もこの光景はここ最近ずっとだけど。でも私の心は外の寒々とした景色より冷えていた。
私は蓮本龍に勝手に期待してた。この人なら私を裏切らない受け入れてくれるって。だって彼は私と同じなんだから。裏切るはずなんかないって。だけどそれは違ったんだ。
彼には心から信頼できる人がいた。ううん、もしかしたら恋人かもしれない。だって彼があの人に向けていた顔は悲しそうなのと同時に……優しさに満ちていたから。
「本当……なんなのよアイツ」
私は目を閉じてその思考を無理矢理終わらせるように眠りに就こうとした。暫くして私は闇の中へと意識を手放していた。




