やめてよ
あちゃ~。久川さんを止めるまもなく、深冬ちゃんに話しかけちゃったよ。止めるっていっても俺喋れないんだけどさ。
「えっと……どちら様でしょうか?」
深冬ちゃんは俺と久川さんを交互に見て気まずそうな顔をしている。そりゃそうだよな。片や知ってる人間、片や知らない人間がいたら、俺もそんな顔するよ。
「はじめまして。アタシは久川奈津。蓮本とは同じ高校の友達っ」
そう告げると久川さんは俺のほっぺたに自身のほっぺたをくっつけてきた。うわぁ……女の子のほっぺってこんな柔らかいんだ。じゃなくてっ。
「あの……友達と言う割には凄い嫌がられてますけど?」
ジト目を久川さんに向けながら問い掛ける深冬ちゃん。その瞬間久川さんが俺の顔をグイッと顔を強引に自身へと向けさせた。
「えっ。蓮本……嫌だった?」
いやあの……やめてよ。そんなガチなトーンで目に涙溜めた上で不安げに言わないでよ。不覚にもキュンと来るじゃん。というか、なにも答えられないからね。
「……友達と思われてないんじゃないですか?」
ウンザリといった態度で深冬ちゃんが言う。その言葉に久川さんがかっと目を見開く。多分今の言葉にキレそうになってる。俺は慌てて俺の肩に置かれている彼女の手を握った。
「……蓮本?」
久川さんはそう言って俺の目を数秒見た後頷く。
「きっと怒るなって意味で言ってるんだよね?」
ん? まぁ間違ってはないけど。そもそも俺はなんで怒って欲しくないと思ったんだ?
「でもそうね。アタシ達は友達と呼べるような関係じゃないのかもしれない……」
久川さんは顔を俯かせて呟く。俺はその姿を見て今久川さんは、昔を振り返っているんだと思った。
確かに俺達は1度は友達と呼べる間柄だった。それは否定しない。でも俺達はそれを終わらせてしまった。最も1番醜い形で。
「……でもね」
久川さんは顔を上げそう言うと再び俺のほっぺたに自身のほっぺたを擦り付ける。
「人間。やり直す事は出来ると思う。少なくともアタシはその機会を与えてもらえたと思ってる」
それはあれだろうか? 彼女の中であの出来事は後悔しかなかった……そういう事なのか?
――騙されるな。嘘かもしれない。
心の中の俺が言う。それで痛い目に何度も遭ってきただろう。いい加減学習しろ、と。確かにその通りだ。でももしそれが本当だとしたら彼女は――久川奈津は俺と本当の意味で向き合おうとしているのかも知れない。それなら俺は……。
「……なんでよ」
俺は今にもか細くて消えてしまいそうな声が聞こえてそちらへ目を向ける。俺同様に車椅子に座っている深冬ちゃんがわなわなと肩を震わせていた。
「なんで……なんで信じ……られるの、よぉっ」
ふれあい広場に大きな声が響く。周囲の目が俺達へと向けられる。でも俺はそんな事よりも
「グスッ。なんで……っ。なんでなのよぉっ」
嗚咽交じりに泣きじゃくる藍原深冬から目が離せなかった。




