side深冬 焦がれるという想いを
☆☆☆☆☆
「今日はどうしようかな」
朝、私はベッドで伸びをしながらそんな事を呟く。2ヶ月前この病院に入院してから毎日繰り返してる行動。学校にいた頃に比べたら伸び伸び出来て私は好き。学校にいた頃は今よりも大分酷すぎたから。でも困った。
「私。人と普通に話せなくなっちゃった……」
私はベッドで体育座りをして足と足の間に顔を埋めながら言う。そう。私は学校で嫌な思いをしたせいか、それまで出来ていたコミュニケーションが取れなくなってしまった。前までは普通に笑って出来てたのに。
この病院に来てから私の生活は自分の世界だけで終わっていた。他人とは深く関わらない。関わるとしたら担当の先生と看護婦さんくらい。
両親は娘の私に興味の無い人達で、初日に私の生活で必要になる日用品と着替えそしてお金を渡して、とっとと帰ってしまった。友達なんて今の私にはいないから誰も来ない。そんな私を見かねたのか看護婦さんがある日こんな提案をしてきた。
『ふれあい広場……ですか?』
私は看護婦さんの言葉を繰り返す形で質問した。
『そう。このふれあい広場はね、色んな人が来てるの。それに深冬ちゃんと近い年頃の子もいると思うわよ』
私と近い年頃。正直あまり好奇心を抱けない。だって私は……その年頃の子達のせいでこんな所にいるのだから。だから私は人に近付きたいとは思えない。私は恐れているんだ。また誰かに傷つけられるんじゃないかって。でも
『分かり、ました。行かせてください……』
このままでは駄目だと思って私は看護婦さんの提案に乗る事にした。でも私はその日になって後悔しそうになった。
『皆さん、おはよう御座います』
おばさんくらいの年代の女性が挨拶の言葉と共に手話を披露する。
うわぁ……手話とか生で初めて見た。えっと手話って、耳の聞こえない人がコミュニケーションを取る為の手段だっけ?
私はそんな事を考えながら説明をしているおばさんの事を見ていると
『では2人1組みになってください』
と声が上がると同時に辺りがペアを求めて動き出した。え……ちょっと待ってペアって? 私は周りを見回す。周りではもうペアが出来だしていた。そういえばこのふれあい広場は週1でやってるとか言ってたっけ。それなら自然とペアが出来て当然だよね。私は足元に視線を落とす。
せっかく来たけど、私にこのふれあい広場は無理だなと思った。こうやってペアを作るにしても私は自分から積極的に声を掛けられない。というかこの場にいるのは基本耳の聞こえない人達なんだから、コミュニケーションをどう取ったらいいのか全く分からないよ。そう思った時、私の傍まで私と同様に車椅子に乗っている男の子が来た。
『……?』
え……何この人? 私は目の前の男の子を訝しむ。私より年上かな? なんか同い年くらいにも見えるけど。顔はイケメンって感じ。男の子にも女の子にも見える、中性的な顔に整った目鼻顔立ち。でも1番惹きつけられたのは目だ。男の子の翡翠色の瞳がとても綺麗。でもなんで右側だけ出して左側は髪で覆われてるの。それが流行なのかな。
男の子が自身を指差した後私を差してきた。これってつまり……
『……一緒に、組んでくれるの?』
アタシは驚く。まさか私と組んでくれる人がいるなんて。しかもそれが異性で近い年頃の子なんて。男の子は目を大きく見開いて固まっている。あ、そっか。
『って聞こえないんだっけ、どうしようっ?』
そうだった。ここにいるのはほとんど耳の聞こえない人達。それなら今目の前にいる男の子も同じように今私の言った事が聞き取れてないかもしれない。えっとこういう時どうすれば……。そんな事を思っていたら。男の子は私の言葉に頷いた。
『え? もしかして聞こえてる?』
私は驚く。今どう見ても意思疎通取れてたよね。私は見間違いじゃないかと思って確認してみる。すると男の子はまた頷いた。
『な、なんだ。良かったぁ』
それから私はその男の子――蓮本龍と一緒にペアを組んで手話を教わった。蓮本龍。私より2歳年上の16歳で高校2年生。元々喋れたのに大怪我をしたショックで声が出せなくなっちゃったみたい。
入院してから半年以上経つらしい。半年も経って声が出ないって辛いだろうな。今回ふれあい広場に来たのはコミュニケーションを取る手段として手話を覚えにきたんだって。まぁこれ全部、筆談で知った事だけど。
「人の事言えないけど、陰を感じる人だったな……」
私は蓮本龍に抱いた印象を口にする。彼は基本無表情で、人と上手く関われないって感じだった。まぁ流石に教える側の言葉で『手話で大事なのは表情です。表情によって同じ動きでも意味が変わります』って言われた時に彼がぎこちない笑みを浮かべた時は笑ったけど。
結局私は昼まで病室でゴロゴロしていた。はぁ暇だ。かといってテレビカードの残高もう残り少ないのよね。しょうがない。昼ご飯食べ終わったらカード買おう。
私は昼ご飯を食べ終えて車椅子でテレビカードを買いに行った。全部の階に有るであろう休憩コーナーに着くと、カード販売機にお金を投入する。そしてなんとなく壁に貼られていた紙を眺めていると
「え? あのふれあい広場っていつもは休憩所でしかも本まで読めるの?」
紙にはそのような内容が載っていた。私は小説を結構読むので凄い嬉しい。これで退屈を暫くは凌げる。それにもしかしたら蓮本龍にも会えるかも。
「ってないない。何考えてんのよ私っ」
私は今出た考えに笑う。これじゃまるで私がアイツに気があるみたいじゃん。しかも昨日会ったばかりなのに。まぁでも、本読みたいし……行くだけ行ってみようかな。べ、別にっ彼に会いたいとかそんなんじゃないからっ。って誰に行ってるのよ私。そんな1人ツッコミを胸中でしながら私は車椅子を漕いだ。
「……すご」
私は驚いた。ふれあい広場の場所には老若男女問わず沢山の人がいた。私は奥に目を向ける。うん。1番奥が空いてる。私はそれを確認してから傍に置かれていた本棚に移動する。本棚には様々なジャンルの本が置かれていた。漫画や小説、雑誌類。中でも小説は30冊以上置かれていて、私の好きな恋愛モノが多かった。私はその中から適当に1冊取り出すと、奥の空いてる席へ移動した。
へぇこれは面白いな。私は手に取った本の世界に浸り込む。内容は主人公が都会から田舎に引っ越してきて、そこで知り合った男の子に恋をする。だけどその男の子には好きな人がいて……という内容。いいなぁ。実際に在ったら面倒くさいだろうけど、そういう思いを1度でもしてみたい。こうなんていうか……焦がれる想いというのを味わってみたい。
そこでふとアイツの顔が浮かんた。無愛想でなにを考えてるのかよく分からないあの無表情。こちらを覗く翡翠色の左目。綺麗な目……してたなぁ。
「って何考えてんのよ私はっ」
私はそう言って首を左右に勢いよく振るうと
「わっ……びっくりしたっ」
と聞き覚えのない女の声が聞こえて振り返るとそこには、オレンジ色の髪をした長身の女の子と車椅子に乗っている蓮本龍がいた。




