ダイエットしよう
あ〜、なんで病院食ってこんなに味気ないんだろうな。俺はそう思いながら無言で出された料理に手を付ける。うん。本当旨くない。米くらいだよ。まともに食べられるのは。
こんなの食べるくらいなら、コンビニ弁当食べてた方がまだマシだ。でも、味気なくても食べていれば当然お腹が膨れる。つまりカロリーを摂取している。でも今の俺は身体を動かすことが出来ない。カロリーを消費する事が出来ない。つまり太る一方だ。
「……気にしなくていいわよ」
俺が脇腹を摘んでいたら久川さんが優しい声で呟く。俺は彼女の方に目を向ける。
「だって太ってる蓮本……可愛いんだもんっ」
この人、最近俺の前で本音を言う事が増えた気がする。それは多分自分がなっちゃんだってバレたから開き直ってる部分もあるんだろう。それでも男が可愛いと言われて嬉しいわけがない。退院したらダイエットしよう。いやむしろ今からなんとか。
「でもそんなに気になるんなら、車椅子に乗って動き回ったら」
俺は久川さんの言葉を聞いて考える。別に車椅子に乗って動いた所でなにも変わらないんだよな。ダイエットにならないし運動でもない。やっぱり早く立てるようにリハビリしないと。それでもこんな所にじっとしているよりかは良いかもしれない。
「あれ。本当に行くつもり?」
流石に鵜呑みにされるとは思ってなかったんだろう。車椅子を指差した俺に久川さんは驚いた顔をする。いやいやそれで痩せるなんて思ってないんだけど。
「まぁいいや。アタシも付いていく」
出来れば付いてきて欲しくないんだけど。まぁいいか。俺は車椅子に腰掛けると、車輪に両手を伸ばす。パイプの冷たい感触が手に伝わる。俺はそれを必死に動かして病室から出る。
「さ。どこに行くのかしら?」
楽しそうな久川さんの声が俺の鼓膜を震わせる。なんで嬉しそうなんだ? こんなのつまらないだけだろうに。
俺は久川さんに一瞥をくれるとすぐさま車椅子を漕ぐ。取り敢えずこの階を一周してからエレベーターに乗って全ての階を一周しようと思った。ダイエットにならないとは思うけど、半年も経つのにこの病院の事を知ろうとはしていなかった。そういう意味では全ての階を回るというのは悪くないだろう。
「あら。エレベーターに乗るの?」
意外そうな声を上げる久川さんに俺は車椅子の脇に置いていたノートとペンを取り出して自分の考えを書いてノートを見せる。すると彼女は頷きながら
「なるほどね。それはそれで楽しそうね。もしかしたらふれあい広場で知り合った人に会えるかもね」
ニコニコしながら言う彼女を見て思う。
『わ、私……藍原深冬。14歳』
もしかしたら深冬ちゃんに会えるかもしれないな。べ、別にやましい気持ちなんかないんだからねっ。って誰に言い訳してんだよ。というか今のは自分のキャラじゃなかったな。なんか言ってて虚しいから今のは忘れよう。
エレベーターに乗って1階に降りると俺はふれあい広場へと向かった。普段は休憩ペーストして使われているのか、その場には老若男女問わず幅広い世代の方々がいた。その中で俺は1人の人間に目が留まる。奥のテーブルで黙々とただ1人で本を読んでいる少女――藍原深冬に。




