side奈津 アタシのせいじゃないのかな
◇◇◇◇◇
ど、どうしよう。看護婦さんが変なこと言ったから気まずい空気になっちゃった。主にアタシがっ。なんかゴンがアタシの事見てる。超恥ずかしい〜っ。
も、もしかしてさっきアタシが言った事聞いてたりしたのかな? だとしたら重すぎる女とか思われてたりしない? あぁ、どうしよう〜っ。……ふぅ。まず落ち着けアタシ。アタシはゴンに目を向ける。
ゴンの翡翠色の瞳がアタシを見ている。あまりにも綺麗な瞳にアタシは吸い込まれるように見つめる。これで片側が髪の毛に覆われているのは、格好良すぎてなんかずるく感じる。ってそんな事今どうだっていいじゃないっ。
「ふ、ふれあい広場って所に行ってたんだってねっ」
アタシは緊張で震えてる声でなんとか言葉を発する。ゴンは目を大きく見開いていた。きっとなんでそれを知ってるの? って意味だ。
「さっきの看護婦さんから聞いたのよ」
アタシがそう答えると納得したような顔で頷く。最近、こういうやり取りが増えてアタシの言う事に表情を変えてくるゴンが可愛いなと思う。家で飼ってるカンナみたい。
するとゴンは、車椅子を指差した。アタシは車椅子に目を向けるとそこには、ペンとノートがあった。
「ペンとノートを渡せばいいの?」
アタシがそう聞くと首を縦にこくんと頷くゴン。そんな姿も可愛らしい。アタシは車椅子に置かれているペンとノートを取ると、ゴンの前に置かれているテーブルの上に置く。ゴンはノートを開くとペンを手に持ち、そこに書き込む。そして書き終わった文章をアタシに見せる。
――今日、簡単な手話を習ったよ。
「手話、か……」
これは意外。ゴンが手話なんかに興味あったんだ。少し違うかな。多分、意思疎通を他人と取るための手段として選んだのかもしれない。今のゴンは喋ることが出来ないから。
あれから半年以上経つのにゴンは喋れない。もうとっくに話せても良いんじゃないかって思うのに。最近家に帰ってから色々と調べた。喋れないのは精神的な物もあるって事が分かった。
精神的な理由。それはひょっとしたら……アタシのせいじゃないのかな。
「ゴン……」
アタシはゴンを見つめる。ゴンの翡翠色の瞳が揺れる。動揺してるみたい。その動揺する意味は分からないけど。ゴンが喋れないのがアタシのせいなんだとしたら、ゴンの力になりたい。どんな小さな事でも。
「明日、手話の本でも買ってくるねっ」
アタシはそう言ってゴンに笑いかける。そして席を立ち上がってから、ゴンにお手洗いに行ってくると伝えて廊下に出た。




