side奈津 ゴンは頑張ってるんだな
◇◇◇◇◇
「あれ?」
ゴンが初めてのリハビリを終えた翌日、アタシはゴンが過ごしている病室を訪ねた。部屋の扉を開けるとそこには彼の姿がなかった。
どこに行ってしまったんだろう? そんな事を扉も閉めずに思っていると
「……あぁ久川さんっ」
と陽気な声が聞こえた。後ろを振り返るとそこにはいつもゴンの所に顔を出す看護婦さん。
「おはよう御座います」
アタシは看護婦さんに頭を下げる。
「まぁまぁこれはご丁寧に」
と笑顔で看護婦さんは言うとアタシと同じように頭を下げてくる。そして頭を上げると同時に
「彼氏君なら今居ないわよ」
と笑顔でアタシが聞きたかった内容を答える。だけどアタシは看護婦さんの言った1つのワードに反応する。
「そ、そのっ……か、彼氏では……ない、ので」
アタシは途中言い詰まりながらも否定する。だけど看護婦さんはそんなアタシを見てにんまりと微笑みながら
「そうなの〜っ」
と言う。んー、こういうの嫌じゃないけどノリとしてはかなり面倒くさいなと思う。本人に悪気はないんだろうけど。
「はい。アタシと彼にそんな感情は一切ないので」
アタシは愛想笑いを浮かべながら言う。半分ずつ嘘と本当が混ざった言葉を。
「その言葉嘘だって分かっちゃうんだけどな〜っ」
でもどうやら看護婦さんは、アタシの言葉を全面的には信用してくれてないみたい。ま、そりゃ当然だよね。
「だって、蓮本君がここに来てから毎日通ってるでしょ。それは久川さんが彼の事を好きだと思ってる証拠だと思うんだけど」
その言葉にアタシは顔が熱くなるのを感じた。胸にこそばゆい感触が訪れる。
「赤くなって可愛い〜っ」
「――っ」
看護婦さんの言葉になにも言い返せない。思わず目をギュッと瞑る。恥ずかしい。図星過ぎてなんにも言えない自分がちょっと悔しい。
「そっそれでゴン……じゃなかった。蓮本は?」
アタシは恥ずかしい気持ちを必死に堪えながら質問する。あまりの事に、彼の昔の呼び方を口に出してしまった事に気付いて慌てて直す。恥ずかしさを誤魔化すために言い方がいつもより厳しい感じになってしまった。
「あらあら。そんな今にも顔真っ赤にして泣き出しそうな顔してるから。この話はこれでおしまいね」
と笑顔で看護婦さんが答えた後、ゴンの事について教えてくれた。
彼は耳の聞こえない人、言葉を発せない人達の集まりに顔を出しているのだという。なんでも昨日、リハビリの担当の先生に出てみないかと誘いを受けたみたい。
アタシはそれを聞いて感心する。今こんな状況にも関わらずゴンは頑張ってるんだな、と素直に思えた。
「そういえば、久川さんは学生さんでしょう?」
そんな事を考えていたら唐突に看護婦さんが尋ねてくる。アタシはその言葉に頷く。
「ずっと疑問だったんだけど……。毎日ここ通ってて大丈夫なの?」
アタシはその言葉に頷く。
「はい。今年は留年すると決めたので」
「留年っ!?」
アタシの言葉に看護婦さんは驚く。
「はい。彼のいない高校生活に意味を感じません。それに復学したとして蓮本が、全く馴染めないクラスで孤立するよりは良いと思うんです」
アタシの言葉を暫く呆然といった態度で看護婦さんがいるかと思ったら即座に
「久川さん。貴方の愛……見事だわっ」
とよく分からない感想と共に拍手が送られた。アタシは恥ずかしさから居た堪れない気持ちになる。
「……あ」
そんな時、看護婦さんの後ろに目を向けると車椅子に乗ったゴンが、怪訝な目をこちらに向けていた。




