相当長く掛かりそうだな
「――っ」
翌日、俺はリハビリステーションに来ていた。実は前々から担当医とそろそろ身体もある程度動くようになってきたし、歩けるようにリハビリを始めてみないか? と言われていた。俺はその言葉に何度も頷いて返事をした。
正直このまま車椅子生活じゃ困る。移動手段が歩きしかないのに、このままじゃ満足に買い出しや自炊などが出来なくなるからだ。だからこうしてリハビリステーションにいるんだけど。思ったより辛い。足に少ししか力が入らないから立てない。
「頑張って。蓮本〜っ」
というかなんでここに久川さんがいるんだよ? さっきから集中出来ないんだけどっ。
「ほら蓮本さん。彼女さんも応援してますから頑張って」
いや彼女は俺の彼女ではない。否定したいけど、声が出ないから否定が出来ないのがもどかしい。まぁもういいけどね。どうやら俺の担当医から俺の病室のある階のナース、他の病室の人にまで久川さんが俺の彼女だって誤解されている。それを一々否定するのも疲れる。
でもここまで付いてこられるのは、ちょっと恥ずかしい。確かに親とか友達に応援されながらリハビリをしてる人も見えるけどさ。でもやっぱ恥ずかしいな。
俺は足に力を込める。だけど上手く力が入らない。今まで当たり前のように出来てたことが出来ないって本当辛いな。それでもやるしかない。俺は頑張って足に力を込める。足がゆっくり動く。まるで重たい鉄みたいだ。
「お〜っ」
久川さんが声を上げる。俺はなんとかその場で立ち上がった。だけど足は生まれたての子鹿みたいにぷるぷると震えている。姿勢が上手く保てられない。すぐにフラついて地面へと倒れ込む。
「大丈夫ですか蓮本さんっ」
リハビリの先生が俺に駆け寄って声を掛けてくる。俺はその言葉に頷く。ふぅ、どうやらリハビリは相当長く掛かりそうだな。というか、半年以上自分の声を聞いていない。そろそろ喋れるようになりたい。会話が出来ないのは不便だ。
なんでも担当医の言う話では俺の声帯にはなんの異常も無いらしい。ならなぜ声が出ないのか。それは精神的な問題らしい。俺の精神の問題。俺は誰とも会話をしたくないと思っているのか?
人に裏切られたくなくて声を出したくない。まぁそれなら納得はするけど。俺は常々思ってた。人に裏切られたり傷付けられるのが嫌なら初めから関わらなければいい。関わらないためにはどうすればいいか、会話をしないのが1番。
そう思ってたからこうなったのか。まぁ予想でしかないけど。でも話せなくなって思う。コミュニケーションは大事だなって。
俺はその日のリハビリを終えた。額に手を当てると汗をびっしょり掻いていた。たったあれだけの運動でこれか。先が思いやられるな。
「蓮本さん」
その日お世話になったリハビリの先生が声を掛けてくる。俺はその先生を見つめた。なにか重要な話だろうか。
「実は……このまま喋れないのも困ると思うので、いっそ手話でも覚えてみませんか?」
俺はその唐突な提案に固まるのだった。




