side日下部 誰だ
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「君はのした事は許されることじゃない」
俺――日下部晶は鷹明警察署の取り調べ室で聴取を受けていた。俺が捕まってから何日経ったことだろうか。俺はそんな事を思いながら目の前にいる中年の男を眺める。
彼は宮下巡査部長。今回の俺の犯した事件の調書を纏める人間だ。今回の事件で俺は強盗罪、強姦未遂、殺人未遂が掛けられている。俺はその全てを認めた。少年院行きは免れないだろう。どれくらいの刑になるやら。間違いなく、少年刑務所にも行かされるだろう。
はぁと息を吐く。別に姉さんを失った時から自分の人生になんら興味もなくなっていたから、少年院だろうと刑務所だろうと送られても構わない。
「君は哀しい目をしているな」
ふと宮下巡査部長がそんな事を言う。俺はそんな戯れ言を聞きたくないと思ったが、俺の座っている椅子の腰部分のパイプには手錠が片側だけしてあり、もう片方が俺の左手首に付けられている。逃げる事も、耳を塞ぐ事も出来ない。
「全てを憎んでいるという目だ」
「……当然だ」
俺は宮下巡査部長の言葉を肯定する。当たり前だ。アイツのせいで全てが狂わされたんだ。俺達家族全員の運命が。許せる訳がない。第一アイツは俺達に謝りにも来なかったんだ。そこで当時の事が蘇る。
姉さんが自殺して数日が経った日。葬式を終えたら父さんは母さんと俺にこう言った。
『いいか。今回の件を警察に訴えたりはしない』
俺はその言葉を聞いて激怒した。だってもうその時には姉さんが自殺した理由が学校で明らかになっていたからだ。蓮本龍。姉さんが亡くなってからすぐに、その名前と彼が姉さんにした事についての噂が学校中に広まった。なんでも彼が姉さんを襲っている所を複数の人間が目撃しているらしい。そしてその目撃者の何名かを殴ったという事だ。
明らかに事件として取り上げてもらうべき案件なのに。こんなんじゃ姉さんが浮かばれない。それは母さんも同じ気持ちだったみたいで。俺と母さんは父さんの事を罵倒した。それからだ。母さんは父さんに愛想を尽かして他の男の所へ去っていった。どうせなら俺も連れて行ってほしかった。
なんで父さんは姉さんの事を警察に言わなかったのだろう。それは今でも本当によく分からない。
「今回の受刑でもう1度深く考える事だな」
宮下巡査部長はそう言うと、他の職員を呼び出し取り調べ室から出すよう命令した。俺のもう片方の手に手錠がカチャリと音を立たせながら締められる。始めに手錠を付けられたとき思ったより軽いなと思ったけど、回数を重ねる毎に重く感じてきた。これが罪の重さとでも言うのだろうか。
俺は取調室から出て、廊下から少し歩いた所で立ち止まる。そこには複数の警官服を着た男がいる。1人の男が扉の前にある数字の書かれたボタンを押す。そして扉からピピッと音が鳴る。そして扉は開かれ中に入るよう他の職員に指示を受ける。
留置所。俺はここに2ヶ月から3ヶ月の間ここにいる。具体的な日にちは覚えてない。何故かというとここにカレンダーがないからだ。いや、正確には違うな。カレンダーはあるにはあるけど、見れないのだ。俺は3畳半の狭い部屋に閉じ込められていた。出入り口は鉄格子で固く閉ざされていて、外に出る事ができない。
「よう、坊主」
同部屋となった中年の男が声を掛けてくる。ぶよぶよと太った身体に丸坊主……だけど瞳は凄く濁って見えた。信用は出来ない人間。一目でそう思った。
ここは13室の部屋があり、その内2部屋が独居房だ。朝の7時に起床の合図が出され、それぞれ布団を畳み押入れへと各自順番に出され片付ける。そして掃き掃除と雑巾掛けをさせられる。そしてそれが終わると『点検』というのが行われる。
点検とはちゃんと全員いるかという確認の事だ。拘留者にはそれぞれ称呼番号と言って番号を言い渡されている。因みに俺は80番だ。職員が1部屋ずつ回って、それぞれの番号を読み上げる。読み上げられた者はハイと返事をする。
点検が終わったら飯が支給される。と言っても、全部コンビニ弁当だ。それが朝昼晩に支給される。朝はコンビニ弁当ではなく、パンと適当なおかずを出される事が多い。
そして食べ終われば、それぞれ聴取を受ける為に檻から出される者、そしてそれがなければただ寝て過ごす者、筋トレする者……様々な事をしてその日を終えていた。俺も暇な時は筋トレをしていた。
「…………」
俺は中年の男を無視してその雑居房の隅に腰掛ける。
「おいおい、無視はないだろ?」
下卑た笑みを俺に中年は向けてくる。俺に関わってくるな面倒くさい。そんな事を思った時だ。鉄格子の脇にあった小窓が開けられた。そこからいつも飯などをあげたりさげたりなどをしている。
「80番……面会だ」
俺に面会。誰だ。俺はそんな事を思っているとガラガラっと音を立てながら、鉄格子の扉が開く。俺はそこから出て面会室へ職員と向かった。




