表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/73

許せないよ

「……っ」


 俺は目を覚ます。頭に鈍い痛みを感じながら。あれ、俺どうしたんだっけ? 声を出したくても出せない。天井を見上げる。天井は白くて、所々にお玉杓子みたいな黒い点線が描かれている。

 そして俺が今横になっているのは感触からして布団だ。それ以外は分からない。身体が動かせないから。だけど視線だけは動かせた。俺は周りを見回す。部屋の隅には小型のテレビ。反対側にはクローゼット。俺の右側に部屋の出入り口が有る。俺は左側に目をやる。

 左側には壁一面の大きな窓が付いていた。窓から見える景色はビルや住宅街。それらを上から見下ろしている景色。小さいのが縦横無尽に複数動いている。あれは車だろうか。いつもは遠くに見える青空がやけに近く感じる。そんな事を思った時だ。

 扉がガラガラっと音を立てて開く。扉の方に目を向けて俺は驚く。そこには、今にも泣き出しそうな顔をしている久川さんがいたからだ。


「……っ」


 俺は久川さんになにか伝えようと口を動かそうとしたけど、全く動かない。口から紡がれるのは声にならないものだった。


「……蓮本」


 久川さんが横たわっている俺を見る。その瞳は潤んでいた。


「目が、目が覚めたのねっ。良かった〜」


 彼女は安堵したように、はぁと大きく息を吐く。そしてキラキラと輝く笑みをこちらに向ける。その笑顔が()()()のなっちゃんと被る。いや、被るもなにも。彼女はなっちゃん本人なのだ。

 ()()……。それは俺の渾名だ。何故ゴンなのかというと、俺の名前が龍で龍はドラゴン。そこでドラを取ってゴン。という訳だ。今になって思い返してみると馬鹿らしいなって思う。

 俺は久川さんを見つめる。見つめてる内にどんどん怒りが溜まってくる。俺の人生を歪ませた張本人だからだ。それを久川さんは悟ったんだろう。俺の目を見て、その端正な顔に影が差し込む。


「やっぱり。気付いちゃったよね。アタシの事」


 当然だ。ゴンなんて呼ぶのは限られてる。皆あの件以来俺の事をそう呼ばなくなった。今でもそう呼ぶのはアンタだけだよ。なっちゃん……いや、久川奈津。

 

「許してとは言わないよ。でもアタシはっ」


 切なげな表情で久川さんは俺を見つめる。やめろ。そんな顔で俺を見つめるなよ。こんな時身体を動かせない自分が憎い。こんな場所に居たくない。目を塞いだ。だけど、耳が塞げないから彼女の声は聞こえる。


「もう1度。やり直せないかなアタシ達」


 冗談言うな。やり直すなんて時期とっくに過ぎてる。大体そんな事思うくらいなら、()()()なんで……俺を見捨てたんだよっ。暫く静寂が辺りを包む。扉の開く音が聞こえ俺は目を開ける。久川さんが扉を開けていた。


「今日はアタシ、帰る。また明日ね」


 寂しそうな表情を浮かべながら彼女が去っていった。俺は再び目を瞑る。


『もう1度。やり直せないかなアタシ達』 


 出来る訳ない。許せないよ。久川さん。俺はそんな事を思いながらもう1度眠りにつくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ