side奈津 勝ち目なんてある訳ない
「――イヤアアアァァァーーーッッッ!!!」
アタシは叫ぶ。目の前でゴンが一方的に暴力を振るわれてるから。一瞬の事だった。ゴンと晶君が話し合いをしていたら、いきなり晶君が彼の腹にパンチを入れた。ゴンはいきなりのパンチに顔を歪ませるとその場に蹲る。
ゴンが蹲ったらすかさず晶君は彼の頭を両手で掴むとその顔に膝を打ち込んでいた。流れるようなコンビネーションにアタシは言葉を失う。そして晶君はゴンを掴み上げると投げ飛ばした。
「――ぐぁっ」
地面に倒れ込んだゴンは小さく呻く。強い……晶君がここまで強かったなんて。こんなの勝てっこない。
「――このっ」
ゴンはそう声を上げるとすぐさま起き上がり、手にしていた鉄パイプを晶君に向かって斜めに振るう。が、晶君はそれを既のところで躱し、懐に入ると
「――がっ」
左足を前へ勢いよく突き出した。その足は見事にゴン|の腹へと決まる。
ゴンは一瞬その場でしばらく立ち止まったかと思うと
「……ブハッ」
いきなりそう声を上げると同時に口から大量の血を吐く。ゴンの手にしていた鉄パイプが手元から零れ落ちて、地面を転がりながらカランコロンと音を立てた。蹲って尚も咽て蹲っているゴンを他所に晶君は落ちた鉄パイプを拾い上げる。
「おいおい。これで終わりか? 姉さんはこれ以上に苦しい思いをしたんだぞっ」
そう言って晶君は鉄パイプを振り上げると、ゴンの右肩を叩く。鉄パイプから子気味いい音がなると共に
「――アアァァァアアッッッ」
ゴンの苦痛に満ちた叫びが廃工場に響き渡る。今ボキボキって鳴ってた。もしかしたら肩の骨がイカれたかもしれない。アタシの頬が濡れるのを感じた。触れなくても分かる。涙だ。
「蓮本。逃げてっ。このまんまじゃ……死んじゃうよっ」
アタシは叫ぶ。だけどボロボロのゴンが言ったのは
「嫌だっ」
という返事だった。え……何言ってるの? 自分の命が危ないんだよ。勝ち目なんてある訳ない。そんな事ゴンが1番よく分かってるはずでしょ?
「へえ。どうやら戦意だけは失ってないみたいだな」
晶君が嘲笑混じりに喚き立てる。
「好きな女の前でカッコつけようってかっ!?」
「……そんなんじゃねえよっ」
煽るように言った晶君の言葉にゴンは淡々と言葉を返す。
「俺は……約束したからな鬼原と。やれるだけやってみるよって。まだやれるだけの事もやってないのに諦められるかよっ」
ゴンは痛む肩を無視して拳を振り上げる。途中顔が苦痛で歪む。だけど、晶君はその拳を素手で止める。
「往生際が悪いなぁ。とっとと倒れろよっ」
そう言うとゴンの右頬を思い切り殴り付ける。何度も。だけどゴンは倒れない。
「な、なんで倒れないんだっ。倒れろよっ」
そう言って放った晶君の拳を今度は逆にゴンが受け止める。晶君の口から息を呑む音が聞こえた。
「なぁ。アンタの姉さん――榊原優恵は……こんな事……望んでないんじゃないか?」
静かに告げるゴン。その口調は何故か優しさに満ちているように聞こえた。なかった事にしようと言ってるようにアタシには聞こえた。
「――っ。うるさいうるさいうるさいうるさいっ。姉さんの事を自殺に追い込んだ張本人のくせにっ。知ったような事を言うなっ」
その声は獣のように荒々しく、ゴンに向けた目は憎悪に満ちて鋭く尖っていた。
「確かに。否定はしない。張本人っていう意味じゃ間違ってないからな。けど」
「それ以上喋んじゃねえっ」
晶君はそう言うと手にしていた鉄パイプをゴンの側頭部に当てていた。
「――ゴンッ」
無意識にアタシは大好きなアイツの呼び名を叫んでいた。




