お前がそうなのか?
「ここか……」
俺は指定された場所の前に立つ目の前には中規模くらいの工場があった。確かに古びた看板に佐藤鉄工と書かれていた。見るからに寂れていて人の気配が全くしない。
「丸腰で来ちまったな……」
しまった。相手が武器を何も持ってないとは限らない。というか、素手で勝てる確証も無いのに何やってんだ。
「……ん、これは?」
辺りを見回すと鉄パイプが置いてあった。短めの棒でリーチは無いが、まぁ無いよりはマシだろう。俺はそれを手に持つと廃工場の錆びた入り口へと向かう。扉に手を掛けて動かすとギギィと扉が音を立てる。扉を開けて中に入ると元は白くてキレイ壁だったんだろう。今はその白がくすんで見えた。
ウチの学校の体育館並みの広さか。俺は周りを見回すとある一点で俺の目が留まる。
「――久川さんっ!!」
俺はそう言って駆け出す。工場の中央にポツンと彼女が座り込んでいた。
「……あ、蓮本」
久川さんの声は震えていた。当然だ。こんなところに監禁されていて、平気なわけがない。俺は彼女の瞳を覗き込む。その目は俺を見ているはずなのに、何も写っていない。空虚のように感じられた。彼女の右足に鎖が繋がれていた。それを外す為に俺は久川さんに近付こうとした。すると
「――近寄らないでっ」
久川さんが突然悲鳴のように拒絶の言葉を叫ぶ。
「久川……さん?」
どうしたのだろう? 今の拒絶の仕方は。今まで1度も拒絶なんかしなかったのに。
「お前の過去を聞いて怖くなったんだとよっ」
背後から楽しそうに喚き散らす声が聞こえた。俺は後ろを振り返り驚く。
「日、下部……君?」
信じられなかった。目の前にいるのは昨日出会った日下部晶。だが今の彼は昨日と全然印象が違って見えた。高圧的な態度、人を見下したような笑顔、なにより目だ。日下部晶の目は鋭くその眼光は憎悪に満ちているように見えた。
「考えてみればそうか……」
あの中庭で会った時、彼はカスミ草を大事に抱えていた。その時点で俺はもっと疑うべきだったんだ。俺は日下部晶の目をまっすぐに見返す。
「――お前がそうなのか?」
俺が問いかけると日下部晶は
「――アハッアハハッアハハハッ」
と腹を抱えながら高笑いを始める。その光景に狂気を感じた。一頻り笑い終わると憎悪に満ちた瞳を俺に向ける。
「ああそうだよ。俺が榊原優恵の弟だっ!!」
「名字が違うみたいだが」
「姉さんが亡くなった後、両親が離婚してね。俺は父さんに引き取られてその時に名字が日下部になったんだ」
そうか。今日下部晶は自分の事を僕じゃなく俺と言ってるが、おそらくこっちが素なんだろう。
彼の手元に目を向ける。両手には何も握られていなかった。
「取り敢えず、話をしないか……」
俺は余裕そうに日下部晶に提案する。




