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やるだけやってみるよ

「…………」


 俺は久川さんのLINと通話を終えるとその場で立ち尽くす。それ程までに久川さんを拉致したと思われる犯人の、最後の言葉が衝撃だった。


『そうだな。取り敢えずお前が()()()()()()()()()()()の弟とだけ伝えてやる』


 まさか。ここで、榊原さん……()()()()が出てくるなんて。忘れかけていた記憶が蘇りそうになる。


「おいっシャキッとしやがれっ」


 その声と同時に背中をパァンと叩かれる。思ったより痛い衝撃に声を上げそうになる。後ろを振り向くと鬼気迫るといった表情でこちらを見つめている鬼原。


「今アイツを……奈津を助けられんのは、お前だけなんだぞっ!!」

「そんなのっ」


 犯人との会話で警察は呼ばない事に了承したか普通に呼べばいいじゃないか。そう言おうとしたら


「――っ」


 鬼原がいきなり頭を下げてきた。突然の事に言葉を失う。まさか鬼原に頭を下げられるなんて。


「……頼むっ。アイツを救ってくれるってんなら。パシリだろうとサンドバッグだろうとなんでも従う。退学しろってんなら、この件が終わったら退学する。だから……」

「……なんでそこまで」


 仮に恋人だったとしても、ここまで必死になれるものだろうか。俺には無理だ。自分の方が大事だ。これから行くところには大なり小なり危険が付き纏う。それなら俺は間違いなく自分を選ぶだろう。

 俺は尚も頭を下げている鬼原に目を向ける。鬼原の肩が小刻みに震えている。本当に久川さんを失うのを恐れているのか。でもなんでそこまで出来るんだ? 間違いなく鬼原は久川さんの為に命を平然と掛けられるだろう。でもどうしてそこまで――。


「――っ」


 瞬間、鬼原が頭を上げると俺の前まで来て俺の両肩を掴む。


「頼むよっ。奈津を……っ。()()を助けてやってくれっ」

「……姉貴?」


 俺は鬼原が叫んだ1つの単語を口にする。


「俺とアイツは双子の姉弟だ。小学校の頃に離婚して離れ離れになって、この鷹明高校で再会した」


 それを聞いて2人の距離感の近さに納得する。


「でもっ名字は違ってもっ、アイツは俺のたった1人の姉貴なんだよっ!!」


 そう言った鬼原の顔は今にも泣き出しそうで、見てて悲しい気持ちになった。俺は俺の肩を掴んでいる鬼原の両手に自身の両手を被せる。


「分かった。やれるだけやってみるよ」

「――っ」


 目の前の鬼原の目が大きく見開かれる。今の必死に懇願する感じ、どことなく久川さんに似てたな。まぁ姉弟なんだから似てて当然だけど。


「取り敢えずこれLINのID」


 俺はそう言ってスマホを出すと鬼原のIDを登録する。友達一覧に鬼原の名前が出てくる。


「3時間後までに連絡が無かったら警察に今の事を伝えてくれ」

「……分かった。姉貴を頼む」


 そう言って頭を下げる鬼原を見て俺は駆け出した。

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