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騙されるかよ

――まさか、俺が嘘告白の相手だったか。


 俺はうんざりした気持ちがそのまま顔に出そうになり、必死に堪えた。こういう所でなにか反応すると後々面倒な事になる。それに……。

 俺は図書室の出入り口へと久川に悟られないように目を向ける。そこには井上と木下がこちらをニヤニヤしながらこちらを眺めていた。俺は静かに嘆息する。

 まぁでも考えてみればそうか。今回の罰ゲームの内容からしてイケメンなんかと1か月付き合っても何も面白くないもんな。それならブサイクで影の薄い人間がターゲットの方が好ましい。

 俺は自分で言うのもなんだが影は薄い方だと思う。必要最低限人と関わらないようにこれまで高校生活を過ごしてきたからな。それに他人に感情を読まれるのが嫌だという理由で前髪を鼻先に掛かるほど伸ばしている。〇〇〇のキタロウより悍ましい仕上がりだ。このお陰で俺に直接関わろうという人間が少なくて俺としては非常に嬉しい。

 にしても……。俺は目の前にいる久川奈津へと目を向ける。クールで通ってるあの久川が嘘告白にこんな顔をするなんてな。彼女の瞳は潤み、それだけじゃなく時々揺れていた。まるで振られるのを恐れているような……? って当たり前か、ここで俺が振ったら罰ゲームが成立しない上にまた新たな()()()を探さなくてはならない。

 なら、なんで頬が赤くなってるんだ? 最初ほんのり赤く上気していた頬が今では色濃く出た上に耳まで真っ赤だ。これじゃまるで……本当に恋をして告白してる女の子みたいじゃないか。

 

「……っ」


 俺は慌てて頭を左右に高速で振ってその考えを否定する。待て待て、俺は今まで目立たないように過ごしてきた陰キャでブサイクな人間だ。対するのは校内で1番人気のクール系ギャルの久川奈津だぞ。彼女自身陽キャという訳じゃないが陽キャグループに属している。人種もスクールカーストも違う接点の全くない俺に恋なんてするわけないじゃないか。……なんか自分でそんな事考えて虚しいな。

 取り敢えずこれはあれだ……、彼女も彼女で一杯一杯なんだろう。ここで振られたら罰ゲームが成立しないで、この下らない茶番がまた1から始まるのだから。うん。

 それに言ってたじゃないか。俺を好きな理由を聞いたら、『アンタは……誰にでも優しいから』って……。俺、この学校内で誰かに優しくしたっけか? してないな。というか、人に優しくしたことなんて小学生のある時期からしてないぞ。絶対その場しのぎの適当言ってるだろ。


「そ、その……俺は普段……誰にも優しくしたことなんてないんだけど」


 俺はしどろもどろにそう告げる。因みに言っておくが俺は普通に人と会話することは出来る。ただ人と衝突する事が面倒だから敢えてこういうキャラを演じてるだけだ。その方が、この〇〇〇のキタロウの見た目と相まって益々俺と関わろうなんて人間も少なくなるからな。

 俺がそう答えると久川は俺に向けていた瞳を下へと俯かせる。なんだろう。一瞬、その時の顔が辛そうに見えたけど……。ああなるほど。まさかこんな返しが来ると思っていなかったから驚いたのか。でもなんだろう? ずっと開いていた彼女の両手のひらがギュッと握りしめられたかと思うとまた開いたりの繰り返しなんだが。


「……?」


 俺は何事だと思いながら久川奈津を見つめる。なんだろう。さっきより顔を赤らめた上で視線を忙しなく動かしている。口が開いたり閉じたりの繰り返しだ。言いたいけど言えないって感じ。こりゃ時間が掛かるかな……なんて思っていたら


「……よ」


 彼女の言葉があまりにも掠れてる上に小声でよく聞き取れなくて俺は反射的に「え?」と聞き返していた。すると彼女が俯いていた顔を上げた。俺はその顔を見て固まる。だって彼女の初めての満面の笑顔を目の当たりにしたから……。


「蓮本が……優しいってこと私は知ってるよ」


 1音1音大事に口にする久川を見て俺の胸がドクンドクンと一定のリズムで脈打つ。ヤバい。こんな久川見た事がない。でも俺は騙されない。今朝言ってたじゃないか。これは罰ゲームだって。だから今僕に向けてるこの柔らかくはにかんでる笑顔も、演技なんだ。騙されたりなんか絶対しない。


「告白の答え……聞かせてよ?」


 上目遣いに久川はそう尋ねてきた。その瞳は濡れていて、いつもクールな彼女とはまた違った魅力が感じられた。俺はその瞳を黙って見つめる。久川の演技力が半端ないなと感心させられる。たかだかトランプで負けて罰ゲームを与えられたとはいえ、ここまで役者顔負けの顔芸は圧巻だ。


「ご、ごめん。俺には……無理だよ」


 俺は自信なさげにそう答えると、久川は一瞬目を見開くと徐々に顔が下を向き同時に肩も下がる。相当ショックを受けてるようだが知ったことではない。ここでOKしたところでどうせ振られるのだ。ならそんな茶番に付き合う理由など最初からないだろう。


「そ、それじゃあ……俺はこれで」


 俺はそう言って図書室を後にする。廊下に出るとさっきまでいた井上と木下の姿がなかった。もしかしたら近くにいるのかもしれないけど、俺には関係ない。これでアイツ等は俺に金輪際関わってくる事はないだろう。むしろこの事を校内に広められるんじゃないかと思うとめんどくさいなと思いながら帰路に就く。

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