side奈津 どうするつもりっ?
◇◇◇◇◇
「……んっ」
目を覚ますとそこは全然見覚えのない場所だった。学校の体育館並みの広さで、天井壁床全てが元は白かったと思われる色が、所々くすんでいる。周りにはアタシの近くにアタシの腰の高さくらいのと鉄の箱状の物が置かれているが、それ以外はなにもない。そんな場所の真ん中にポツリとアタシがいる。
「ここは……アタシ、確か」
朝家を出て学校に向かったら、誰かがアタシの鼻と口元にハンカチを被せてきた。それでアタシは……。取り敢えず、動こうと思って手足を動かそうとすると
――ジャリンッ
アタシの右足の辺りから鉄の音がなる。音のした方へ目を向けると
「なにこれ」
右足に目を向けると鎖が繋がれていてその鎖は鉄の箱へと繋がれていた。しかもご丁寧に南京錠付きという最悪な状態で。
「誘拐、されたの……」
そう考えると急に背中にゾワッと嫌な寒気を感じた。どうしよう。誘拐なんて初めて受けた。未知なる事にアタシの心が急激に冷えてくる。こわいこわいこわいこわいっ。これからアタシどうなっちゃうのっ?
「そうだスマホっ」
アタシはそう言ってスカートのポケットに手を入れようとした瞬間――
「……無駄だ」
という低い声が聞こえた。だけどアタシはその声に聞き覚えがあった。声のした方へ目を向けると
「晶……君?」
そこには晶君が立っていた。だけど昨日会った時とは印象が大分違う。オドオドしてた態度が今は自信に満ちてる感じだし、口調も昨日とは全然違う。なにより1番違うのは目だ。人懐っこい感じの可愛らしかった目が、今は鋭い目付きになっている。まるで憎悪に燃え上がっているみたいに。
「晶君……。これはなんの、冗談」
アタシが問いかけると
「――ハハ、ハハハッ、ハーハッハッハッ」
晶君は突然大声で笑う。アタシはその光景を見て思う。狂っている、と。なにが面白いのか全く分からない。アタシは怖くなってそれ以上言葉を紡げない。暫くすると晶君は笑うのを止めた。
「アンタバカか? 冗談でこんな事する訳ねえだろ?」
彼は不敵な笑みを浮かべる。昨日とは全く違う口調に驚き気持ちが怯みそうになる。
「――っ、いったい……アタシをどうするつもりっ?」
それでもアタシは怯みそうになってる気持ちを、なんとか奮い立たせて質問する。
「どうする……? そりゃこうするんだよっ」
そう言って彼はポケットからある物を取り出す。
「そ、それっ」
晶君が手にしていたのはアタシのスマホだった。
「いや大変だったぜ。パスワードを当てるのはよ……」
そう言いながら彼はアタシのスマホを、断りもなく勝手に操作する。そしてスマホからあるメロディーが流れる。それはLINの通話の時に流れるメロディーだった。スピーカーになっている。
『……久川さんっ』
スマホからメロディーがプツッと切れた数秒後、ゴンの慌てた声が聞こえてくる。
「蓮本っ」
アタシは今1番聞きたい人の声が聞けて嬉しくなる。不安になりかけていた心がゆっくりと晴れていく。
『女を返して欲しければこちらの指定する場所へ来い』
聞き慣れない声が晶君の方からしてアタシは声のした方へ目を向ける。すると、晶君の物と思われるスマホを片手に彼は喋っていた。
『いいか。警察には言うな。警察が来たと分かった瞬間に女を殺す。勿論1人で来いよ……』
晶君の声はヘリウムガスを口に含んだ時みたいに甲高い声になっている。きっと今ボイスチェンジャーのアプリを使っているんだ。
『分かった。どこへ行けばいい』
『川のある場所は分かるか?』
『……瀧川か?』
『ああそうだ。そこの近くに古びた看板に佐藤鉄工と書かれた廃工場がある。そこに来い』
「分かった。なぁ1つだけ聞かせてくれ」
『良いだろう。なんだ?』
そこまで言うとスマホから大きく息を吸い込む音が聞こえた。
『……アンタはいったい何者だ?』
ゴンのその声は今までになく真剣味を帯びていた。
『そうだな。取り敢えずお前が死に追いやった女子生徒の弟とだけ伝えてやる』
『――っ』
スピーカーから息を呑む音がする。
『分かったらとっとと来い……』
そう言って晶君はアタシのスマホをタップする。
「ねぇ。死に追いやった女子生徒ってどういう事?」
「ああ。聞いてなかったのか?」
晶君は自身のスマホのボイスチェンジャーと思われるアプリを切ると、胡乱げな瞳をこちらへと向けた。
「アイツは……俺の大事な人を汚した。最低最悪な野郎だっ!!」
それからアタシはゴンの中学時代の事を知る事になる。




