嫌な記憶の花
昼休み、俺と久川さんは聞き込みをする為校内を散策する。たが
「闇雲にしても意味がないよな」
「そうね……」
そうなのだ。聞き込みを続けた所で有力な手掛かりはない。頼りに出来るとしたら今日警察に事情聴取を受けに行ったあの6人が、誰に命令されたのか口を割ってくれる事を祈るしかない。
「俺の方から出来る事はないか……」
後は警察がアイツ等に誰に命令されたのか、口を割らせてくれる事を祈るしかない。大丈夫。警察は犯人に自供させるテクニックがある。それにあんな所で大人1人にガン見されたら、気まずくなって嫌でも口を割りたくなるだろう。こんな場所から早く開放されたい一心で。にしても
「今日はいつにもまして……近すぎません?」
俺の真横で身体を密着させてくる久川さんを横目で見ながら問いかける。彼女のオレンジ色の髪が目と鼻の先に映る。
「そう〜?」
久川さんはからかうように言うと、さっきより身体を密着させてくる。当然密着させるという事は俺の身体の一部を掴まなくてはならない。なので彼女は俺の腕を掴んだ上で押し付けている。
「…………」
いやもう何度言っても聞いてくれないから半分諦めるけどさ。それでもさっきから周りの視線が痛いんだけど。俺は周囲に目を向ける。
周囲では俺の事を羨望の眼差しで見る者。嫉妬の眼差しで見る者の2種類の眼差しで見る男女がいた。ん? なんで女子がそんな目で見るの……あぁそういう事か。
女子の間でも久川さんはカッコいいって人気なんだよな。きっとそんな彼女を俺が独占してるみたいな感じだからそんな目で見てるんだろう。だとしたらまたあの6人組みたいな連中が絡んでくるかもしれない。面倒だなとは思うけど、久川さんと関わるのを止める気は毛頭ない。だって久川奈津は俺の友達なのだから。
「……?」
俺は足を止める。足を止めた場所は、様々な草木が生い茂っている中庭。ここは普段昼休みの時間帯において、誰も利用しない。久川さんが俺に関わりだす前までは、俺はここをよく利用していた。暫く振りにこの中庭の前を通ったが、そこに1人見慣れない人物が立っていた。
「ん、誰かいるね?」
久川さんが物珍しそうな声を上げる。彼女もここが昼休みの時間帯において、全く人気の場所ではない事を知ってるようだ。気付けば俺は中庭へと足を進めていた。何故かは分からない。昼休みにこの場所を利用する生徒が珍しかったのかもしれない。俺以外の生徒が利用していたから。
「……こんにちは」
俺が声を掛けると背中を向けていた男子生徒が、ビクッと身体を震わせる。その男子生徒は俺より背が低く、頭の位置が丁度俺の肩にくるくらいの高さだ。肩まで伸びたサラサラの黒髪が風で靡く。彼は恐る恐るといった調子でこちらを振り向く。クリっとした瞳が可愛らしいなと思う。
「こ、こんにちは……」
か細い声で挨拶の言葉を返す彼。
「かっ可愛い〜っ」
真横で久川さんが色で例えると黄色い声……を上げたかと思うと、俺の手を離し彼の元まで走っていくと、戸惑う彼を無視してギュッと抱きしめる。いやうん。虚しいとか全然思ってないけどね。ただ、急に離れていったのは……少しばかりショックかな。
俺はその光景に苦笑しながら彼に目を向ける。ウチの学年では見た事がないな。ひょっとして1年生?
「アタシは久川奈津2年生っ。貴方は?」
可愛らしい笑顔で自己紹介を済ませると彼の名を尋ねる久川さん。すげぇ。この人ナチュラルに、自己紹介を済ませて相手の名前尋ねちゃってるよ。というか、俺に対してだけデレデレすると思ってたのに。彼の前でもするとか……しかもなんか俺の時より笑顔が輝いてんだけどっ。
「ぼ、僕は……日下部、晶」
彼――日下部晶はオドオドとした態度で自分の名を告げる。
「宜しくっ。晶君は1年生かしら?」
おいおい。何普通に下の名前で読んでるの? 俺も呼ばれたことないのにっ。ってなに羨ましがってんだ。俺には関係ないだろ?
「は、はいそうです……。こ、こちらこそ宜しくお願いします」
ぎこちなく頭を下げる日下部君を見ていると彼が手にしていた花に目が止まる。
「その花は……?」
俺が尋ねると日下部君は一度花に視線を向けた後、俺へと視線を移す。
「カスミ草ですね。花言葉は……」
「幸福、感謝……だろ?」
言われなくても知ってる。だってその花は俺にとっては嫌な記憶の花なのだから。




