side宮下 この事件の真相は
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「……フム」
私は数多い書類の中の1枚の紙を手に取りジッと眺める。
「……? 宮下巡査部長どうかしましたか?」
天宮が私を訝しむような瞳で見てくる。
「いやな……。彼――蓮本龍についての今までの経歴について見ていたんだがな」
正直読んでいて信じられなかった。彼、蓮本龍は小学生時代自分より弱い人間を苛めて楽しんでいた少年だという。これは小学校側が証言したことだ。小学校5年生になるまでは心優しい少年だったというのに、ある事件を切っ掛けに変わってしまったという。
だがその話に私は違和感を覚えた。その苛めの話や彼の非行の話がすべて、生徒達の密告で聞いた話だと言う。実際にその現場を見た事が無いという。
蓮本龍の中学時代これもまた壮絶だ。小学時代同様彼は弱い者いじめをし、それだけに留まらず万引き、なんと火遊びや女子生徒に対して強姦を働いたという。そしてその強姦した女子生徒を自殺に追いやったという話だ。だがこれもまた生徒達の密告で、その現場を直接見た教師は居ないという。強姦された上に自殺したと言われる女子生徒の件は証拠不十分という事で不起訴として処理がされていた。
「俺もそれ見ました……。今回の事件を起こし得る人間です。ホシで確定ですよ」
天宮が片手で握り拳を作り開いてる方の手でその握り拳をパアンと打ち付けるようにして覆う。私はそれを見てまだまだ青いなと思った。人間は先入観という物を持ってしまう生き物だ。だから警察官というのはその先入観を出来るだけ取り除いて真実を見つけ出さなくてはならない。
だが今の天宮は完全に蓮本龍がホシだと思い込んでいる。だが私にはどうも……
「私には蓮本がそんな事をする人間には見えないんだがなぁ」
「宮下巡査部長。それはその経歴を見る限り明らかでしょう。俺にはとても善人には思えませんよ」
「天宮、噂話や経歴だけでは人間の奥底は計り知れない。上の立場に行きたいのであればもっと広い視野を持ちなさい」
私の言葉に天宮は目を大きく見開いて数秒固まった後、慌てて敬礼しながら「ハッ」と声を上げる。
私は椅子に腰深く掛けると顎に手を当て目を閉じる。さてここまでで疑問なのは何故刃物と札束が彼の元に入れられたかだ。
正直私は彼が犯人ではないと思っている。この経歴と教師陣の話を聞いて抱いた印象は周りの人間に彼は不遇な扱いを受け続けてきたんじゃないかという事だ。
おそらく彼は非行などということは一切した事がないと思う。根拠をあげるとすれば彼の態度だ。犯罪を犯す人間には3つの精神傾向が存在する。第1に意志欠如型。第2に軽躁者。そして最後に爆発者だ。
まず第1の意志欠如型は文字通り意志の弱い人間の事で何事にも我慢が出来ず、他人から誘われた事に対してキッパリ断る事が出来ないタイプの人間。
そして第2の軽躁者。これは派手でお調子者見栄っ張りや目立ちたがり屋の人間の事を指す。このタイプの人間は見栄を張るために万引き、人より目立ちたいが為に暴力。とにかくどんな犯罪にでも手を染める厄介なタイプだ。
最後に爆発者。このタイプは常に我慢するのが苦手で突然キレ出す事が多いと言われている。殺傷事件を引き起こしてるのは大体このタイプの人間だ。突発的な怒りで人を殺す。
蓮本龍……、彼はこの3つのタイプのどれにも当てはまらないような気がする。意志欠如型に見えなくもないが、私の取り調べに対しあんなにハッキリと答えられていたんだ。問題ないだろう。私は蓮本龍の経歴書から天宮へと視線を移す。
「……天宮、鑑識からは何もないのか?」
「はい。何も報告は挙がっていません」
「そうか」
蓮本龍の鞄の中に入っていた刃物と札束。刃物は指紋が一切検出されなかった。ホシが予め拭き取ったのだろう。札束に至っては複数の人間の指紋が検出されて、決定的な証拠としては不十分だ。鷹明高校の男子生徒全員の指紋を取れば、一致する者も出てくるかもしれないがそこまでの権限は持ち合わせていない。それに複数一致する者が出てくる可能性がある。それではホシは割り出せない。
さらに厄介な事にホシは覆面をしている。分かる事は鷹明高校の制服だけ。しかも鷹明高校は山に囲まれたド田舎で監視カメラなどの設備があまり普及されていない。コンビニも監視カメラなどは付いていなかった。だから鑑識は本来の力を発揮出来ないでいる。
私は何気なく天井を見上げる。やはり手がかりになる物が在るとすれば……蓮本龍。何故彼の鞄に包丁や現金10万円が入っていた? 普通学校にそのような物を持ってくるのはリスクが大きい。そこまでしてしたかった事はなんだ? そこで1つの可能性に私は行き着く。
「蓮本龍に罪を被せる事が目的?」
だとすれば、この行動にも納得がいく。だがなぜそうする必要がある?
「おい天宮……。この事件の真相は相当闇が深いかもしれないぞ?」
俺は天宮にそう言うともう一度事件を1から見直そうと決めて立ち上がる。




