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side奈津 アタシがゴンを支えるっ

◇◇◇◇◇

「……よしっ」


 アタシは気合いを入れて、職員室の扉に手を掛ける。絶対第1目撃者が誰か聞き出してやるんだから。アタシはそう意気込みながら職員室へと入る。

 入ってすぐ周りを見回すと奥の方に金田が座って作業しているのを見つける。失礼な話だけど、こういう時金田の特徴は分かりやすくて有り難いと思う。白髪で所々が剥げてる。探しやすくて助かる。まぁこんな事本人にも言えないし、思っちゃ駄目なんだけど。ごめんね。金田。

 アタシはそんな失礼な事を心の中で詫びながら彼の元へ歩く。


「ん? 久川か。どうかしたか?」


 金田は後ろにいるアタシをチラッと振り向き一瞥すると、そのまま前を向き作業をしながら問いかけてくる。金田はアタシみたいな……というか、ギャルという存在が嫌いに思っている。アタシもそれは理解してたから、アタシから話し掛ける事はしてこなかった。だけど今回ばかりは話さなきゃ。


「あの。蓮本関連で聞きたい事があるんだけど」


 アタシの言葉に作業をしていた金田の手が止まる。そしてアタシの方に身体ごと振り向いてくる。彼の顔から面倒くさいなあという感じが窺えた。


「あの犯罪者がどうしたって?」


 ……む、アタシは金田の言葉を聞いて一気に不機嫌になる。


「……まだ蓮本がやったなんて決まってない」

「ふんっどうだか……。彼についてこちらでも分かる範囲で調べてみたが、彼随分素行が悪いみたいじゃないか」


 金田がニタニタと見る者を不快にさせる笑みを浮かべる。


「万引きに強姦……学校では弱い者いじめを繰り返してたみたいじゃないか?」


 アタシはそれを聞いて驚く。いったい何をどうすれば、そんな風に悪い噂が出た上で信じられるのよ。普通そんなに素行が悪かったら少年院に入ってる筈だっての。


「それは……蓮本が自分でやったって言ったの?」


 アタシの問い掛けを金田は一笑に付す。


「自分から罪を認める奴はいないだろう?」

「仮に言ってる事が事実だとして、強姦したということなら少年院に送られてると思うんだけど」


 アタシの言葉に金田は狼狽える。


「そ、それは……。向こうの話では被害者が事を荒立てずに済ませた……という話だ」

「そもそも万引きの非行が噂に出てるなら、蓮本は現認で警察の厄介になったって事実があるんですか?」

「い、いや……それは無いが」


 アタシは会話をしてる内に金田を殴りつけたい衝動に駆られる。そっか。多分、こういう人間が()()の周りには沢山いたんだ。他人の噂に左右される人間が、大人も子供も関係なく。当時の()()は大変だったんだと思う。周りに信用出来る友達も大人もいなくて……だから、今度はアタシが()()を支えるっ。


「金田先生。聞いた事だけが真実じゃないってアタシは思う。確かに蓮本はあんな見た目だから誤解されやすいけど」


 アタシは知ってる。


「アイツは不器用なだけで、話せば面白いし人を傷付けるような事は絶対にしない。良い奴だよ」


 アタシは()()に泣かされてるけど、それは理由あっての事だもん。


「……う、煩いっ。アイツは……アイツはっ犯罪者なんだっ。罪を犯して当然の人間なんだよっ。1年間おとなしくしてたみたいだが、裏でコソコソしてたんだろう。すぐにボロを出すに決まってるっ」


 金田が唾を飛ばしながら捲し立てる。周りにいる教師達の視線がアタシ達へと向けられる。アタシは我慢が出来なくなって大きく溜め息を吐く。くだらない。本当の事を言われて怒るとか、大人のする事じゃないわね。


「……金田先生」


 横から凛とした声が聞こえた。声のする方へ顔を向けると


「こ、校長先生っ」


 金田が慌てた声を上げる。目の前にいるのはベージュのスーツに身を包む校長――平山一翔(ひらやまかずと)だった。校長は白と黒の入り混じった髪を軽く撫でながらアタシ達の元へと歩いてくる。


「金田先生。いけないですよ。無実かもしれない生徒を勝手に決めつけては」


 窘めるように言う校長先生に言われると金田は目を伏せる。その様を校長は見届けると


「少し彼女……久川奈津さんと話をするから。私が話し終わった後、彼女が聞きたがってた事に答えるように」


 そう言うと、校長先生は隣接されている校長室の入り口に連れて行かれる。アタシの名前……知ってるんだ。前に香奈に聞いた気がする。校長先生は生徒1人1人の顔と名前を知ってるって。


「さぁどうぞ」


 アタシは言われるがままに校長室の扉を通って中に入る。校長は私に3人掛けの黒のソファに座るよう手振りで促してくる。アタシは素直に座る。


「いや、金田先生が失礼したね」


 柔和な笑みで謝罪の言葉を述べる校長先生。アタシはその言葉に反応せずにジッと見つめる。一体何が目的なのかしら? 校長先生はアタシの意思を汲み取ったのか軽く咳き込むと


「本題に入ろう。実はね、ずっと君――久川奈津さんと彼――蓮本龍君、君達2人をいつも気に掛けていたんだ」


 アタシはその言葉に驚く。気に掛けていた? アタシと()()を? そんな素振り今まで見た事なんかない。デタラメを言っているんじゃと思っていたら


「だが、校長というのは生徒を個人的に優遇する事は出来なくてね。私は今でも後悔してるよ。校長(上の立場)なんかになるんじゃなかったと」


 校長先生はどこか空虚さを感じさせる瞳を天井に向けた。今の話なんとなく分かるかもしれない。上に立てば立つほど責任というものが付き纏う。校長先生の言うように、校長という立場じゃない方が生徒と密接な関係を築けると思う。


「去年、君達を見ていて私は非常に心配した。君達、特に蓮本君は他人を一切信用していないように見えた」


 それは間違ってない。()()は今でも他人の事を無条件で信用は出来ないと思う。


「だが最近の彼、そして君は良い方に変わっているようだね」


 ニッコリと微笑む校長先生。アタシは何故か照れ臭くなって目を逸らす。それを見て校長先生は笑う。


「これからも、色々間違えたり傷付いたり傷付けたりする事もあるだろうけど、必死に頑張りなさい。それが人生と言うものだからね」


 アタシはその言葉に関心を抱く。そっか、この人は良い大人なんだ。


「好きな男の子の為に頑張りなさい」

「なっ」


 宣言撤回。やっぱり大人なんて信用しちゃ駄目だ。


「な、何言ってるんです?」

「おや、違ったかい? 君は今でもあのチワワの子犬を大事にしてるのがその証拠だろ?」


 アタシはその言葉に驚く。なんで校長先生がカンナの事を知ってるの?


「私もあの()()()に餌をあげ続けていた人間の1人さ。君や、蓮本君が餌をあげてる所を何度も見ている」


 は、恥ずかしい。まさか誰も知らないと思ってたのに。校長先生が見てたなんて。


「し、失礼しましたっ」


 アタシは恥ずかしくなって校長室を飛び出し、職員室から去っていく。

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