面白い人だって思う
さて昨日色々あったけど、俺自身の無実を晴らす為にも調査をしないと。なんだけど……。俺は周囲を見回す。なんだろう? 視線をあちこちから感じるんだけど。
朝登校してからずっと、色んな人の視線を浴びてる気がする。それもここ最近感じてた嫉妬混じりのものじゃない。なんなんだこれは?
見てくる人間に目を向けると男子が信じられないと言った顔で見てくるし、反対に女子に目を向けると視線が合わさった瞬間「キャ~」とか叫ばれた。やっぱり髪切ったのは失敗だったな。自分では上手く切れたと思ったんだけど。俺はその場で溜め息を吐く。
「どうかしたの蓮本?」
そう言いながら、久川さんが俺の真横まで歩み寄ってくる。
「いやその、髪切ったの失敗だったなと思って」
思った事を久川さんにそのまま伝えると
「そんな事ないっ」
と凄い勢いで久川さんが言う。お、おう……そんな力強く言うほどなのか?
「だって――」
「あ、あのっ!!」
うわ、ビックリした……。声のした方へ目を向けると長い黒髪をポニーテールにした女の子が立っていた。髪留めに使ってる青いリボンが綺麗だ。
「その……、りゅ、龍君っ」
「は、はいっ」
えっ? てっきり久川さんに用事かなって思ってたんだけど。パッチリと開かれた二重まぶたに収められている紫色に輝く瞳が俺を見つめる。こころなしか彼女の瞳が潤んでいる。それに顔も次第に赤くなっているような……?
というか名字じゃなくて名前で呼ばれたんだけど、いきなり馴れ馴れしいんじゃないか?
「その……私と友達にっ」
「……却下」
彼女が喋っている途中で久川さんが割り込む。なんか声に物凄く怒気が含まれてるように感じるんだけど気のせいか?
「今まで見向きもしなかった人間が急に馴れ馴れしくするな」
うん。なんか分かんないけど、不機嫌なのは間違いないみたい。
「なっ。久川さんには関係ないでしょっ。大体何様っ。龍君の彼女でもないくせにっ」
「――か、かれっ」
久川さんが顔を赤くしながら狼狽える。ん? なんか話の流れがおかしいぞ? というか俺居ていいの?
「か、彼女……じゃないけど。し、親友だっ。なぁ蓮本っ」
久川さんは赤くなった顔を俺に向けてくる。彼女に目を向けると涙目になっていた。俺はその同意を求める言葉に頷く。
「ふんっ。でもそれなら貴方がどうこう言う資格はないでしょ?」
「……グッ」
彼女の言葉に久川さんは押し黙る。まぁ正論だなと俺は思う。というか、なんでこんな久川さん必死になってるんだ?
「……邪魔だ」
後ろからドスの効いた声が聞こえた。後ろを振り向くと鬼原黎志が腕を組んで仁王立ちしていた。金に染めた髪が眩しい。
「……たくっ。ん? 霧華じゃねぇか」
鬼原は物珍しそうな顔で見る。反対に霧華と呼ばれた女の子は大きく目を見開いた状態で鬼原を見つめている。
「う、嘘。なんでアンタがここにいるの?」
「いやだって俺のクラスだし。つうか……なんで他クラスのお前がここにいんだよ」
どうやら2人は知り合いのようだ。でもそっか。道理で見た事がないと思った訳だ。まぁ、同じクラスの人でも知らない人が多いけど。
「黎志……その女知ってるの?」
怪訝な視線を霧華と呼ばれた女子に向けながら久川さんは鬼原に尋ねる。
「ああ。コイツ、永嶋霧華。小学2年からの付き合いだ」
「腐れ縁よね……。高校まで同じだとは思わなかった」
「……それはお互い様だ」
ん? なんか一瞬、鬼原が気まずそうな顔をしてた気がするんだけど。
「そうなのね……。黎志とこれからも仲良くしてやってね」
久川さんはそう言って彼女――永嶋霧華の両手を取る。
「え? あ、うん……」
永嶋さんは戸惑いながら返事をする。久川さんと鬼原の関係ってなんなんだろう? とふと疑問に思う。恋人という感じには見えない。かと言って友達かというとそれ以上の関係に見える。
「……ん?」
俺は胸に手を当てる。またか? 胸にズキリッと痛みが走る。しかも今回は、久川さんと鬼原の関係はなんだろうって考えてたらだ。何かの病気だろうか? 今度病院に検査しに行こう。
「あ、そろそろ始業のチャイムがなる。じゃあまた後でね、龍君っ」
とキラキラと輝く笑顔で俺に手を振って帰っていく永嶋さん。後ろを振り返った瞬間、ポニーテールが宙に舞う。まるで尻尾のようだ。
「……強敵が現れたわね」
いや永嶋さんは敵ではないよ? 俺は敵を見るような目でいる久川さんを見て苦笑する。久川さんって面白い人だって思う。最初、こんなコロコロ表情を変える人だなんて想像もしなかった。だからこそ、こういう人は大事にしたいなって思う。せっかく友達になったんだから。そんな事を思っていると始業のチャイムがなる。




