side奈津 もう大丈夫よ
◇◇◇◇◇
「なに……やってるのよ。アンタ達っ!!」
気付けばアタシはそう叫んでいた。いつものアタシなら1度感情を落ち着けていたと思う。でも、目の前で土下座をしている蓮本の姿を見て、理性を保っていられなくなった。
教室の中にいる全員が目を見開いてアタシを見ている。こんなアタシを初めて見たからなんだろう。いや、1人だけ違う表情でアタシを見ていた。
「――っ」
アタシを見ている人物――ゴンの姿を見て息を呑む。なによ……その顔。ゴンの顔はまるで全てを諦めたかのような顔をしている。アタシを見るゴンの目には光が全く無く見てるこっちまで虚しくなるほど、空虚な瞳をしていた。
「……香那、聖羅」
アタシは香那と聖羅の前まで歩み寄って名を呼ぶと2人はビクッと身体を震わせる。
「蓮本が土下座してるようだけど……。何をさせようとしたの?」
淡々と告げるアタシが怖いのか彼女達はアタシに目も合わせず、小刻みに身体を震わせている。
「そ、それはその……アイツが」
「そ、そうそう〜。今回の事で多大な迷惑を掛けたから土下座して謝りたいって〜。ねえみんな〜?」
おぼつかない反応をする香那とは対象に聖羅はぎこちない笑顔で弁解した上に皆に同意を求めた。それに対し、一部の者が頷く。
「ほらっ、ねえ〜?」
必死に笑顔を作る聖羅を見てアタシはげんなりする。そこまでして自分だけでも助かりたいのか、と。
「……でした」
アタシの耳にか細い声が聞こえた。あまりにか細すぎて聞き取れなかった。後ろを振り向くとゴンが再び土下座をしていた。しかも今度はちゃんと額を地面に擦り付けて。
「ちょっ、なにやってんのよ蓮本っ!!」
アタシはそう言って彼の元に駆け寄り、顔を挙げさせようと肩に手を置く。でもいくら力を入れようとビクともしない。
「――すいませんっ、すいませんっ、すいませんっ、すいませんっ、すいませんっ」
「……蓮本」
ゴンの土下座しながら壊れたように謝罪の言葉を述べるその様にアタシは絶句した。寧ろ、狂気すら感じた。彼は、いったい何に対して謝っているの? 少なくとも、この件だけに謝っているようには見えない。だとしたら……。
そこである事を思い出す。アタシはこの光景を見た事がある。6年前、ゴンがとある噂で皆に誤解を受けていた時だ。最初は懸命に否定していたゴンが、ある時今のように土下座しながら『すいません、すいません』と狂ったように謝っていた。
アタシは自分の歯を思い切り噛み締める。ゴンはまだ、あの小学5年生の頃から抜け出せていないんだ。
「ほら見なさいっ。自分から土下座をしてきたわ。つまり強盗もコイツがやったのよ」
「決まりだね〜」
アタシが干渉に浸ってるのを他所に香那と聖羅は勝手に盛り上がっていた。見当違いな考えに腸が煮えくり返りそうになる。
「ソイツ……無理矢理土下座させられてたぞ」
教室にドスの効いた低い声が響く。声のした方へ目を向けると
「……黎志」
アタシの弟、鬼原黎志が席に座っていた。
「なんかそこの女2人組がソイツの事捲し上げて、土下座して謝れって言ってた。しかも土下座して詫びるべきじゃないかって教室にいる全員を煽ってたな」
黎志の言葉に香那、聖羅だけじゃなくその場にいた全員の顔が真っ青になっていく。アタシはこの教室にいる全員を睨みつけた後、黎志へと目を向ける。
「黎志……アンタは止めなかったの?」
アタシの問いに黎志は片手をヒラヒラと振りながら
「なんで俺がそこまでしなきゃなんねえんだよ……」
と面倒臭そうに言う。まぁこうして目撃した事を言ってくれてるし、黎志がこんな事に加害者として加担しないってよく知ってるからそれは水に流そう。言い方は気に食わないけど。
アタシが香那と聖羅に目を向けると、気まずそうに目を伏せている。
「香那、聖羅。今回の事でアタシ決めたわ。アンタ達とはこれで終わりにする」
アタシの言葉に香那と聖羅は伏せていた目をグイッと上に上げてきた。
「なんでよっ。私達よりそのクソ陰キャが大事だっていうのっ」
「こんな事で絶交とかそれは無いよ〜」
2人が抗議の声を上げるけどアタシは無視して言う。
「アンタ達のそういう所がアタシは嫌い。それにアンタ達はワタシを見てるんじゃない。校内1の人気女子であるアタシを見てるんだ」
アタシがそう言うと、思い当たる節があるのか2人はそれ以上なにも言わなくなった。そして2人は慌てたように教室から駆け足で去っていく。
アタシは依然として土下座をしたまま謝罪の言葉を述べるゴンに目を向け、彼の元へ歩み寄る。
「――すいませんっ、すいませんっ、すいませんっ、すいませんっ」
アタシはその言葉を聞いて悲しい気持ちになる。ゴン……。アタシのせい……だよね。ごめんね。でももう――
「――もう大丈夫よ」
アタシはそう言ってゴンを後ろから抱きしめた。




