人を信用するな
事情聴取を終えた翌日。俺は昨日、事情聴取を終えた後学校に連絡を入れたら今日は学校に来ないで自宅にいなさいと言われた。要するに自宅謹慎ってことか、と俺は納得してその日はそのまま家で過ごす事にした。そしてその翌日、つまり今日。学校に登校した訳なんだが
「おい見ろよ、強盗犯が来てるぜ」
「え、でもまだ犯人って決まったわけじゃないんでしょ?」
「バカ。見てみろよ。両目を前髪で隠してる辺りやべぇ奴だってっ」
「確かに……。というかキモいね」
……うん。なんかいつもより状況悪くなってないか。つうか、噂広まるの早すぎだろっ。俺がそう思いながら歩いていると
「おはよう蓮本」
と、いつものように彼女――久川奈津の明るい声が後ろから聞こえた。後ろを振り向くと1輪の花の蕾が花開くように可愛らしい笑顔をこちらに向けている。
「……?」
彼女が不思議そうな顔で俺を見返してくる。
「……っ」
そこで久川さんの事を見続けていた事に気が付く。俺は彼女から顔事そらす。恥ずかしくなったからだ。顔に熱が集中するのを感じる。多分今俺の顔は赤くなってる事だろう。ったく、何やってんだよ俺は。
ただ、こんな悪口それも濡れ衣で容疑者扱いを皆がしているにも関わらず、変わらず接してくれる久川さんを見て……。見て、安心するなんて。自惚れるな。もしかしたら、これも罠かもしれない。上げて落とす。そういう手段だってあるじゃないか。だから簡単に人を信用するな。俺は彼女を無視して歩き出す。
「あ、待ってよっ」
先を歩く俺にそう声を掛けてくる久川さんの声。後ろからコツコツとテンポのいい足音が聞こえてくる。そしてもう何度目か分からない、肩に柔らかな感触が訪れる。久川さんの手が俺の肩に置かれたのだ。俺は仕方なく立ち止まる。
「良かった……。止まってくれた」
安堵するように久川さんが言う。なんでそんな安心したような声上げるんだよ。
「……よ」
「え?」
俺の声が聞こえなかったのか不思議そうな顔で聞き返してくる久川さん。
「もうやめろよっ」
気付いたら俺は叫んでいた。周りの視線が俺に集中する。煩かった廊下が一瞬にして静まり返る。俺はそんな事お構いなしに叫ぶ。
「ウザいんだよっ、いつもいつもいつもっ。なんで冷たくされてるのに俺から離れようとしないんだよっ。そこまでして俺と関わりたいのかっ」
俺がそう叫ぶと彼女は口をギュッと横一文字に結び、目を伏せる。
「俺は人と関わるのが嫌なんだよっ。はっきり言ってアンタのやってる事は俺にとって大迷惑でしかないんだよっ」
そう、俺はもう誰とも関わらない。そう決めたんだ。それに彼女が俺に関わってくるのは罰ゲームの為だ。純粋な好意なんかじゃない。その筈なのに……。
「……え?」
次の瞬間、俺は久川さんの顔を見て言葉を失う。彼女の頬に次から次へと涙が伝っていたのだ。
「ごめん……ごめんねっ」
そう言うと久川さんは俺の横を走り抜けていく。俺は今の光景に頭が真っ白になる。なんで泣くんだよ。俺と関わりを持とうとしてるのは罰ゲームを実行する為だろ。それなのに。
俺は久川さんが涙を流していた時に見せた顔を思い出す。見てるこっちまで切ない気持ちになる程に辛そうな表情をしていた。彼女の顔から窺えたのは寂しさそれに後悔の念だ。どういう事だよ?
周りがヒソヒソと会話をし始める。きっと今のやり取りの事について話しているのだろう。俺は教室に向けて歩み始める。
「……くそっ」
久川さんのあの涙の訳が分からないと同時にもう1つ訳の分からない事があった。俺は片手を胸に強く押し付ける。なんで、彼女の泣き顔を見て俺も後悔なんかしてんだよっ。
いくら考えても分からない2つの疑問を抱えたまま俺は自分のクラスの教室の扉を開ける。




