知りません
「蓮本龍……鷹明高校に通う高校2年生。間違いないかな?」
机の上に両肘を付いて腕を組んでいる初老を迎えようかという人物に目を向ける。着ている服は帯広だが、どこかくたびれているように見えた。相当着込まれている上に着てる人同様、随分と苦労してきたんだろうな。にしても頭をスキンヘッドで決めていらっしゃるようで、予想以上に迫力があって怖い。
俺はスキンヘッドの人物――宮下巡査部長の言葉に頷く。
「おいっ、きっちり返事をしたらどうなんだっ!?」
横から飛び出してきた手が俺と宮下巡査部長の座っている机の上にバァンと強く叩きつけられる。そこには20代前半くらいと思われる青年が凄い形相でこちらを睨みつける。いやそんなに睨まれても困るんだけど。取り敢えず怖い。
宮下巡査部長が若い男に向け手を上げる。
「まぁまぁ天宮君……落ち着いて」
宮下巡査部長は穏やかな口調で、髪をツーブロックに纏めた青年――天宮……さんを窘める。
「は、はい……」
天宮さんは宮下巡査部長の言葉に渋々ながら頷く。
「よろしい。では蓮本君。……君には強盗未遂と銃刀法違反の容疑が掛けられている」
堅苦しい口調で告げられた言葉と同時に俺のいる部屋……鷹明警察署にある取り調べ室の部屋の空気が一気に重くなる。そう、俺は今宮下巡査部長の言うように2つの嫌疑が掛けられている。1つは強盗未遂。最後に銃刀法違反。これは俺の鞄の中から刃物と札束が見つかった事により、俺はこの鷹明警察署に任意同行という形で来ている。つまりまだ俺を今すぐ逮捕しようとかそういう事ではないらしい。
「あの刃物と札束はどうしたのかな?」
柔和な笑みを浮かべながら宮下巡査部長は尋ねてくる。俺はその笑みを見て不快な気分になる。少しでも嘘でも吐こう物なら噛み千切ってやる……そんな感じがアリアリと伝わってくる。
「……知りません」
俺は短く、だけどキッパリとした態度で答える。宮下巡査部長の目が細められる。
「知らない……とは?」
「言葉通りです。俺はあんなの鞄の中に入れた覚えがない。それどころか所持していた記憶もありません」
ここで嘘を吐いても仕方ない。というか、やっていないのだから事実しか述べる事が出来ない。だというのに
「……嘘吐いてんじゃねえっ!!」
また再び天宮さんが怒鳴り散らす。うん。ドラマでしか見たことないけど迫力凄いな。これはやってない人でもこの剣幕に押されて「私がやりました」とか言ってしまいそう。そういや最近のニュースで横暴な取り調べのせいで、無実の人が起訴されてそのまま刑務所に送られた事が取り上げられてたっけな?
「天宮っ、いい加減にしろっ!!」
今度は目の前にいる宮下巡査部長が机を思いっ切り叩く。俺はその光景に内心ビクビクしながら、宮下巡査部長と天宮さんを交互に見る。
「天宮……席を外せ。お前がいたら事情聴取の邪魔だ」
淡々と告げる宮下巡査部長の言葉に天宮さんは口惜しそうな表情を浮かべている。やがて宮下巡査部長に向かって頭を下げると取り調べ室から去っていく。
「ふぅ。悪かったね蓮本君。彼、天宮はまだこの警察署に赴任したばかりで、手柄を取ろうと必死なのさ」
少し疲労を感じさせる笑みを浮かべながら宮下巡査部長は頭を下げてくる。
「いえそんな……」
俺は胸の前に両手を出しながら遠慮がちに言う。まぁ、警察にも色々あるって事だろう。宮下巡査部長は胸の辺りで両手を組みながら俺に目を向ける。その目は先程同様細められていた。
「にしても、君の担任から聞いていた人物像からは大分掛け離れているようだが」
あぁ考えてみればそうか。学校側にある程度俺がどういう人間か聞き込みしてるわな。
「その……俺の性格が全然聞いてたのと違うって事は、学校側に口外されたりしませんよね?」
俺の言葉に宮下巡査部長は、キョトンとした顔になる。
「あ、あぁ。こちらから調べた内容を口外することはあまりない。ましてやこんな事なんの情報にもならないからな」
言われてみればそうだな。
「でも現段階では君が1番怪しいと我々は睨んでいる」
厳かな表情で宮下巡査部長は言う。それは当然だろう。俺の鞄の中から事件で使われたと思う刃物と、現場で強盗したと思われる札束が入っていたのだから。……ん、待てよ?
「なんで俺の鞄の中に刃物と札束が入ってるって分かったんですか?」
そもそもの疑問に俺はようやく辿り着く。俺の鞄の中に刃物と札束が入ってるって知る為には中を見なくてはならない。つまり、俺の事を教師に告げた奴が1番怪しいじゃないか。こんな当たり前の事に今更気付くなんて。相当追い込まれてたんだな。
「さて、そろそろ時間か……。今回は任意同行だからな。また必要があればまた呼ばせてもらうよ」
宮下巡査部長はそう言うと席から立ち上がる。俺もそれに倣って席を立つのだった。




