面倒な事になった
「実は昨日、家の近くのコンビニで強盗事件がありました」
その言葉を聞いて俺の周りの座席から息を呑む音が聞こえる。俺はその話を聞いても何も感じない。正直どうでもいいなと思った。そんなの俺には関係ない。それになんでそんな話を担任である金田はこんな重苦しそうにするんだよ?
「その場に居合わせた被害者の店員、客の目撃証言によると犯人は我が校――鷹明高校の制服を着ていたとの事です」
その言葉に周りがざわめき出す。なるほど、それは確かに教師としては冷や汗物だろう。自分達の高校から犯罪者がいるなんて周りに対して良い印象は抱かれる事は無いだろう。
「なお、犯人は覆面をして顔を隠していたそうですが服装からして男子生徒だという事です」
男子生徒か。まぁ強盗を女子生徒が行うことは無いだろうしな。というか、盗まれた物とか詳しい事説明しろよ。相当テンパってるんだろうな。後退した前髪により広く見えるようになった凸にさっき薄っすらと汗を溜めていたのに、今ではダラダラと滝のように滴っている。
「誰か心当たりがある様でしたら、どんな些細な情報でも構わないのでご協力願います」
そう言って早々に金田に立ち去っていく。いやどれだけ動揺してるんだよ。いつもは無駄話が多いのに、それだけ精神的ショックが大きいって事か。まぁ俺には関係ないや。
俺は、次の授業まで少し時間があったから俺はトイレへと向かう。
「……ふぅ」
俺はトイレに着いて、立ち便器にて用を足す。にしても俺には関係ないけど、どういう心境でやったのかね。考えられる事としては金が単純に欲しかったか。それとも誰かに強要されたか。イジメとかでやらされそうだもんな。後は……、スリルを求めてやる愉快犯かな。日常が退屈すぎるからって理由で、大それた事をやるバカがいるんだよなあ。
退屈とか、どれだけ贅沢な言葉だよ。俺の過ごしてきた小学中学時代は、ある意味退屈とは無縁の日々だった。周りからは時には、暴力を振るわれ、時には言葉という名の暴力で精神を擦り減らされ、時には居ない者として疎外される。そんな毎日を過ごしてきた。
「俺からしたら、退屈な現状にいるアンタ達の方が羨ましいよ……」
俺は少し皮肉交じりに小声で呟く。俺だって普通通りの日常を歩みたかった。誰にも裏切られる事なく。
『いつだって守ってくれるんでしょ? だってそれがゴンの言う』
――ヒーローなんだから。
頭の中に6年前の記憶が呼び起こされる。懐かしいなと思うと同時に俺は嫌な気持ちになる。思い返せばこの時に全てが狂ったのだから、俺は蘇りかけた記憶を必死に押し込んで、洗面所に行き手を洗い教室へと向かう。
「……?」
教室に着いて自席に向かうと担当教師の金田を始め複数の教師生徒が俺の席を囲うように立っている。俺が席の近くまで歩いていくと、金田が俺の元まで歩み寄り腕をガシッと強く掴まれる。
「……反省しなさいっ!!」
そう言いながら、金田は空いている方の手で俺の席を指差す。差された方へ目を向けると俺の鞄が机の上に置かれ、中身が開いていた。
「は?」
自席まで連れて行かれると俺は驚く。だってそこには――刃物と札束が入っていたからだ。
俺はそれを見て一瞬パニックになりかけたが冷静になる。冷静になった上で俺は1言口にする。
「面倒な事になった」と。




