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連載候補短編

スミっこ魔女と魔力ゼロの弟子 ~綺麗で完璧な師匠と結婚したいので、魔法学園を物理的に駆け上がろうと思います~

作者: 日之影ソラ

 むかーし昔。

 おとぎ話になってしまうような遠い過去。

 世界は平和で、ちょっぴり慌ただしかった。

 たくさんの種族が国をつくり、街をつくり、それぞれの文明を築き上げていた。

 共存の道を歩んでいたと思う。

 だけど、人の心というのは制御できなくて、どうしようもなくすれ違うと、争いを引き起こしてしまう。


 きっかけは、二つの種族の行き違いだった。

 友好関係を築いていた種族の子供が、甘酸っぱい恋に落ちてしまったんだ。

 それはとても素晴らしくて、ロマンチックな恋だったはず。

 でも、互いに同じ種族の許嫁がいて、他種族と結婚するなどありえないと、大人たちは二人を認めなかった。

 そんな二人が選んだ道は、駆け落ちだった。

 どこか遠いところまで逃げて、逃げて逃げて、幸せを掴むつもりだったのだろう。

 しかしそんな淡い希望は、大嵐という大自然の気まぐれによって消えてしまう。


 二人の亡骸を見つけた者たちが騒ぎ立てた。

 お前たちが殺したのだと、ありもしない理由をつけて責め合った。

 やがて事は大きくなり、種族同士の戦争にまで発展した。

 小さな火種が、少しだけ大きな火に変わった。

 そうして、世界は少しずつ崩れ始めた。

 今まで溜まってきた苛立ちや不安を爆発させるように、世界中のあちこちで争いが起こった。

 互いの尊厳を守るため、新たな領地を得るため。

 様々な理由で争いは激化していった。


 その渦中に、魔女と呼ばれる一族もいたんだ。

 あらゆる種族の中で最も魔力に愛され、優れた魔法使いの才能を秘めた者たち。

 人間でありながら、千を超える寿命を持ち、様々な文明の発展に貢献してきた立役者でもあった。

 故に、多くの者たちが魔女を恐れた。

 いずれ自らに牙を向くかもしれないと、彼女たちを迫害した。

 共に歩んできた仲間であろうと、友好的だったにも関わらず、争いの渦に巻き込まれて魔女たちは命を落としていく。

 そうして、歴史の闇に呑み込まれていった魔女たちは、数百年たった今でも、世界のどこかでひっそりと暮らしている。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 グレローラの森の奥。

 大きな街や村から離れ、森の中はモンスターも生息している。

 こんな場所へは誰も訪れない。

 でも、緑豊かな景色の中に、ぽつりと一件の家がある。

 その家には……魔女が住んでいた。

 

「さてと! 今日は良い天気だし薬草でも採りに行こうかしら」


 ここが私の暮らす場所で、大陸の最南端にある大きな森。

 私以外の誰も、こんな場所で暮らす人はいない。

 この紫がかった白い髪と桃色の瞳は、この森の景色には似合わないだろう。

 そんな中、私は四百年あまりをこの小さな家で過ごしている。

 そう、四百年。

 私は普通の人間ではない。

 誰よりも魔力に愛された一族の生き残り……魔女ユリアだ。


 薬草の採取に出かけた私は、いつものように森をウロウロしている。

 危険なモンスターも多いけど、最近は襲われない。

 何度も返り討ちにしていると、向こうも私が強いと気づいたらしくて、二度と襲って来なくなった。

 モンスターにとって私は、とても恐ろしくて強い敵なのだろう。

 魔女の中では中の下でも、彼らと比べれば王様と平民くらいの差はあるから。


「あれ?」


 何だろう?

 通り過ぎていったウルフが、何かを口にくわえていた。

 明らかに人の手で作られたカバンのようなものだ。

 ここに人が来ることはないから、気になって近づいてみることに。

 すると――


「おぎゃー」

「え、この声……赤ちゃん?」


 ウルフが加えていたのは肌色のカバン。

 その中には、元気に泣く人間の赤ちゃんが入っていた。

 どうしてこんな場所に?

 とかいろいろ疑問は浮かんだけど、明らかにウルフはその赤ちゃんを食べようとしていた。

 

「ダメよ!」


 そう思ったら、咄嗟に身体が動いていた。

 見ず知らずの、それも人間の赤ちゃんだというのに、私は気付けば助けていたんだ。

 ウルフを追い払い、赤ちゃんを拾い上げる。

 男の子のようで、私が抱きかかえると、じーっとこちらを見てくる。


「ど、どうしよう……」


 助けたは良いけど、この後どうするべきか悩んだ。

 どこの誰の子供かもわからないし、私は魔女だから、人里で目立つことも避けたい。

 かといってまた捨てるのも……


 ニコッと赤ちゃんが笑う。


 その笑顔にキュンとさせられて、もう結論は出ていた。


「よし! 育てよう!」


 無邪気な笑顔には勝てない。

 私はこの子を、大人になるまで育てることに決めた。

 子育てなんてしたことはない私だけど、たくさんの本を読んでいて、知識だけは豊富に持っていた。

 それらをフル活用しながら頑張って育てる。


「そうね。名前は……シオン!」


 子供につけた名前は、偶々読んでハマっていた小説の主人公の名前にした。

 本人が名付け理由を知ったなら、怒られてしまうかもしてないけど、人の名前を決めるなんてしたこともないし、仕方がないと自分で言い訳をしている。


 時は流れ、シオンは三歳になった。

 言葉も話せるようになって、自分の脚で歩くことも出来る。

 子供の成長の速さに感心させられながら、一つ悩み事が出てきた。

 それは……


「お母さん!」

「ぅ……何かしら?」


 お母さんと呼ばれるむず痒さだ。

 私は君の本当の親じゃないとか、そもそも人間じゃないよとか。

 いろんな理由は浮かぶけど、一番は恥ずかしいから。


「ぼくもまほうちゅかいになりたい!」

「魔法使いに?」

「うん! お母さんみたいになりたいの」


 キラキラと目を輝かせてそう言ったシオンに、私の胸がきゅんきゅんする。

 なんて可愛いのかしら。

 子供ってこんなにも愛らしい生き物だったのね。


「いいわよ。じゃあシオンは今日から私の弟子ね」

「でし?」

「そうよ。私のことは師匠と呼んでもいいのよ」

「ししょー?」


 好きだった小説の影響で、弟子を持つことに多少の憧れを持っていた私は、その気持ちも混ぜ込んで、シオンに魔法を教えることにした。

 でも、すぐに違和感に気付かされる。


 シオンには魔力がなかった。

 少ないとかじゃなくて、一切なかった。

 

 拾った時は単に赤ちゃんだからだと思ったけど、三歳を超えても魔力をまったく感じないのは不自然だ。

 その理由は彼の持つスキルの影響みたいだけど、これでは魔法使いにはなれない。


「ししょー! ぼくもはやくまほうが使いたい」

「そ、そうね。でもまずは身体をしっかり鍛えましょう」


 無邪気なこの子にそんな真実は重すぎる。

 私は真実をはぐらかしながら、彼を少しずつ魔法から遠ざけようとした。

 それでも彼は直向きに努力して、適当に言った身体を鍛えようのセリフを信じ、毎日毎日頑張っていた。


 さらに時は流れ。

 シオンが十歳になる。

 

「師匠! イノシシを狩ってきました」

「え? 一人で行ってきたの?」

「はい。薬草採取の途中で見かけました。家の近くにいたので」

「そ、そう……」


 シオンはみるみる成長していた。

 依然として魔力はない。

 しかし、身体が大きくなるにつれ、身体能力は爆発的に向上していた。

 今では大きな岩も一人で持ち上げられるし、イノシシも素手で倒せるほど。


「凄いわね、シオンは」

「そんなことありません。これも全て師匠のお陰ですから」

「私は何もしてないわよ。あなたが頑張ったからよ」

「いえまだまだです。いつかもっと強くなって、師匠に相応しい男になってみせますから!」


 この時くらいからだったと思う。

 シオンが私に育ての親としてではなく、一人の女性として好意を抱き始めたのは。

 最初は私もビックリしたけど、子供のことだから一時的だと思っていた。

 どうしたら結婚してくれるか?

 なんて聞かれた時は、一人でドラゴンを倒せるようになったら。

 とか答えたりもして、あまり本気にはしていなかった。


 でも……

 

「師匠! 大蛇がいたので狩ってきました」

「そ、そう? 大きいわね」


 シオンは年を重ねるごとに成長していった。

 十メートルを超える大蛇を軽くあしらったり、森の端から端までを毎日往復したり。

 さらには森の中に隠されていた破壊兵器を、知らない間に壊していたりとか。

 

「そんなに頑張らなくてもいいのよ?」

「いえいえ! この程度は序の口です。師匠のような最高に美しい女性と結婚するために、俺はまだ強くならなくてはいけませんから」


 もう十分に強くなってるわ……

 口調も大人びてきて、紳士的な振る舞いも覚えだした。

 肉体の成長の影響から、十三歳の頃には私より背が伸びていて。

 十五になる今では、背伸びしないと頭に手が届かない高身長になっていた。

 加えて誰もが見惚れるくらいのイケメンになって……

 毎日のように浴びせられる愛の言葉に、正直私は気が気じゃなかったわ。


 そして――


「う……嘘でしょ」


 シオンがドラゴンを倒して帰ってきた。


「師匠、お待たせしました」

「ほ、ホントに倒してきたの?」

「はい! さすがに手こずりましたが、思いっきり殴ったら倒せましたよ」


 い、いやいやいや!

 ドラゴンを殴りで倒すなんて聞いたことないわよ?


「これでようやく師匠にプロポーズできます」

「ちょ、ちょっと待って!」

「師匠?」


 ど、どうしよう。

 ノリで言ったようなことだったのに、この年になるまで本気で頑張るなんて。

 まさかと思っていたけど、本当に倒してくるなんて。

 いろいろ予想外過ぎて頭がおいついてないわ。

 プロポーズ?

 今からされるの?

 赤ちゃんから育てたシオンに愛の告白を……こ、心の準備とかそういう問題じゃないわね。


 何とかして誤魔化そう。

 私の頭の中はパニック状態で、それしか考えていなかった。


 そうだわ!


「まだ駄目よ!」

「えっ……」

「私と結婚したいなら、ドラゴンを倒した程度じゃ足りないわ。そうね? この世で一番の魔法使いになるくらいじゃないと」

「……」


 これで諦めてくれるかしら?

 シオンは良い子だし、とても優しくて格好良い。

 でも、私は魔女でこの子は人間の男の子だから。

 他の女の子を見つけて結婚したほうが幸せになれるわ。

 それにシオンも、自分に魔力がないことはもう知っている。

 魔法使いにはなれないと――


「わかりました! 俺頑張ります!」

「え?」

「師匠と結婚するためなら、魔法使いの頂点にだってなってみせますよ!」


 え、えぇ……


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― 新着の感想 ―
[一言] マジで面白い!師匠への恋の続きがみたい!連載是非お願いします!
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