82.弟君との妹ですが、どうしよう。
「ああ、こぼれてちゃう!
入って!
入っちゃった!」
私が言語崩壊と興奮を伴った言葉。
ぐいーんと、手が動き、ガッツリつかんだあと穴に向けて動く。
途中、あがなうように身震いをし、嫌がる女の子のように穴に入らないよう抵抗。
しかし、ポトンと落ちた景品はバウンドし、穴の中へ。
「誠一さん、結構、上手ですよね」
私はユーフォーキャッチャーから犬のヌイグルミを取りだし抱きつく。
一番最初のデートの時も兎のヌイグルミをとって貰っている。
今、その子は姉ぇの部屋……もとい、姉妹の部屋に飾られている。
「僕も意外な才能だと思ってる。
まあ、クレーンゲームのアームって設定した金額にたっするまで弱いらしいけど」
「だから、最後アームからこぼれたんですね……」
「なお、大阪の方だと掴めもしないことがあるらしい」
「……それってどうなんですかね?」
そんな話をしながら、袋を貰い出ていく。
なお、袋代有料のご時世ながら、ゲームセンターは未だに無料で袋を貰えた。
さておき、
「やっぱり河原町は人が多いですね」
今は四条河原町。
つまり、繁華街まで戻って来たわけだが、夏休みということも有り人が多い。
「何だかんだここ自体が観光スポットだったり、バスのアクセスが多いからなあ……」
鴨川、店から延びた川床にも人が大勢。
なお、流石に夏の日中に川縁に座ろうなんて考えるカップルは少ないようだ。
太陽に嫉妬されて焦がされてしまう。
先ほどまで、私たちも逃げるようにゲームセンターで涼んでいたわけだし、盆地の夏は暑い。
「あれ、初姉さん?」
「あ、ほんと、はつねーさんだー、こんにちはー。
かみきったんです?」
アーケードの中、見れば良く知っている小学生が二名。
日野弟君と舌足らずなのが可愛い女の子だ。
「こんにちは。
気分転換で、切りましたよー。
二人はデート?」
「違います、買い物に付き合って欲しいと言われて」
そう言うと女の子の表情が少し固まりながら、次には笑みになり、
「あれ、はつねーさんはこのひととでーとです?」
問うてくる。
「そうですよー、私の彼氏さんですよー」
「へ……」
私が惚気ると今度は日野弟君が固まりながら、目線だけ誠一さんに向ける。
「……ん、日野に似てるけど。
あれ、会ったことあるな」
「え、あ、士堂さん?
メガネが無くて……」
「ああ、やっぱり日野の弟か、お久しぶり」
と、誠一さんが嬉しそうに笑う。
「……お兄ちゃんが、士堂さんが狂ったとか発狂してた理由がこれですか」
「うーん、あいつは一度、きっちり話さないとダメか。
燦は僕のモノだと見せつけたつもりだが」
「ははは……」
日野弟君が笑いながら、
「初姉さん……燦さんのお姉さんも士堂さんのことが好きだったんですよね」
「そうだ」
「……なんで、初姉ー……燦さんを選んだんですか?」
「……」
誠一さんが問われ、答えに迷っている。
正直に二股と答えられないからか、私を選んだ理由が誤魔化せないのか、それとも両方か。
ふむ、っと誠一さんは大きく頷くと、
「逆に聞く。
何で君は燦が好きなんだ?」
「ふえ?」
私としても寝耳に水だった。
好意を向けられているのは知っていたか、恋愛とはついぞ思って見なかったからだ。
そして弟君を見れば、
「え、あ、はい、えっと……」
言葉にならない音が弟君から漏れる。
顔を真っ赤にし、答えを述べてくれていた。
突然の問いに、言葉が出てこないように見える。
「きちく?」
「エス気があるのは確からしい。
とはいえ、引きずるのもダメかなと」
「たしかにー」
笑顔な女の子に問われ、そうマジメガネぶりを発揮する。
「士堂さん、酷くないですか……人の気持ちをばらすなんて……」
「思いやりだと思うが?
初音……姉の方から聞いてたしな。
日野と違って君は高評価で、僕が嫉妬を覚えるぐらいにはな?」
「お兄ちゃんが、士堂さんが狂ったとか言うわけですよ……」
「あいつに言われたくない」
「それは……まぁ……」
弟君が目尻に涙を浮かべながら、誠一さんを睨み付けてから、私を観る。
そして一呼吸を入れて、
「本当ならちゃんと言いたかったんですけど……。
……初音・燦さん、好きなんです。
異性として」
悔しそうに、そして絞り出すように言う。
「気持ちはありがとう。
嬉しい。
うん、これは聞いて確かに思った。
でもね、私、誠一さんのモノなんです。
私が好きな気持ちはどうしても、どうにもならないから……うん」
たぶん、私の顔は女になっている。
少年に見せるようなモノではなく、頬は赤いし、眼は潤んでいるだろう。
誠一さんのモノだと言った瞬間など、性欲の炎が揺れた。
ただ、真剣な少年に、真剣にこれが私だと伝えたかった。
姉から彼氏を半分奪い取るビッチな私も私だ。
だから、良い。
それが礼儀だ。
「……うぁ……」
弟君が顔を伏せ、地面を雫が濡らし始める。
「くっ……、ごめん、ちょっと……走ってくる……!
後で携帯に連絡するから!」
「あ!」
そして女の子を置いて、走り出してしまう。
私が追おうかと悩むと、誠一さんの手が私の手を握る。
「ダメだ、燦。
君が追うのは彼にとっては追い打ちにしかならない」
「でも……あっ」
女の子もそれを追おうとするが、こけてしまう。
流石にと、誠一さんと私が彼女の元に駆け寄り、
「大丈夫?」
「はい、だいじょうぶですー。
おいかけなきゃ……ちゃんすが……!」
そして、彼女は自分で立ち上がると、弟君の背中を再び追いかけ始めようとするが……もう、その背中は雑踏に紛れてしまっていた。
「あぁ……」
っと、声を漏らすと、泣き出してしまった。
周りからどうしたのかと目線を集める。
「……とりあえず、移動しようか」
「そうですね」
星的なチェーンの喫茶店にとりあえず、腰を押し付けて、
「つまり、彼のことが好きなんだ」
「……はい。
いつもいつもわたしのことみてもらってて、ずっとみてほしくて……」
話を終えると、彼女も落ち着きを取り戻していた。
幸い、こけた時に怪我は無かった。
私達はコーヒー、彼女にはメロンソーダを前にしているが、一口も手を付けられていない。
「何というか、タイミングが悪かったみたいで……」
「いえ、かれが、はつねーさんのことを、すき、なのはわかってたから……よかったんです。
じぶんがおいかけられなかったのがくやしくて……」
あぁ、成程。
彼女も弟君よりも年下なのにちゃんとした女の子なのだ。
微笑ましく感じる。
「ありがとうございます、はつねーさん、デートちゅうなのに……」
「いえいえ」
そう言っていると、彼女の携帯が鳴った。
あわてて取り出し、
「はい……ぇ、あ、はなしをきいてもらってる?
だ、だれに? いま、どこ?
さんじょうのかわぞい?
いく、いくからまってて!」
何だか、慌てた様子で言葉が聞き取れない。
そして切ったと思ったら、
「ごめんなさい、はつねーさん、しどーさん、いきます!」
「頑張ってね?
今度はこけないように」
「はい!」
そして小さい姿は店の外へと駆けていった。





