80.朝御飯な妹だけど、どうしよう。
「初めてのデートのように緊張するよ……」
深呼吸。
すぅ、はぁ、すぅ、はぁ……。
それでも心臓のドキドキは止まらない。
幾度かと誠一さんと、遊びに行ったことはあるのに、意識しすぎな気がする。
京都駅前。
目の前にそびたつは京都タワー。
既に来てから十五分の間で幾度か、外人や男の人に声を掛けられながら、待ち人だ。
家から一緒に出ればと言う話をしたが、それはデートではないと主張する姉と誠一さんのコンビに阻まれた。
今日はなるべくギリギリに来て欲しいと言われた待ち合いの時間は九時二十分。
実は早く来すぎてあと三十分ある。
待ってる時間を楽しみたかったのだ。
「彼女一人?
観光?
どう、一緒にまわらない?」
「人待ちなんで」
また、待ち人ではない。
祭りでの姉ぇを思い返しながら、冷静に対応していくが、
「可愛いからさー、その人くるまででいいから、そこのスタバで話さない?
おごるよ」
今回のはしつこい。
とはいえ、私が美少女だから仕方ない、と思えるようになったのは傲慢か成長か。
言い寄られること自体は悪い気分ではない。
「僕の連れに何かようか?」
ふと、よく知った声。
振り向けば眼鏡を外した誠一さんだ。
半袖のチノパンスタイルという形で、綺麗に、そしてかっこよく纏まっている。
黒い手持ち鞄も大人っぽい。
「待たせた」
「いいえ、私が早く来すぎたんです」
誠一さんの後ろへ回ると、彼は隠すようにしてくれる。
「……ちっ」
格の違いを感じたナンパ男は毒づきながら去っていく。
「すまない、ちょっと初音を送っててな。
この前のリク氏と会うとかで舞鶴行きだ」
「なら、仕方ないですね」
一番は姉ぇ、こればかりはと理性では理解している。
とはいえ、嫉妬が沸くのは勘弁してもらおう。
きゅっ、と誠一さんの手を握らせて貰い、
「今日、これから終わるまで燦を一番に扱うから、それで頼む」
「……あ」
強く握り返される。
ズルい。
私の嫉妬が雪のように溶けてしまい、頬が熱を持ち、心臓が高鳴る。
「燦、今日は大人っぽいな」
追い討ちが来た。
ズルい。
「髪の毛を切ってからよくなったが、特に今日はいいな。
ミニリボンで燦らしい元気らしさを残しつつ、白長袖ブラウスと茶色チェックスカートでシンプルに大人らしさも……すまない、長すぎたな」
「いえ!
誠一さんにハジをかかさないよう、頑張りましたので!
気合いいれてきました!」
鼻息荒く、誠一さんに主張する。
攻めすぎかと思うが、好意を見せるのに躊躇するな攻めろとは前々からの姉ぇのアドバイスだ。
これもあって今がある。
「嬉しいな」
顔を綻ばしながら、私を引き寄せてハグしてくれる。
「誠一さん、朝から大胆ですよ?」
「いやか?」
「いいえ♥️」
しばらく、お互いに体温を楽しみ離れる。
誠一さんからほのかに漂う香水と体臭の匂いに脳が蕩けそうになっている私を戻していると、
「きゅー」
お腹が鳴ってしまった。
顔が真っ赤になる。
「僕もお腹が減ったから先ずは朝御飯に行こうか。
僕の我が儘で朝御飯抜いてもらってるし」
誠一さんが笑みを浮かべながら、そう優しい声をかけてくれた。
そしてバスに揺られて、三十分、蹴上駅付近で下車をする。
「ここだ」
そこから北西へ坂を下るようにゆっくり歩くと目的地についたらしい。
……厳かな建物で、前には瓢箪が書かれた暖簾が掛けられている。
「……誠一さん、私、ここテレビか何かで見たような気がするんですけど。
ミシュランとか……」
「本館だろうな、それは」
暖簾をくぐり誠一さんが名字を言うと、すぐ窓側の席へと案内してくれる。
外を見れば青々しい葉が夏を満喫している姿が楽しめる。
逆に、
「……中を観ると場違い勘が、半端ないです」
内装はまだ判る。
和様式なテーブルが並んでおり、綺麗に纏まっている。
問題は食べている人達も何処か落ち着いた感じや高そうなものを身に付けてたり感じるのだ。
「燦は食べるの好きだろ?
美味しい朝御飯を一緒に食べに来たかったんだ」
「そうですか……」
っと、誠一さんが安心させようとニコニコするが、私は緊張が抜けない。
「まあ、燦は鳳凰寺さんの所でも緊張してたみたいだし、こういう場に馴れる経験をして貰おうかというのは一つある。
意地悪みたいでごめんな?」
「……その発言が意地悪です。
誠一さん、結構、エス気ありますよね」
「かもな」
とはいえ、と彼は続ける。
「普通にしてれば大丈夫。
本館と違うし観光客も多い。
気負いは自分自身が産み出してる幻想だ。
それに気づいてくれたら僕の目標は達成だ」
丁寧に真剣な眼で説得してくれた誠一さんが微笑む。
「それなら……」
そして改めて周りを見渡すと確かに、市内住みの私たちより鞄が大きい人が多数だ。
外人の方も居て、スマホで写してもいる。
「確かに、誠一さんが言われてる通りですね。
気が楽になりました、はい」
「だろ?」
余裕が出てきて、笑みを自然に浮かべられる。
そして、手元の湯飲みをゴクリと。
梅昆布茶だ。
小梅が入っている。
昆布の旨味と梅の甘酸っぱさが、口内に広がり、お腹が目覚めていく。
「あ、可愛い瓢箪型だ……」
運ばれてきたのはふっくらとした形が可愛い瓢箪型の三段重と平皿、そしてお吸い物。
平皿にはだし巻き、鯛の押し寿司、甘露煮、半熟な茹で卵。
ワクワクしながら三段重を開けていけば、景色のように整えられた中身がこんにちわ。
上から……うーん、なんだろうと悩んでいると、
「ずいきの胡麻合え、もずく酢と鱧、一番下の炊き合わせは……茄子、鱈子、インゲン、生麩、湯葉かな」
誠一さんが答えてくれる。
「よく判りますね。
流石です」
「家で食べず色々回ってたからな……さて、食べようか」
「いただきます……!」
ずいきからだ。
胡麻が引き立ちつつ、ずいきの繊細な香りと味を殺さず、引き立てている。
いきなりジャブではなく会心を喰らいながら次へと。
全体的に柚子、そして出汁を微かに利かせて素材の味を引き立てている。
作り置きが多く暖かい内容ではないが、一つ一つが口の中でハーモニーを奏でる。
そして茹で卵がスゴい。
黄身は火が通っていないのではないかと思うほどトロトロ、白身も口の中で溶けてしまった。
こんなの初めてで、美味しくて幸せである。
「燦は本当に美味しそうに食べるな」
言われ、気づけばニコニコと誠一さんが観ていた。
食べるのに夢中なことに気づき、恥ずかしいと感情が涌き出、
「僕も元気が出るよ」
……る前に、そう誉めてくれた。
とはいえ、
「……よく食べる女の子ってどうです?」
おずおずと聞いてみる。
「いいとおもう。
食べすぎはどうかと思うが、食べてた方が安心する。
医食同源だしな?」
「……えへへっ」
そしてお粥がくる。
出汁のきいた餡と漬け物もセットで、これもとても美味しかった。
「冬は鶉がゆだし、また来ようか」
「はい!」
なお、後日、お値段を見て驚くことになるが、それはまた別の話。
ごちそうさまでした。





