69.妹を散髪ですが、なにか?
金曜日、夏休み開始となる日の午後。
私も燦ちゃんも午前様で一旦、家で落ち合わせたところだ。
パパママは居ない。
しどー君はと言うと、明日の祭りの為に居残りだ。
委員長達と何やら立て込んだ話をしていたので、先に帰れと言われてしまった。
そんな流れだ。
部屋にある妹の日常品をカバンに詰め終えた所で、
「姉ぇ、髪を整えて?」
っと、妹からお願い事をされた。
「いいけど、どうして?」
「髪の毛カッターで切られたから……」
言われ見れば、私と一緒で胸元まであった髪の毛の一部が肩までに短くなっている。
……ちょっと、待て。
「誰にやられた!
ぶっ殺してやる!」
「水曜日の真犯人だよ」
「あぁ……今度会ったら、許さん」
会うことも無いかもしれないと、落ち着きを取り戻す。
結局、しどー君から聞いた話では退学あるいは休学になる見込みだという事だ。
精神的に安定してもおらず、対応が夏休みの間に検討されるらしい。
「もういっそ、肩まで切ろうかと」
「勿体ないけどいいの?
私も相当苦労したけど、ここまで伸ばすの」
胸元まである私の毛を弄る。
「姉ぇみたいに伸ばすのはもういいかなって。
長いと大変だし。
それに誠一さんのモノになれたから、区切りもいいし」
「成程……ならやってしまいますか」
私達の部屋からヘアカットの一式を持ってきて、浴場にビニールを広げて準備を終える。
妹の髪を切るのは久しぶりだ。
私達にしてくれたパパの真似をして切り始めたのが最初の記憶だ。
「切られたところに合わせる感じ……肩下でいいわね?」
「うん、お願い、姉ぇ」
最近はちゃんとしているのかボサボサで長かった妹の髪が艶を持っている。
「切るよ、切るわよ!」
「早くしなよ、姉ぇ」
勿体ないお化けが心に出てきたので、私の方が緊張してしまう。
――深呼吸。
そして、ジョキリと切る。
パサッと少なくない量の天然茶髪が落ちる。
私ももう後戻りできないと覚悟が決まり、調子が出てくる。
「しかしあれね、久しぶりね」
「そういえばそうだね、姉ぇ」
「姉妹仲が拗れてからやってなかったし、その間はどうしてたの?
パパにやってもらったの?」
「そうだよ」
この前まで手入れのされていない長い髪はみっともないったら無かった訳だが、致し方なかったのかもしれない。
「全く、しどー君のおかげだわ……」
「ん?」
「姉妹仲が戻ったことよ。
それにこれからは棒姉妹よねー。
ちゃんとしてかないと大変だし、頑張ろうね、燦ちゃん」
「……うん」
沈黙してしまう私達。
ちょっとこそばゆい。
「そう言えば、日野君どうなった?
嫌がらせとかしてこない?」
「日野さんは壊れちゃったよ……」
「へ?」
事の顛末を聞いた私は一旦、ハサミを止めて大爆笑してしまった。
バンバンバン、ヒィヒィと床を叩いてからようやく落ち着く。
「間違いなくやべー奴ね、日野君。
くくく、あははは。
燦ちゃんの惚気を聞いて興奮するとか……」
「まぁ、害はないかなと」
「私の勘もそう思う。
性癖が壊れたオジサンに似たようなの居たわ。
私の客じゃなかったけど、彼氏持ちの人から話を聞くのが興奮するって人でね。
覗き見趣味というか何というか……」
「うわ……」
私が初めて聞いた時と同じように引く妹。
「日野君の件はきっと時間が解決するわ。
あるいは女を宛がえば治るかもしれないので、念頭に入れておこう。
くふふ。
こんな妹より、お似合いな子が居るわよ、きっと」
「こんなって……」
「姉の彼氏に横恋慕して、二股を決意させる女が何を言ってるんだか。
私なんかよりよっぽどビッチよ。
人前で淫乱ぶりを発揮できるし……」
「えへへ♪」
「褒めてないんだけど?」
頬を赤らめて嬉しそうにする妹にゲンナリしておく。
どうしてこんな妹になってしまったのだろうか。
正直、私が経験してきた性癖が異常なオジサン達と比べてもそん色ない気がしてきている。
痴漢が悪いとはいえ、何ともである。
「よし、出来☆」
手鏡とメガネを渡す。
胸元から肩下までと定規で見れば短いが、それだけでも結構さっぱりした感じが出る。
ちょっと内巻きにし、可愛い感じを演出する。
最近、私よりも若干顔や体の作りがデブ……丸い……愛らしいね、うん、愛らしいのでこっちの方が良いだろう。
「後ろで留めるのもやってみてよ、姉ぇ」
「りょ」
言われ、やってみる。
ちょっと髪の毛だけで留めるには量が足りないのでヘアピンを使うが、これはこれで可愛らしい感じが出る。
何というか、私と似た顔な訳だが印象は全然違う。
「割と巻かずにストレートで落として、眼鏡で智的さを演出しても良いかもしれないかなー」
妹の髪で遊び始める私達。
さてさて、髪の毛を洗い終えて乾かしている間に、パパママ用に晩御飯を作って置く。
そして書置きをする。
『夏休みの間、妹は頂いた、姉より。
代わりに冷蔵庫に晩御飯や作り置きを入れておいた!』
よし、これでいいだろう。
流石に放任主義とはいえ、心配するのは判っている。
丁度、そのタイミングでしどー君からメッセージが携帯に来た。
終わったらしいので園部で落ち合う形で話を進める。
「姉ぇ、結局、髪型をこうしたけど変じゃない?」
夕闇に染まっていく園部駅、しどー君が乗っている電車が見えたタイミングで妹は心配そうに言う。
「心配しなくても大丈夫よ。
可愛いから。
それにしどー君はちゃんと観てくれる人だから」
「うん、そうだね」
電車の扉が開き、そしてしどー君を見つけて駆け寄る私達。
「誠一さん、どうですか?」
驚きを見せたしどー君に妹はオズオズと問う。
「何というか、前までは初音に似せようとしつつ、オリジナルティを出そうとしてたんだろうけど、今回は短くして後ろをベージュのリボンで留めるのは愛らしさが出てる。
眼鏡をしたままなのもムリをしている感じが無いし、知的な感じが出てる」
「長い、短く」
「燦らしくて大変良い」
私が突っ込むと、しどー君はそう言いながら妹の頭を撫でる。
「わふっ。
髪型崩れちゃいますよ……えへへ」
文句を言いながら嬉しそうにする妹は愛くるしい犬のように本当に可愛いかった。
恋する乙女とは本当に魅力的なのだ。
第三章完!
l´・ω・`)燦ちゃんの青春はいかがでしたでしょうか?
l´・ω・`)次からおまけ挟みつつ夏休み編です。
l´・ω・`)やらしくおねがいします!





