54.兄弟との妹だけど、どうしよう……
「あれ、初姉さん?」
言われ、私は前を向く。
電車の中、席が空いていないなと一巡した際に、目線が合った少年にそう言われた。
見知った顔の男の子で、小学生のボランティアでよく助けてくれる子だ。
「こんばんは、今、帰りかな?」
「はい!」
この子相手には流石に男性恐怖症が出ない。
明らかに小さく、敵意が無いとそう安心しているからだろう。
「初音さん?」
「……あ、ストーカーさん」
ポロリと零れてしまい、手を塞ぐが遅い。
少年がその彼に向け、冷たい目線を向けている。
「……日野さんでしたよね」
「覚えてくれたのか、ありがとう」
ニコリと整った顔が嬉しそうにしてくれる。
いやまぁ、流石に覚えますとも。
何度も、クラスに突撃されたら。
「ストーカーってお兄ちゃん……」
「お兄ちゃん?」
「はい、このストーカーはお兄ちゃんです」
「弟よ、ストーカー連呼はやめてくれ。
周りの視線が痛い」
あぁ、確かに、少年も日野君だったと納得しながら、ボケと突っ込みを眺めている私が居る。
「あれ、初姉ぇさんは?
帰りは一緒じゃないの?」
「ん……姉ぇ?」
さっきまでは居たけどと、言いそうになり口を紡ぐ。
流石に同棲相手の元に住んでいるとかは言えない。
「ネカフェで今日は過ごすんだって」
「へー、大人ですね!」
少年の純粋な目を観ると、罪悪感が沸くが仕方ない。
「あれ、もしかして姉ぇに会った?」
「はい、豚まんごちそうになりました!」
「なるほど、だからか……」
手元のエビシュウマイと豚まんの入っている袋を観る。
姉ぇなら基本は朝御飯も豚まんにすると買うし、誠一さんにも当然買っていくだろう。
この一個というのは少年にあげた残りで微妙な数だったのだろう。
とはいえ、ママがエビシュウマイ好きなのは確かだ。
「お兄ちゃんもごちそうになりました!」
「……どんな風の吹き回しだろ」
このタイプの人嫌いな筈なんだけど、という言葉は流石に飲み込む。
挑発し、何かあったら怖い。
「ぇっと、僕がお兄ちゃんのことを気遣ったら、くれました。
お兄ちゃんのことを気にしてたら僕がちゃんと美味しく食べれないって」
「それは姉ぇらしい……」
「カッコいいですね!」
うん、それは確かにそう思う。
あの姉、そういう所はキチンと気配りできる。
やはり経験値の差なのだろうかと思う。
「はぁ……」
ため息が出てしまった後に、自己嫌悪。
誠一さんに自信を持てと言われているのに、すぐこれだ。
いけないいけない……。
「……初姉さん、憂鬱?」
「姉が出来る人で、どうしても比べてしまうんですよね」
「……比べても仕方ないと思います。
比べたら、お兄ちゃんはサッカー以外はからっきしですし」
「何をー!
うりうりー!」
「やめてーやめてー」
二人で遊んでいる様子を観て、微笑ましくなって笑みが沸いてしまう。
兄弟仲が良いと、昔の私と姉ぇを思い出してしまう。
「人にはそれぞれ良い所があるんだとか」
少年は兄から解放されてそう笑顔で纏めてくれる。
「……確かに」
ふと救われたような気がする。
小さな男でもそう思えることだ、それは少し大人な私も思えることだろう、と感じたからだ。
「そういえば、初音さんは何処の駅?」
ふと日野さんがそう質問してくるので身構えてしまう。
「お兄ちゃんデリカシー無い」
「これぐらい普通の会話じゃないか……」
と、弟君がそう突っ込んでいるので、悪い感じはしない。
深呼吸して、話題だ、話題……と自分を納得させる。
「園部です。
そこからバスですが」
「園部……、結構遠いんだな。
ウチは亀岡だ」
「最近、引っ越したんです。
市内は狭いと」
よく聞く話だ。
亀岡は再開発が進んでおり、段々とベッドタウンとしての様相をしてきている。
「一人部屋になれて、ようやくお兄ちゃんと違う部屋になれました!」
「寂しいって、寝に来る癖に」
「お兄ちゃん嫌い……。
初姉さんの前で言うなんて……」
「私も姉と一緒に中学に入る迄は寝てたから大丈夫」
そう言うと、涙目になりそうだった少年が晴れやかな笑顔になってくれる。
女性の前では強く見せたいものだと、男性の事を姉ぇが言っていた気がする。
「誠一さんはどうなんだろ」
ポロリと漏れる言葉。
「……好きな人?」
真剣な弟君にそう言われ、
「うん」
そう端的に応える。
「……あの初姉ぇさんも好きな人なんですよね?」
「……うん」
誤魔化そうか悩むが、正直に応えていた。
姉ぇと会っていたのなら隠してもいないだろうと考えたからだ。
「……手玉に取られたが、それに好かれる人ってどんな奴なんだ……」
「前も言った通りの人ですよ。
カッコいいですよ?
心が」
抽象的な答えに戸惑いを見せる日野さん。
私としても言葉にしづらいのは確かだ。
恋は理屈では無いと良く言ったものだ。
「……ちなみに日野君は私のどんなところが好きになったんですか?」
そういえば、振るだけ振って聞いてなかった気がする。
振った相手に追い打ちかなっと思ったが、聞いてみる。
「ぇっとだな。
決め手は物事に真摯に取り組んでいることが奇麗だと思ったからだ。
いつも生徒会活動を黙々としてるじゃん?
生徒たちに無視されたり嫌がれることも率先して諦めずにやっている姿を観て、眼を引かれるようになった。
そんな中、弟から初音さんのことを聞くようになったり、サッカーの応援で生徒会活動で皆にパンフを配ったり……。
転んでチラシを飛ばされたり、他にも危うい所も真面目になりすぎているからだろうなぁって、そんな所がいいなって。
そんな君をフォローするのも楽しそうだと思ったし、俺もあまり出来がいい方ではないからさ、フォローし合えればなとも思えたわけだ。
最近、奇麗にするようになって噂が立ち始めて、あ、これはマズいと勇んで告白するに至って……って、俺だけがマシンガントークして良く判らないな、ごめん」
話の分かりやすさとしてはともかく、熱意が伝わってきて嬉しくなる。
理由としても通っており、聞かずに彼を振った私に罪悪感を覚えてしまう。
「いいえ、ありがとうございます。
私もちゃんと聞けばよかったです。
不誠実だったことは謝罪します」
「ぇっと、それなら付き合って」
「それは別です。
私は好きな人が居るんです。
もし、私は誠一さんに会う前に告白を受けていたら判らなかったかもしれませんが」
ピシャリと切る。
「うーん……悔しい。
君にそこまで言わせる人物にも興味が沸くが」
「……誠一さんはホモじゃないですよ」
目を丸くする彼。
とはいえ、冗談だと理解してくれたのか、笑みを浮かべてくれる。
『亀岡、亀岡』
「ぉ、駅着いたか、そんじゃ、学校で」
っと、日野君が下りようとすると、弟君は私を観たまま立ち止まったままで、
「大丈夫か?」
「あ、はい、初音さん、また今度!」
そう兄に急かされるように降りていった。
「……うん、話してみたら、そんなに悪い人では無いかも」
誰に言うでも無く、電車の中で一人、零す。
最初こそ、戸惑いはあったし、住所を聞かれた時は緊張したが、何というか好意を向けてくれているのが判り、気が楽になった感じがある。
あと、無理に積極的になってる感じがあって元来は悪い人ではなさそうだし、どこか抜けている感じも身構えることを止めれた。
弟君が居たのも大きいかもしれないが、結論、普通に話せた。
「……うん、大丈夫かな」
誠一さんに言われた、男性恐怖症回復への一歩目が進めた気がして、少し嬉しくなった。





