50.妹に惚れた二人ですが、なにか?
私は551の豚まんをたまに食べたくなる。
強い豚の匂いだが、これがまた食欲をそそり、口に入れるとじゅわーっとした肉のうまみが広がる。
そしてそれを支える白い部分の美味しさよ。
これは関西圏の人なら半分はお分かりいただけると思うし、新幹線の中で食べることに物議を醸し出す程に全国圏だ。
なお、京都駅には二か所あり、食べたくなったらとりあえず来る。
列は並ぶが回転が速い為、そこまで待たないのも良い。
今日はしどー君が妹と家で話したいとか言っていたので、丁度良かった。
「初音さん?」
「はい?」
列を並んでいる所に名前を呼ばれ、私が振り向くと知らない人だ。
妹の学校制服を身にまとっている男子生徒。
とはいえ、夏は半袖なのでウチの高校との違いはズボンしか無い。
そのズボンも両方とも黒色だし、ポケットの付け方ぐらいしか違わない。
「……どちら様で?」
とりあえず、問う。
同年代に援助交際したことないのだ、私は。
「えっと?」
整っている顔が戸惑いに歪む。
そんな彼の様子を観て、ニヤニヤと意地悪い笑みを浮かべてしまう私が居る。
基本的に男性をからかうのが好きなのは性分だ。
浮気は絶対しないが。
とはいえ、列が進むので前へ。
「あ、豚マン四つ、エビシュウマイ六個入り一つ」
会計をすませると待ち伏せてたかのように、彼が立ちはだかる。
「ぇっと、君は」
「先ずは自分から名乗りなさいよ」
礼儀が成ってないと、言葉に力を籠めながら言ってやる。
「ぇっと……俺は、日野・満って言うんだけど。
この前、告白した……」
「知らない人ね」
一応、名前から元・援助交際リストの名前に照らし合わせる。
苗字から考えれば親類者にも居ないだろう。
後、告白された覚えも無い。
妹のことだろう。
「もういい?
私は豚まんを食べたいの。
ナンパはお断りよ」
昔の私ならお茶でも奢らせるかと考えたかもしれないが、今はアツアツの豚まんの方が魅力的だ。
京都駅の上層部屋外で座って食べるのも乙なのだ。
この魅力にはしどー君以外は勝てない。
「ぇっと……君は?
初音さんじゃないのか?
名乗ったから、誰か教えてくれてもいいだろ?」
「名乗る必要も無いわよ」
っと立ち去ろうとするが、前を塞がれる。
メンドクサイ。
痴漢か何かに仕立て上げようかとも思うが、妹に不利益が行く可能性を考えると、その選択肢は消えた。
「初音よ、初音。
多分、あんたの知っている初音の姉だと思うわよ」
「ぇ……ぁっ」
「制服見て他人じゃないかと、それぐらいは判断しなさいな。
もういいわね?」
狼狽える彼を置き去りにしようと行こうとするが、
「待ってくれ!」
「やだ。
いい加減にしないと痴漢だって叫ぶわよ?」
それでも追いすがってくる。
しつこい。
「あれ、初姉ぇさん?
お兄ちゃんと何してるの?」
「……ん?」
聞いたことのある声だ。
観れば、海水浴場で出会った男の子、燦のことが好きな子だ。
「あら久しぶり」
頭を下げてくれたので、私も笑顔をして下げる。
小さい子と会話する機会は少ないので新鮮である。
「で、これ、あなたのお兄さん?」
「はい」
「こんな大人になったらダメよ?」
「はい」
「ちょっと待て、弟よ……」
そんな感じで突っ込みを入れてくるが、これが判らない時点で男としてダメだと思う。
「だって、列に並んでいる女子高生を他人の空似も判らずに声を掛けるようなお兄さんだからねー。
君は私の事、間違えなかったもんね?」
「はい!
初姉さんはもっと抜けてます!」
酷い言われようだが、同意だ。
「そんな正解した君には豚まんをあげましょうか」
「わーい」
喜んでくれる少年の姿にフフフと笑みが沸いてしまう。
ショタ気は無いのだが、純粋な子は好きだ。
しどー君も純粋ではあるが、最近、私色に染まってきている。それはそれで有りだし、私自身、しどー君色に染まってきているのでお互い様だとは思うが。
さておき、
「このお兄さんも初姉さんのこと好きなんだってよ?」
貴方と同じね?」
「え……」
ポトンと、豚まんが転げ落ちる。
幸い一個入りの箱をそのまま渡したので、中は無事だ。
意地悪い笑みを浮かべている自覚がありながらも、それを拾って再び彼の手に。
「本人に聞いてみ?」
「……お兄ちゃん、ホント……?」
私は少年を彼に向けて促す。
怯えるように少年が問うと、
「そうみたいだ」
そう答えながら、私を殺しそうな目線で見てくる、日野君。
おお、怖い怖い。
勘違いするぐらい似ている好きな人の姉に向ける視線ではないと思う。
とはいえ、兄弟仲を割きたい訳でも無いので、
「兄弟で同じ人を好きになるとか、仲が良いわね?」
それが最良かはさておきと自分たちの事を棚に上げつつ、頭を撫でてあげる。
すると少年は、戸惑いながらもそれを甘受してくれる。
「燦ちゃんの何処が好き?」
「マジメで、面倒見がよくて、でも見て無いと危なっかしいところ……」
妹よ、小学生にこう言われるのか……。
私はやるせない気持ちを覚えつつも日野君に視線を向ける。
「こう素直な子に妹をあげたいわよね。
曲がりなりにも大切な妹なんでね?」
ナデナデと弟君を撫でる。
褒められたのが嬉しいのか、えへへと顔を赤らめてくるのも初心で良い。
私は俺様系が嫌いなのだ。
「ちなみに、燦ちゃんには好きって言えた?」
「……まだ。
好きな人が居るって聞いて、言い出しづらくて……」
うん、初々しい。
こういう擦れて無い反応は援助交際では味わえなかったので、新鮮味がある。
「拒否される自分が怖いのかな?」
よくある問いだ。
結局告白しない理由なんかは、自分が傷つくのが怖いというのはままある。
けれども彼はフルフルと、横に顔を振る。
「彼氏さんのことを聞くと、嬉しそうで……」
なるほど、いい子だ。
相手の為に自分を引くことを小学生で知っている。
もうちょっと積極的でも良いとは思うが、こればかりは本人の選択だ。
しどー君は本当に魅力的だ、うん。
とはいえ、
「言ってあげたら、喜ぶと思うわよ?
付き合うかどうかはさておき」
「へ?」
「人はね、好意を向けられるだけで、好意を返したくなるものなのよ?
だから、君が妹のことを好きだと伝えてあげることは決して悪い事じゃないわよ。
もし、妹が君と向き合って断らず、無下にするようなら、私が殴り飛ばすから安心なさいな」
そう勇気づけてあげる。
これぐらいを少年にしてあげるぐらいは良いだろう。
私が素直に言えず危ない思いをしたようなことには成って欲しくないし、後悔もして欲しくない。
「……盛り上がっているところ悪いんだが?」
「誰だっけ」
私と少年の間に入ってくる彼に対し、本当に誰だっけ、っと思い返すのに時間がかかってしまう。
「日野・満だ!」
「はいはい。
豚まんを食べるのにあんたの弟を借りるわね?
少し妹の事で話したいし。
君はいいよね?」
「はい!」
っと、合意を取ったので誘拐しようと手を引く。
「ぇっと……ちょっと待って、待ってください!」
そんな私達の後ろ姿を慌てて追いかけてくる日野君であった。





