43.放課後な妹だけど、どうしようかな。
私、初音・燦が誠一さんを好きなのは性欲からではない。
大きいのは知っているし、想像するとお腹の奥が疼くが、それだけではない。
助けて貰った事実はあれど、それはきっかけで、確かに彼が良いと運命めいたモノを感じたからだ。
「大好きですよ?」
私はふとした拍子、例えば彼が私のことを観てくれている時に、好意を心から伝える。
すると誠一さんは、困った顔と嬉しさを滲ませてくれる。そんな誠一さんを見てると楽しくなるのだ。
とはいえ、
「姉ぇとメイドプレイしたそうで」
そう、私も付き合っている誠一さんは私の姉ぇとも付き合っている。
しかも姉ぇとは体関係込み、同棲という形だ。
それだけ聞けば姉妹丼二股野郎と言われかねないが、私が横恋慕したのだ。
私を見捨てたら私の人生を棒に振ると彼の良心を利用し、更には姉ぇの姉妹愛に訴えかけて私とも付き合うよう仕向けた。
つまり私が最低最悪で、誠一さんは全く悪くないのだ。それは良く自認しているが、罪悪感はまるでない。
それが恋だというモノだと思うし、相手に迷惑を掛けなければいいのだ。二股がダメなのは、そう社会良識がそうなっているだけで、事実上は二人でも問題ない。
さておき、今は某珈琲店、カウンター席で二人ならんでデート中。学校帰りに落ち合ったこともあり、私も彼も制服だ。
他の女の話をするのはどうかと思うが、渋い顔で甘いフラペチーノをすする誠一さんが見れたのでヨシとする。
「初音から何を聞いた……」
「結構、誠一さんが独占欲強いんじゃないかって話をですね」
頭を抱える誠一さんも微笑ましく思う。
今日は私も彼もメガネをしており、端から見たらお堅い印象のカップルであろう。
ただ中身はドギツイ内容で、
「姉ぇに、プレイ中に自分のモノだと言わせたとか?
この前のプロポーズもそれがあったからとか」
「……初音は僕のモノさ」
彼が絞り出すようにそう発言してくる。
言葉だけで見れば、やはり最低だ。
でも姉ぇも嬉しそうにのろけてくれちゃったので、羨ましくも思う。
だから、
「私も誠一さんのモノに成れればなと、そう思うわけですが」
そう更に最低な言葉で攻める。
そして誠一さんを見ると、頭を抱えてくれている。
まぁ、私も誠一さんのことと性欲以外を除けば常識で動くので、悩むのは良く判る。
「はぁ……僕はプレイボーイになりたいわけではないのだがな……」
っと、呟いて私を観てくる。
「正直、言っておく。
僕はまだ燦、君のことを決めかねている」
「でしょうね。
こんなに熟れた処女を食べていただけないんですから」
チラリとスカートたくし上げ中身をしどーさんに見えるようにし、挑発する。
「濡れてますよ?
据え膳ですよ?」
「はぁ……」
大きなため息。
とはいえ、いつものことだ。
性欲だけの人なら襲ってくれるシチュエーションだが、そもそもそんな人に私自身が好きになったりするかと言うと……無いだろう。
私だって、こんな風に男を誘うようになるなんて、つい最近までは想像できなかった。
「マンネリ気味なんですかね、私のネタ」
頬を膨らませながら、こーほーに口を付ける。
「……どういうことだい?」
「だってですね?
姉ぇとは新しいプレイを開発しているのに、私はいつも発情ネタだけじゃないですか」
「自分で言うのか、それを……」
「夜だって……姉ぇと一緒しかしてませんし。
そろそろ二人プレイを解禁して頂きたいかと」
頭を抱えてくれるので、言うだけの価値はあったようだ。
私の胸や口、手は誠一さんのモノを扱ったことがある。
でも、処女だ。
「確かにデートは重ねていますし、普通の男女関係で言えば順調と言えるみたいです。
この前も本屋さんで、お互いの趣味について理解しましたし」
「燦が結構、ドロドロな恋愛本が好きなのは意外だったが……」
「ジャンルというよりは作者推しですね。
ドラマを観て、そこからズブズブと」
脚本家を兼ねている作家先生の作品だ。
著者近影に小学生が映っていたが、あれは多分、お子さんか何かだろう。
「誠一さんだって、漫画とか読まない感じがしたのに、結構読んでいて驚きましたが」
「学校の友達に勧められたりしたからな。
とりあえず、有名どころは抑えているし、ある程度マイナーなモノも読んでる。
初音と付き合う前までは、日曜日空いてる時間で漫画ミュージアム行ったり、スマホで読んでたりしたからなぁ……。
最近、友達からは彼女持ちの裏切り者扱いだが」
乾いた笑いをする誠一さん。
誠一さんはオタクグループに属していたらしい。
一方、姉ぇはカースト一番上。
そりゃ、言われるだろう。
「クラスでキスをさせられた時なんかはもう、後で殺されるかと」
「ははは、何やってるんですかね、あのビッチ姉ぇ」
羨ましすぎる。
「そしたら今日の終わり、私にもキスしてください」
「どうしてそしたらなんだか……」
「いいじゃないですか、減るもんじゃないですし。
ファーストもセカンドも、誠一さんにさしあげましたし、それに姉ぇとは違うことが理解出来るかもしれませんよ?」
誠一さんは相変わらずお堅い。
とはいえ、姉ぇが崩せてるように私との距離も少しずつ縮まっている。
ちゃんと今もすぐに拒否は出さず考えてくれている。
「フラペチーノ少し貰いますね?」
「それは減ると思うが」
「良いじゃないですか。
美少女との間接キスですよ?」
こんな感じで間接キスとかも出来る。
あまりそれで意識してくれていないようなのは悔しいが、意識の垣根を低くしていくのは順調だ。
「まぁ、美少女なのは認めるけどな」
「……そーいうとこズルいんですよね、誠一さん」
とはいえ不意にこんなことを言われるので、嬉しくなってしまう。
「ここ数週間、私とのデートは楽しいですか?」
「楽しいのは否定出来ない。
こんな風に誰かと経験を共有できるのは楽しい。
後、やっぱり姉妹とはいえ、初音と燦は違うという所が良く判る」
「例えば?」
「燦は犬っぽい」
雌犬という単語が浮かぶ頭はどうかした方がいいと思う、自分。
「構って欲しいと懐いてくれるのが、嬉しいわけでな」
「……えへへ」
女性を扱うにしては最低な発言だが、私はどうしたって嬉しくなってしまう。
「わんわん。
犬らしく、頭撫ででください」
「……まぁ、それぐらいなら良いさ」
ポンと、頭に優しく手を乗っけてくれてサスリサスリとしてくれる。
毛の先からサワサワと触ってくれる感触が気持ちよくて、ポフンと誠一さんの胸元に頭を寄せてしまう。
拒否されるかな? っと思ったが、そのまま肩まである髪の毛をすいてくれる。
こういう所、優しいし、嬉しい。
「初音といい、燦といい、奇麗な天然茶髪だよな……」
「最近はちゃんとトリートメントしてますから!
昔はそれこそ、親のモノと一緒でしたが……」
私は変わった。
「誠一さんのためです、そしてお陰です」
本心からの笑顔を向ける。
誠一さんに会わなければ、こんな私が居るとは気づかなかった。
女である自分をだ。
「……それは光栄だな」
見上げれば、顔を赤らめて照れてくれている。
好意にちゃんと反応してくれる誠一さんが好きだ。
「誠一さんは私にして欲しい事とか無いんですか?
何でもしちゃいますよ?」
姉ぇみたいにエッチな事でもという言葉は飲み込んだ。
今は私で勝負しているのだ。
「今のところはこのままで」
「わふっ」
ポンっと私の頭に手を乗せてくれるので嬉しくなってしまう。
「んじゃ、そろそろ行こうか」
「はい」
私の頭から手が離れる。
今まであった温かみが消え、寂しく思える。
ただ、次に私の手に温かみがくる。
「ふふっ」
彼の手で私の心が嬉しくなる。
だから、抱き着いて、私の大きな胸で彼の腕を包み込んでやる。
少しでも私の高鳴った心臓の音が聞こえるようにだ。
「それじゃ、燦、ここで」
しかし、その時間は短い。
すぐに京都駅の一番奥まったホームについてしまう。
「楽しい時間はすぐ、過ぎてしまいますね」
そう言いながら、私は彼から体を外す。
ふと、ぐいっと手を引かれるので、見れば誠一さんが真面目な顔をして、私に眼鏡の奥から目線をぶつけてくれる。
「燦」
「はい……?
んっ……♡」
軽く触るだけのキス。
離れ、私は驚きを隠せなくなる。
「確かに初音とは違うよな。
柔らかさが違う」
「あ……」
この人、ホントに真面目である。
私が言ったことを、ちゃんと彼が言ったことをしてくれた。
そう、私を観てくれるためにキスをしてくるたのだ。
嬉しくなり、女である部分を刺激される。
「燦、そろそろ電車だ」
「わふっ!」
頭にポンと手を乗せられ、正気に戻される。
危ない発情モードにはいりかけた。
「それじゃ、誠一さん、また土曜日!
大好きです!」
「ああ」
ブンブンと犬の尻尾のように手を振って別れる。
「……やっぱり誠一さん、ズルい。
でも好き……♡」
私は誰に言うでもなく、電車の中で呟きながら、唇を小指でさすった。
まだ、誠一さんの温かみが残っていた。





